tokyo

2/10
晴れ 風が強くて寒かった 髪の毛を綺麗に巻いたのにすぐに解けた ピンクの服、新しい靴を下ろした 大きなキャリーバックは運ぶのが大変だった どきどきしながら東京行きの切符を買ってココアを飲んで、本当の自分をうまい具合に見せられる程度の人と他愛のない話をした 男の人のところに行くとは言わなかった 誰にも言ってない 新幹線のなかはもうそんなに緊張しなかった もう戻れないと思うと、おとなしく座っていようとおもう 雪のせいで数分遅れていた電車も品川に着く頃には巻き返していた 街が、建物が多くなって東京駅に着いて、中央口に行かなきゃいけなかったのだけど中央北口改札を通ってしまった こんばんはだったかこんにちはだったか、言われて、はじめまして、って答えた キャリーバッグを代わりに引いてくれた 東京駅はキラキラしていてクリスマスみたいだった 写真、撮ったけどまともにピントが合っていなかったな タクシーを待っているとき、彼がたくさん紙袋を下げていて、その中にキョロちゃんのがあって、キョロちゃん?って言ったら、このお菓子、全部あやかのだよ、と言われた うれしかった わたしは多分にこにこしていたとおもう タクシーにのったことがなかったのでどきどきした 座席が低くてふかふかで、窓の外には丸の内、銀座、秋葉原、上野、浅草、とくるくる形を変える街が見えた 東京、とおもった タクシーの中で手を繋いでくれた タクシーの中で何も言わずに手を繋ぐのって、ありがちな感じだ、とおもったけどわたしも負けじと握ってくれた手を取っておおきいね、とか言った ありがちな感じ 
新御徒町、のあたりに入ったとき、止まれるところで止まってください、と彼が言って、わたしたちはタクシーを降りた 落ち着いた街だった マンションが多いし民家も多い コンビニに寄ってお酒を買って帰った いまどんな気持ち?って彼はわたしに何度も聞いた わたしは毎回少し考えて、たのしい、とかしあわせ、とか悪いことしてる感じ、とか答えた 新幹線、各駅停車だったんだね、昨日の夜は眠れた?とか、スカイツリーどこから見えるの?ここが最寄駅だよとか話してたら着いた 青い扉のマンション、6階 エレベーターから降りるとスカイツリーが見えた お邪魔します、と荷物を先に入れて、狭い玄関、お風呂、狭いキッチン、白いドア、本棚と机、お酒の瓶、黒のベッド、半分しかないカーテン、加湿器。
コートを脱いでベッドに座ったら大人っぽいね、と言われた 2回くらい、キスして、普通のキスだったけどどきどきして、目が、じっと見つめる時の目が、見下すような支配するような冷たい目で、ぞくぞくした すき、とか付き合ってください、とかはいわなかった ごはんを少し食べて セックスした 普通のセックス、口の中のものも、あじけない、こんなものかなと思ってお風呂に入った 途中から一緒に入って、湯船に二人で浸かるとお湯がザバーってあふれるの、そういうのいつぶりだろ、って思って、ベッドの上でくっついてたら爪の匂いを嗅ぐからどうしたのって聞いた 昔ガソリンスタンドでバイトしてたんだ、ガソリンの匂い結構好きで、ふゆのガソリンスタンドとか、懐かしいって話してくれた わたしもすき、と言って暖かくて厚い胸に乗っかった 自然に(可愛子ぶったりいい子ぶったり誘惑したりということが)照れずにできた 頭を撫でられながらイッテQを観た CMのたびにキスした 笑い方が好きだと思った 恋人?と聞いたら、俺はそのつもりですけどね、と照れながら言われてふふ、と思った 眠る前にもう一度セックスした 彼はびっくりするくらいわたしを強く抱きしめてびっくりするくらい早く眠った わたしはもぞもぞ動いてちょうどいい場所を何回か探して、でもなかなか眠れなくって夜中でも明るい窓の外をぼーっと見てた 知らないうちに眠っていた あったかくて気持ちよかった

2/11
朝、寝返りを打っても抱きしめてくれるのがうれしかった 浅い眠りの中でタクシーに乗って知らない場所で捨てられる夢を見たから、現実はそうじゃないと思いたくってまたセックスした なんというか、わたしは捨てられたくなくって、何回だっていらなくなりながら本当にほしいものを探したくって、たとえ捨てられそうになったとしても絶対泣かない、そうなの、もういらなくなったの、じゃあわたしもいらないって思ってたい あなたはわたしを捨てられない
また録画したイッテQをみて、見終わったら支度をしてお寿司屋さんに言った 上野のあたり、30分くらい並んだ 待つのが苦じゃない人といるのはたのしいな 外に可愛い猫がいた 飛行機も見た 空が狭いな でもこれくらいでいい いっぱい見えたって、別にすぐに飛んでいけるわけじゃない いい天気だった お寿司は今まで食べた中で一番おいしかった 人の手で握った、という感じがした お茶もあったかくておいしかった おててでお寿司を食べるやり方を教えてもらった 反対向きにしてお醤油をつけるみたい パパとママのことを話した 母親、という人間の中にも、母親の部分と女の部分と、きっといくつも顔を持っていて、だからうまくいかなくなってしまうのだよね、エヴァのリッちゃんの母親がそうだったねと話した 出会って1日も経っていないのに、わたしなりにきちんとお話できて、気疲れもしなくて、びっくりした お寿司屋さんのあとはアメ横に行ってゲーセンを見たりおもちゃ屋さんを見たりした 昔飼っていたうさぎを死なせてしまったお話をしたら、うさぎのフィギュアを見つけてきてはこれ買って帰ったらって言ってた せまい、ごちゃごちゃした店内でばれないように体に触れてくれた こらこらって笑いながら満更でもないわたし たのしかった 市場みたいなところでカップに入った苺を買ってもらって食べた 苺を食べているわたしの写真をたくさん撮っていた あまり写真は撮らないと言ってたのに 上野駅のあたりは人が多くて東京という感じがした 今度はどうぶつ園にも行きたいな 寒かったので手袋を買ってもらった わがままだからなかなか決まらなかった 自分で買おうとしたら、人に買ってもらうと気持ちが違うでしょとお金を出してくれた おいしいお菓子屋さんでプリンとケーキを買って、漬物屋さんで千枚漬けを買って、二人乗りで帰った 自転車に二人乗り、夜道で手を引かれて歩いていると、道なんて全然覚えられない てくてく後ろをついていくか、後ろに座って流れる景色を眺めているだけだから なにもしていない 全て揃っている空間に閉じ込められて、何が足りないのかというとシャンプーくらいなもので、食べるものも読むものもある、暖かいし優しいし嘘だし甘ったるい このままどこまでもこうやって、何も見ないまま彼の後ろに乗っかって生きていくことを本気で望んでしまいそう、嘘すら信じてしまいそうなことがこわいとおもう おうちに帰ったら首輪をはめて制服を着てセックスした、シャワーを浴びて、お昼寝をして、起きてまたセックスして、シャワーを浴びた 昨日駅で買ってくれていたごはん いくらとかにの乗ったスパゲッティーを食べて抱き合いながらテレビを見た セックスして一緒にお風呂に入った わたしが髪と体を洗って、呼び出しボタン、というのを押すと彼が入ってきてくれる 彼が好きな小説の話をしてくれた 少年犯罪の話 普通の子の中に潜む狂気は恐ろしいねと言ってた 顔をしっかり見つめながらセックスをしたいと思ったのは君が初めてだよと言われて嬉しかった 今までのことは聞かないしそもそも本当に初めてなのかは知らないけどそんなのどうでもいいね 知らないうちに眠ってしまった 

2/12
朝起きてすぐにセックスした だいたい、夢と現実の狭間に彼がわたしを呼ぶ声が入ってきて目を覚まして、そうするとすぐに彼がパジャマの裾を捲るからわたしは寝ぼけ眼で舐めてあげる 俺の赤ちゃん、ってあたまを撫でながら 甘い吐息が朝のけだるいからだに溶ける 上から下へ舌を這わせて、急ぐみたいに重なって、快楽に溺れてすこし苦しくなったくらいでわたしはやっと目が覚める ふたりでシャワーを浴びて、わたしはベッドの中でニュースを見ていた 天気予報は関東 彼は洗濯をしたりお掃除をしたりしてくれていた お仕事に行く格好、かっこよくてにこにこしてしまった 行ってらっしゃいは玄関でした わたしは裸足で、彼は靴を履いて、キスをした 彼の好きな本を読んだ、お菓子を食べたり少し眠ったりした 眠るのがこわい 知らない場所で一人で眠ってしまったらもう二度とここに帰ってこられないような気持ちになる こころもとない、と彼も言った ずっとここに居られたらいいのに でも、これからも、とか、このまま、とか、ずっと、という言葉を使った瞬間にわたしたちの中の未来が消えてしまう気がして使えない いまもそう、そしてきっと、彼もそう 
カレー作るぞ!という連絡が来て、材料を買って帰ってきたのだけどお米を忘れたというので一緒に近所のスーパーに行った 苺のポッキーと雪見大福を買ってもらった おうちに帰って今度は炊飯器がないというので頑張って土鍋炊きの方法を検索したのだけど、面倒になったらしくピザ取ろう!と言ってピザを取った 炊飯器はアマゾンで買った ピザをベッドで食べながらテレビを見た お酒を飲んでいた お風呂に入って、出て、問題のあるレストランを見た この日も、セックスして眠った 体の重みとか、寝息とか匂いとか抱きしめる力とかが愛おしくて、足を絡めて抱き合って、寝息を感じながら腕の中で眠った それがあたりまえになって、離れて、そうじゃないのがあたりまえになって、悲しくて寂しくてわたしは羽交い締めにされていたかったのに

2/13
昨日と同じような朝、抱き合って、キスして扉が閉まるまでわたしはあなたのことみつめてるの 出かける前にわたしをベッドに座らせて、ピンク色の首輪をかう いいこにしててね、ごはんちゃんと食べるんだよと言って出てゆく 
昨日一緒に見たドラマの事、わたしが過去に言われたことばかりで泣きそうになった 迷わず赤やピンクを選べる人、人生何回目ですか?ってわたしも思ってたから、思ってる側だったから 黒ばっかり着てたし、可愛いのとか似合わないと思ってたし、自分のことブスだと思ってたし でも、ピンクを選んだり白を好んできるようになったりしたのは、いろんなことを知って、知っちゃって、諦めちゃったからなの 女ウケしたってお金が貰えるわけじゃない、女友達が結婚して養ってくれるわけじゃない、電車で痴漢されるのは短いスカートはいてる女が悪い、セクハラとか、いちいち気にする女ほどブスだしモテない、モテたかったら、愛されたかったら、愛されてるって称号がほしいなら、媚びて、許して、受け入れて、消化して、へらへら笑ってどうにか生きてくしかないじゃないですか 永遠とか運命とか奇跡とか?そんなのあるわけないじゃないですか純愛とか エグザイル系の、見た目ちゃらそうだけど中身は健康的だし一途だしバカ正直だしいいひとですよ、みたいなわたしの大っ嫌いなタイプの男がかっこいいかっこいいって言われてるのとか見て、だったら男に殴られてる方がなんかマシっておもったり でも絶対そんなの周りにいわないし、男に蹴られた話より男の子にご飯食べさせてもらった話をわたしはするし、男に裏切られた話より男の子に花束もらった話をするんです、わたしは だってそっちのがつまんないじゃないですか、みんなが面白がるのって不幸な女の話だから、わたし死んでもそんな話バカ女の前でしないし、とおもって わたしだけを愛してほしいとか思えば思うほどだめになっていくんだもん 女の敵は女だよ、わたしはたくさんの女に嫌われたな 好きでもないつまんない男の子に媚びて、でもそれで手に入るのって自販機のジュースくらいで 馬鹿なふりすんなって言われた 全部わかってるくせに、全部諦めてるくせに、男の前でだけ馬鹿なフリして愛想振りまいて得意料理は肉じゃがです、浮気は一度は許します、好きな色はピンクですって 肉じゃが、練習したよ、男の子に食べさせる為にね 浮気は許すって言ってた、縋り付いてあげる女の子演じてた、だってそうして欲しそうだったもん ほんとは芸能人にも嫉妬するくせにね、そういうの、一番傷つくくせにね、心の中がぐちゃぐちゃになるくらいそういうの許せないくせにね ピンクが似合う顔になろうと思ってお化粧頑張ったよ ナチュラルメイク、清楚系ビッチとか言われても死んでもギャルメイクなんてするかって思ってた 脳みそや、心のあちこちを麻痺させていたら自分がどんな人間かわからなくなった、でもいいや、自分の本当の気持ちになんて気がつかないほうがいいんだって思って都合のいい女の子でいて、でも時々ね、なんでこの人の自己満足に私が付き合わなきゃいけないのって思ったりして、でも、いやでも苦しんで、わたしは負けたけど負けたほうが可愛いからいいんだって言い聞かせて苦しみながら可愛い色を選んできたな もはや強迫観念みたいに かなしいことではないよ あの頃のわたしは、ああいうくだらないことでしか愛を確認できなかっただけ 男の子からの愛情に賭けてそれに負けたの 信じるということにおいては、信じるから裏切られるのだからもう誰も信じないでおくか、裏切られてもいいと思える人に出会うかしかない ピアノの鍵盤なんて叩けばそれなりにきちんと音が鳴ると思ってた 不協和音は美しいものだと思ってたわたしが、ビルの隙間から見える青い小さな空に同化していきそうで、今やもうそれは止められないもので、ほんとうにそれがこわい わたしはね、あなたとはなれることよりも、あなたといるときのわたしと離れるのがさみしいのかもしれない そういうの、許してくれる?コーヒーをこぼさないでいられたことでわたしの中の何かが、たいせつにしてきた傷がこの町のものになってしまった気がした 殺されてきたものたちがどうか報われますように どうか誰かにとって、今も優しい都合のいいものでありますように 愛されることにしっかり疑いを抱いておける内に。いろんなこと終わらせなきゃ。
夜はパックのご飯を買ってきてふたりでカレーを作った 台所でお酒を飲みながら玉ねぎを切ったりした お酒のせいで笑い上戸になっていて何も面白くないのに笑いが止まらなくって、台所を出たり入ったり、興味津々の子供が来た!って言われてけらけらわらって、すごくしあわせな時間だった カレーはおいしくっていっぱい食べられた セックスしてポニョを見るぞとふたりでベッドに入ったけど開始からまもなくで二人とも眠ってしまった

2/14
明け方頭がずきずきしておきた、お酒とセックスだもんな、と思ってまた眠って、そしたら治っていた 朝はまた同じように始まった シャワーを浴びて支度をして、浅草に行った 仲見世通りを歩いた 揚げ饅頭を買ってもらって食べて、煙を浴びて、境内のところでお財布の中身ぶちまけて、おみくじの結果は凶 最悪だったけど全然最悪じゃなくてにこにこしながらお神籤結んだりお守り買ったりした
人としておかしいって言われたことあるんだって話を仲見世通りでして、ふうんって、花やしきに向かって歩いて、入った 日本最古のジェットコースターはお休みで、わたしたちはちっちゃい観覧車(いきなり反対回りをはじめたりはやく動いたりするのが怖かった)とかに乗って、一気に上に上がる、心臓がふわってなるのにも乗って、まっすぐの場所にスカイツリーが見えて、喫煙所の前のテラスであったかい日に当たりながら、煙草を吸い終わってお待たせって帰ってくる彼のことを待ってるのがすごく幸せだった この場所にいる人たちはみんな幸せなんだろうな、このままわたしが走って逃げたらどうなるかな、彼は必死で探して追いかけて抱きしめてくれるかな、わたし逃げたりしないけど きっと、全部わかったみたいな顔で傷ついてないよ、おうちに帰る準備したらって言うんだろうな、そうしてわたしはすごくかなしくなるんだろうな わたし逃げたりしないけど この世じゃないみたいだった みんな笑ってて太陽が照らしてて作り物の小さな世界にいて、胡散臭いしあわせ、そこから突きつけられる現実に見立てたビルが見えて、怖かった 現実よりも、わたしの立っている場所が怖かった ああ、わたし未だにしあわせこわいのね、ごめんね 振り向いておかえりって手を繋ぐまで、なきそうだった
遊園地の中のご飯屋さんでわたしはあったかいココアを飲んで、彼はお昼ご飯にラーメンを食べて、こわかったねって話した 遊園地、20万円で夜中の間貸切営業ができるらしい 素敵だった 浅草を抜けて、隅田川沿いを歩いた そのあたりは整備されていて、優しい休日の匂いがした 川沿いを歩きながらスカイツリーを見て、アーティスティックな矢印の形の椅子に座って 行っちゃおうか、というのでスカイツリーまで歩いた 途中の橋の上で、いくらもらったらここから飛び込む?というので200万、と答えた 川がどれくらい深いのか、岸までどれくらいかかるか、そんな話をした わたしはまだやったことがないからわからないけど、バンジージャンプとか、やれって言われたらできると思う 足がすくんだりするかもしれないけど、死んでもいいなとよく思うので、そんなに恐ろしいことじゃないきがする いつかしてみたい スカイダイビングも スカイツリーが近づくにつれて、道が舗装されて綺麗になっていて、二階建てのはとバスが通ったり、スカイツリーによる日照問題について話したり、そうこうしているうちに呆気なくスカイツリー駅に着いた 白くて華奢で繊細だと思っていた骨組みは、こわいくらいがっちりしていて太くて、そうでなければ支えられないものね、と思った スカイツリーの横の、すみだ水族館に連れて行ってもらった クラゲがメインといってもよいくらいたくさんのクラゲがいた あしが絡まってしまわないのかな、と思った 足が絡まってしまえばいいのに、とも思った くるくるまわりながらぴかぴかひかるクラゲがいて、光るクラゲの話をしてくれた そのあと、ナマコとか少し気持ちが悪いのを見て、伊勢海老を見て、ペンギンを見た ペンギンのおなかをたくさん見た そのあと、ペンギンパフェを買ってもらって食べて、プロジェクションマッピングを見た 大きな水槽に東京の街の夜景の中を泳ぐクジラの映像だった わたし、いまこの光の中の一つで生きてるんだと思うと、絶対に死ぬまでそのことを覚えておこうという気持ちになった お土産屋さんでえいのぬいぐるみを買ってもらった かわいい えいのぬいぐるみと喋って遊んでいるときはいつも子供、、と言われた スカイツリーは強風のため休止中、その日は諦めて、スカイツリー駅から電車に乗って浅草まで帰って、帰り道にあるおいしいからあげ屋さんでお弁当を買って帰った はやめのご飯を食べてセックスして その日は彼の月に一度の夜勤の日だったので一人でお留守番をしなきゃいけなくて、ベッドに買ってもらったぬいぐるみを集めて眠った 

2/15
早朝、部屋の電気がついて物音がして、髪を撫でられて少しだけ起きた、帰ってきてご飯を食べてるのを一瞬見た そのあと一緒に眠った
お昼まで眠ってカレー屋さんに行った ナンとカレーを食べて、マンゴーラッシーを飲んで秋葉原に連れて行ってもらった 歩行者天国になってた ドールのお店とかフィギュアとかいっぱい見て、ホモの本買ってもらって、ダーツ屋さんに行った ダーツ台にお金を入れてゲームを選んでやり方を教えてもらった 600からどんどん減らして0にするやつと、陣取りゲームみたいなやつ どっちも勝っちゃった 正面に座って煙草吸ってて、吐くときの顔が好きと思った まじまじと見られなかったけど、色っぽくて好き おうちのキッチンはいつも煙草のにおいがした KOOLのスッとするにおい ダーツで賭けたのはマッサージとぬいぐるみ ダーツが終わって、ゲーセンでぬいぐるみを取ってもらってタコライスを買って帰った 偽物みたいな街 偽物だけど 
ご飯食べて、ホモの本ちょっと難解だったから、うーん?って言いながら二人で読んで、お風呂で話して、セックスして寝た 眠る前、わたしたちはかわりばんこで歯磨きする 彼が歯磨きして、わたしも歯磨きを始めるとまねっこーって言われる 彼は電動わたしは手動 彼がうがいしてわたしがうがいしてベッドに入って彼が煙草を吸い終わるのを待ってる お待たせ、寂しかった?って布団の中に入ってきて抱き合う、足を絡ませるとき、右脚ちょうだい、っていう わたしの足を挟んで、わたしは彼の腕の上に頭を乗っけて抱きしめられて、息が詰まりそうなくらいわたしの体は全面が彼で、お母さんのお腹の中ってこんな感じなのかなって思ったりした あったかくて、わたしの鼻のあたりに顎があって、髭がちょっと痛かったけど 眠る前のキスは歯磨き粉とKOOLの混ざった味がした いつも いつもその味だった だからわたしは歯磨きが好きになった いつもの息から寝息に変わる瞬間をわたしは知っている 深い息を知っている 息遣いが聞こえる 耳に焼き付く 煙草のにおいとお酒のにおいと体の重さと熱が苦しくて好きで嫌で、嫌っていうか、それを好きになってどうせ離れたら恋しくなる自分が見て取れたから、だからもう好きになりたくないのに、なのにわたしはこの人のことが好きだと思った 先に眠ってしまったのでわたしは流しっぱなしになっていた映画、素直になれない女と本当の愛を知って死んだ男の、遠まわしなラブストーリーを途中から最後まで観て、寝顔に2,3回キスして、テレビと電気を消して眠った いつだって部屋は真っ暗にはならない

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いつもどおりの平日だった 行ってらっしゃいをして本を読んだ 見つけたのは昼だった 郵便物の名前と、いまわたしが呼んでいる名前が一致しなかった なるほど、と思った わたしは田舎の女子高生、しかも呼んだらくるような女の子だし、偽名を使うのはあたりまえだなと思って、納得した 納得して、そのあとどうしようと思った 普通の女の子だったら嘘つきとか言って泣くか責めるかするんだろうなと思ったものの、わたしはもうそれできないし、と思って途方にくれた 騙してるのはお互い様、わたしだって秘密はある そのほうが楽ならいまはそれでいい、この先言わなきゃいけない時までいいや、考えてついた嘘ならそれでいい、忘れて欲しかったらなかったことにするし新しく知って欲しかったらいくらでも知ろう、とおもった 偽物をいくら愛でても本物にはならないけれど、だったら偽物を愛せばいいでしょ 一番になりたい、わたしだけにして欲しいとおもうことは少し前にやめた 見て見ぬふりして傷つかないってできたのは、嘘もすきと思ったのは、わたしに失うものなんて何もなかったからだ 午後、再放送で昼顔を放送してた 最終回だったかな、嫌いなドラマだったのになぜかわたしは泣いたの ひとが誰かを想うこと、それによって傷つく人、恋愛なんてどれも同じだ 大きくみえたりちいさく見えたり、善に見えたり悪に見えたりするのは、好きな人のために当人が払った犠牲の数が多いとか少ないとかきっとそういうことだ 当事者のふたりはいつだって、自分と相手の幸せを考えてしまうから、そのために傷つく人間がいるのは当たり前なんだね
帰ってきてお帰りなさいをして抱きしめてもらったとき、どうだってよくなった どうだってよくなるのはおかしいのかもしれないけど、別に良かった いつも通りだったし、だからわたしもいつも通り すき焼きコロッケとおいしい白米、モニタリング観ながら食べて、ゆったりしてお風呂に入って昨日の映画の話をしてセックスして眠った それがわたしたちの生活だった ひとはすぐに、簡単に自分を取り巻く環境に適応してしまうもので、ベッドも恋人も温度も匂いも水の味も、あの日々のわたしたちにとってはなにも特別じゃなかった 特別な当たり前だった

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朝起きてからの流れはいつもどおりで、わたしは「特別な当たり前」の時間を過ごしていて、きっと思うほど傷ついてはいなかったし思ってる以上に傷ついてたと思うけどそれに気づかないくらいきっと幸せだったんだと思う ごはん食べて本読んで、夕方になっても連絡が来なくて帰ってこなくて、もし、もしね、これで彼が事故とかなにかあっても、きっとわたしにその情報が届くことってないし、わたしもどうやって知ったらいいのかとかなんにもわからないし、ここは完結しすぎているというか、ふたりで、ふたりだけで成り立っている関係というのはきっと簡単に始めることも終わることもできるの あるのは、わたしのからだと想いだけ、本当にそれだけ、それはきっとあまりよくないんだね
ひとりでごはんとお風呂、そしたら帰ってきて、また一緒にお風呂に入った もう一週間経ったんだよって話して、明日は映画だねって わかってたの いつまでも続けられることではない いつか終わるから美しいことはわかってて、その美しさって圧倒的だったんだよ わたしが今まで見たことないくらい美しい時間の終わりがあるはずなの、その終わりに向かっていくべきで、でもその一瞬を境目にわたしがみてたのって幻になっちゃう

tokyo

tokyo

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-01

Copyrighted
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