とある生徒の安眠生活
ある朝のなんの変哲も無い部屋の中で声が響く
「桃李!いつまで寝てるの!?早くしないと遅刻するわよ!」「あー、もうそんな時間?」桃李と呼ばれた男が気だるそうにそう言って体を起こした。「…起きてたならさっさと起きなさい!ほら、早くご飯食べて」母親らしき女が男を急かす。しかしかまわずに準備をして男は学校へと向かう。
「西園寺!おまえまた遅刻だぞ!」担任らしき男が声をあげる。「すいません、また寝坊です」西園寺と呼ばれる男が眠たそうに言って自分の席に向かった。HRが終わり始業のベルが鳴り1時間目が始まった。
西園寺桃李という男はいつものごとく授業を寝て過ごした。そして昼休みになり自らの空腹の合図で体を起こし、学食へと向かう。その教室への帰り道のトイレの前でなにやら不穏な空気を感じ、少し早足になる。
午後の授業が始まり、寝ようとしたが隣から嫌な空気を感じ、その日の午後は寝られなかった。仕方なく寝たふりで済ませ、放課後に家に帰り一眠りした。
翌日になり午前を同じように過ごし午後も寝て過ごそうとしたが先日と同じで寝られなかった。
このまま安眠を邪魔されても困ると思いその翌日、西園寺は隣の席の子を観察することにした。
早速観察を始めた西園寺だが午前中続けていても何も起きず、何もないかと思っていると昼休みに三人の女が隣の女を誘いトイレへと向かった。西園寺は気付かれないようその後に続く。
トイレの前で待っていると先に三人の女が出てきたが隣の女は居ない。昼休み終了5分前になるとようやく隣の女が出てきた。その体には殴られた痕跡が残っており、ボロボロの状態だった。
教室に戻ると先日と同じような陰気を感じた。横目で見るその女はやけに小さく見え、顔も少しおさなっぽく思わず守ってあげたくなる感じだった。
そして放課後になり家に帰ると、この状況をなんとかしようと、携帯を手に取り(明日土曜で暇だしちょっと会えねーかな?)とメールを送る。それから2時間が経ち5時頃に西園寺の携帯が鳴り、見てみると(桃李がそんなこと言うなんて珍しいね。うん、いいよ。じゃあ10時に公園で待ってるね)と返信が来ていた。
翌日、桃李は約束の10分前に目が覚め、寝坊したなと思いながらも特別急がずに、携帯をポッケに入れ部屋着のまま家を出る。5分遅れで公園に着くとベンチに座っている女を見る。その様子は見るからに嬉しそうな顔をしていたが、桃李はそんな様子も気にせず隣に座り、挨拶をした。「よう、透華」「おはよう桃李」女が嬉しそうに返す。因みにこの女の名前は風斬透華。桃李の小学校からの幼馴染みである。
「急に呼び出して悪いな。今日はちょっとお前に頼みたいことがあって」それを聞いた風斬はまた?といった具合に「桃李は昔から…」と言い「で、頼みって何?」と聞いた。「お前に紹介したい子がいるんだけど、月曜にでもそいつに会ってほしいんだ。」「それはいいけど、とうすればいいの?」「月曜に学校に行ったら屋上に行ってくれ。多分そこにいると思うから」「分かった。それでその子ってどんな子?」風斬が聞く。「うーん、柚木舞っていう女の子なんだけど小動物っぽくてちょっと放っとけなくて…」と桃李が答えると「ふーん、そうなんだ…」と風斬がトゲトゲしく言った。しばらくの沈黙の後にその沈黙を破るように桃李がじゃあと挨拶した。風斬もそれに返して二人はその場を去った。
月曜になり風斬は学校に着くと桃李に言われた通りに屋上へと向かった。屋上への扉を開けると一人の先客がそこにいた。
少し前の話になるが、柚木と呼ばれる少女が学校に着き、下駄箱を開け上履きを取ろうとすると1枚の紙が入っていたそこには「ちょっと大事な話があるので屋上に来て下さい」とだけ書いてあった。柚木は書いてある通りに屋上へと向かった。それから少し経ち、扉が開き誰かが入ってきた。
「あ、柚木さん…?」と風斬が聞いた。「はい…」と柚木が少し小声で答える。「私は風斬透華。よろしくね」風斬が自己紹介をした。それに合わせて「…柚木舞です…」と柚木が少し弱々しく自己紹介をした。
「私のことは透華って呼んでいいよ。私も舞ちゃんって呼ぶから。」「は、はい…」「えーっと、早速だけど最近何か困ったこととかない?その…たとえば誰かが寝てばかりで迷惑してるとかでも」柚木はそれを聞くと自分の隣にいる男が頭に浮かび「えーっと、確かにいつも寝てて真面目にやる気あるのかとは思いますけど…でもそのおかげで私から気を使わなくていいのかなと…ちょっと…気が楽というか…」と正直に思ったことを言った。「でも、最近は何かと観察されてる様な気がしてちょっと…」と続けた。それを聞き、風斬は「観察!?」と驚いた様子を見せる。そしてしばらく考えた後に「じゃあ、何かされたりしたら私に相談してね!!」と強く言い放った。「は、はい…」と柚木は気圧されたように返事をした時に始業のチャイムが鳴る「やばっ。早く行こ!」と風斬が言うと二人は教室へと向かった。
その日の昼休み、風斬は柚木を昼食に誘おうと桃李達の教室に足を運んだ。中を見回してみたが柚木の姿は見えない。自分の席で寝ている桃李の近くまで行き柚木舞の居場所を聞こうとすると桃李がこちらを向いて「柚木なら近くのトイレに行けば会えると思う」とこちらが言う前に言った。西園寺の言う通りにトイレへと向かうと中から3人の女が出てきた。それからしばらく待っているとボロボロの姿の柚木舞が現れた。
「ど、どうしたの!?」取り乱した様子で柚木に聞くと「…何でもないです」といつにも増して弱々しい声で柚木が答える。「何でもないって…でも…その姿」と、透華が問いただそうとすると「本当に何でもないですから!」といつよりも強い声で柚木が言い放ちその場を逃げるように去っていった。その様子を見てなぜ桃李が舞に自分を紹介したのかを解釈した。
さてここからは風斬透華目線で話を進めていこう。
桃李が自分を当てがった理由(私が解釈した)に不満はあったが、なんとか舞ちゃんの支えになりたいと思っている自分がいることも気付いていたので特に気にはしなかった。
その翌日、いつもより早く家を出た私は校門で舞ちゃんを待った。昨日の体験からいつもの時間じゃ舞ちゃんの方が早く来ることは分かっていたからだ。少しして舞ちゃんが登校して来たのでその方向を向いて挨拶をした。そして舞ちゃんと合流して一緒に教室まで向かった。と言ってもクラスは違うので舞ちゃんを教室に送って自分のクラスに行くだけだが。休み時間まで押しかけるのは迷惑かと思い、教室に居たが昼休みになると真っ先に舞のクラスに向かい昼食に誘う。放課後には一緒に帰ろうと(家が真逆のため校門までだが)誘い、他者の入る余地を与えようとしなかった。
その翌日も舞ちゃんに合わせて登校し、合流すると舞ちゃんを教室まで送り自分のクラスに向かう。そして2限が終わった休み時間に舞ちゃんの所に遊びに行く。昼休みになると真っ先に舞ちゃんのクラスに行き、昼食に誘う。放課後は校門まで一緒に帰るといった日々を続けていた。
それから約一週間が経った頃、昼休みまでは何の問題も無かったが、放課後に一緒に帰ろうと誘うために舞ちゃんのクラスに行ったが、舞ちゃんがいない。近くにいる桃李にどこに行ったかと聞くと例の女3人に連れられて出て行ったと答えた。それを聞いて最初に見かけたトイレを思い出しそこに行こうとすると、桃李に呼び止められ「多分体育倉庫にいると思う」と言われた。なんでそう言えるの?と聞こうとしたがそれどころではなく、他に手掛かりもないのでとりあえず言われた通りに体育倉庫に向かった。
それから数分後に体育倉庫に着き、そこには確かに舞ちゃんと三人の女が居た。のだがその様子はいつもとは違う様子だった
服は脱がされて裸になり、殴られ、蹴られた跡があり、瞳は涙で腫れたように赤くなっていた。その様子を見て風斬は思わず、柚木のもとへと飛び出していた。「大丈夫!?舞ちゃん!」その時に「じゃあ私たちもう帰るわ。また遊ぼうね」となんでもないように3人がその場を去っていった。三人が出て行ったところで改めて「大丈夫?」と聞く。「大丈夫です。」と舞が答えるがその声はいつもよりも弱弱しく、その様子は今にも泣き出しそうに見えた。そんな舞の様子を放っとくことはできず、部活を休み舞を自分の家に連れて行くことにした。
お互いに何も話せず、無言のまま風斬の家に着いた。風斬が玄関にあがり、舞のほうを向き「舞ちゃんもあがって」と言って舞をあがらせる。「お邪魔します」と小声で言い、風斬に付いていくままに風斬の部屋へと向かった。部屋に着くと二人は、中に入り適当に座った。そして沈黙が流れ、間が持たずに風斬が「何か飲み物でも持ってくるわ」と言って部屋を出る。その間舞は何をしていいか分からず、部屋を見回したりして適当に時間をつぶした。しばらくして風斬がクッキーとカルピスを持って戻ってくる。それを舞の前に置き、自分はその向かいに座り話を切り出した。
「何があったの?」その問いに対して舞は答えられず、沈黙が流れた。その沈黙をやさしくやぶるように風斬が口を開く。「お願い。何でも話して。私舞ちゃんの力になりたいの!」そこで舞も口を開く。
「何で私のためにそこまで…」それを聞き風斬は舞に怒りをぶつけるように、言い放つ。「何でって…友達だからに決まってるじゃない!少なくとも私はそうおもっているよ!」風斬がそう言うと舞の弱弱しかった様子が少しずつ元気になっていくように見えた。「友…達…?」「そうだよ!友達が困ってたら心配したり助けるのは当たり前じゃん!」それを聞いて「…私たち、友達なの?」と確認するように舞が聞く。「そうだよ!」と風斬か強く返事をする。その返事を聞いた舞の目から涙がポロポロとこぼれ落ちる。「あれ?なんで涙が…?なんで止まらないの?」と涙を拭う舞の体を風斬が抱き寄せる。舞は風斬の腕の中て泣き続け、風斬はそんな舞を何も言わずに抱き続けた。そして舞は落ち着くと「もう大丈夫」と言って風斬から離れる。風斬が「じゃあ、帰ろっか」と言い、二人は体育倉庫から出た。
二人で校門へと向かっている途中ふと思い出したように風斬が言った「そういえばもうすぐテストだね。私今回はあまり自信ないな。」「あ、あの、それじゃあ…一緒に勉強…しない?」ちょっと自信無さげに舞が言った。「本当?!」「うん。私の家で良かったら」「もちろん行くよ。今からでも」「それじゃあちょっと親に連絡してみる」と言って携帯を手に取り親に電話をする舞。舞の電話が終わると二人は妹の家に向かった。
翌日、風斬と舞が登校してきた。二人の目にはいつもなら考えられない光景が写った。西園寺が二人よりも先に来ていたのだ。これには、二人も驚きを隠せず、風斬は思わず「どうしたの?桃李がこんな早く来ているなんて珍しいね」と聞いた。「ちょっとな...」と言葉を濁し、柚木のほうを向いて「透華のやつ失礼なことしてなかった?」と聞いた。それを聞いて風斬が「ちょっと!失礼なことって何!?」と少し不機嫌そうに言い放つ。「失礼なことなんて何も。む、むしろ助けてもらったぐらいで…」と柚木が言うと、「そっか、でも風斬がなんかしたらいつでも言ってくれよ。」と冗談混じりに西園寺が言った。「なにそれ!私がなんかするわけないじゃん!」と怒ったように風斬が言った。そんな話をしながら三人は教室へと向かった。
とある生徒の安眠生活