超強力髭剃りクリーム

 女性の化粧ほどではないだろうが、男性にとって毎朝の髭剃りは結構面倒なものである。
 タカシの場合、電気カミソリではなかなかスッキリ剃れないため、石鹸を泡立て、安全カミソリを使って剃っている。人によって違うだろうが、毎朝確実に十分以上かかってしまう。時間がもったいないと思うのだが、あわててやると必ずケガをするので、慎重にならざるを得ない。
 何かもっとラクな方法はないものかと思っていたら、通販で『超強力髭剃りクリーム』というのを見つけた。一種の脱毛クリームだが、これを使うと一ヶ月間は髭を剃らなくていいらしい。ちょっと高かったが、タカシは思い切って買うことにした。

 商品が届いた翌朝、さっそく使ってみた。面白いように髭が溶け、ツルツルの肌になる。
 ところが、そのあと、いつもの習慣でそのままジャブジャブと顔を洗ってしまったのだ。タカシは、鏡に映った自分の顔にギョッとした。眉とまつ毛がない。見るからに凶悪そうな顔になっている。次の瞬間、大きなクシャミが出た。どうやら鼻毛もなくなったようだ。
 会社を休むことも考えたが、電話で説明したところで信じてもらえないだろう。タカシは仕方なく、お忍びの芸能人のように大きめのサングラスをかけ、マスクをして出勤した。
 会社で事情を話すと、最初は笑っていた同僚が、次第に目を合わせなくなった。さすがに眉毛のない顔はコワすぎるようなので、女性の同僚に化粧で眉を描いてもらった。幸い事務系の仕事なので、たまの来客さえ誰かに代わってもらえば、差し障りはない。
 だが、気を付けないと、ちょっとでも汗をかくとすぐ目に入ってしまう。それに、ずっとマスクをしていないと、乾いた空気を直接吸ってしまい、咳が止まらなくなる。普段、タカシが気にも留めなかった、まつ毛や鼻毛の大事さが良くわかった。
 そうやって二ヶ月間つらい思いをしたが、ようやく眉やまつ毛が元に戻ってきた。その間、髭はすでに何回か普通に剃っていた。『超強力髭剃りクリーム』を使うのは、やはり、まだこわいからだ。これでは、高額を支払ったのに全然元が取れていない気がするので、タカシはもう一度だけ使ってから捨てようと考えた。
 慎重に、慎重に、クリームを塗っていくと、みるみる髭が消えていった。このあと、不用意にジャブジャブ顔を洗ったりしないように気を付ければいいのである。
 しかし、鏡に映った自分の顔を見ていた時、タカシは頭の寝グセが気になって、クリームの付いた指でつい髪の毛に触ってしまった。
(おわり)

超強力髭剃りクリーム

超強力髭剃りクリーム

女性の化粧ほどではないだろうが、男性にとって毎朝の髭剃りは結構面倒なものである。 タカシの場合、電気カミソリではなかなかスッキリ剃れないため、石鹸を泡立て、安全カミソリを使って剃っている。人によって違うだろうが、毎朝確実に十分以上…

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-03

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