-奇跡はいくら?-
白鳥の歌シリーズ7
「どんなご用?」
女の子に気づくと薬剤師は尋ねた。
女の子は5歳位だろうか。
「私、ステフ。私の弟はアンドリューっていうの。
とっても小さくてかわいいの。
でも、彼は何か頭の中で大きくなっていく病気をもっているの。
パパは奇跡以外その病気を治せないと言っているわ。
だから、私、奇跡を買いたいの。ねぇ、奇跡はいくらなの?」
「御免なさい、ステフ。
薬局では奇跡は売り物じゃないの、かわいそうだけど
手伝えないわ。」
と優しい口調で薬剤師は答えた。
「ねえ、でもお金はあるの。
足りなかったらあとで残りは払うから、
奇跡がいくらするのか教えてよ!」
薬剤師の兄がそれを聞いていた。彼は女の子に尋ねた。
「君の弟はどんな種類の奇跡が必要なんだい?」
「分からないわ。」
ステフは目を見開いて答えた。
「私が知っているのは、アンドリューは重い病気で、ママが言うには
手術が必要らしいの。でもパパにはお金がなくて手術代を払えないの。
だから私の貯金を使いたいの。」
「どのくらいの貯金があるんだい?」
彼は尋ねた。
「1ドル11セントよ」
ステフは不思議そうな調子の声で答えた。
「今はこれしかないけれど、あとでもっと必要なら何とかするわ。」
「それはなんて偶然なんだろう!」
彼は一つウィンクするとこう言った。
「1ドル11セントは、ちょうど君の弟に奇跡を行なえる金額なんだよ」
そう言うとステフから片手にお金を受け取り、
そしてもう片手で彼女を抱え上げた。
「君の家に連れて行って、弟さんに会わせてくれない?
パパやママにも紹介してくれるかい?
君が欲しがっている奇跡を僕が持っているかどうか、確かめたいんだ。」
薬剤師の兄は神経外科の専門医だった。
手術は順調に終わり、まもなくアンドリューは健康を回復していった。
ステフの両親は、この医師の好意に甘えるという状況を、心から喜んだ。
「このお医者さんは本当に奇跡を起こしたのよ」と彼女の母は言った。
この話を聞きつけた新聞記者がステフに尋ねた。
「ねぇ、ステファニー、奇跡は一体いくらしたんだい?」
ステフは微笑んだ。
彼女は、この奇跡がいくらしたか、正確に知っていた。
―― 1ドル11セント!!
そしてプラス 小さな女の子の信じる心だった。
<了>
-奇跡はいくら?-