オリオン座の星降る夜に

北海道。とある港町の教会で僕は今、牧師をしている。
僕は一人の高校生から相談をうける。

勇気

北海道。古い港町の小さな教会。明治時代からある小さな教会である。
「いと高き所には神に栄光~。」
教会の日曜礼拝。
僕は今、牧師である。
このチャントを唱える時に僕は信徒一人一人の顔を見るように心がけている。悩みがありそうな信徒さん、久しぶりに顔を出してくれた信徒さん。祈りは人それぞれである。
司式が終わり信徒さんたちとの雑談。
「先生の話しよかったですよ。」
「ありがとうございます。」
詩音(しおん)ちゃん。ずいぶんと大きくなりましたね。歌声も素晴らしい。」
「娘に伝えておきますよ。鳶が鷹を生んだような僕には勿体ないくらいの娘です。」
久しぶりに尋ねた信徒さんとの雑談のあと中高生のグループにいた一人の高校生に僕は声をかけた。ちょと気になったのだ。いつもだったら声を大きく聖歌を歌ってくれる男の子。
「今日は元気なかったね誠君。」
「前原先生、ちょと相談事があるんですが。」
「どうしたんだい。じゃあ牧師館で話しを聞こうか。」
彼はとても思いつまった顔をしていたので僕は教会の隣にある牧師館に誠君を案内した。
僕は詩音(しおん)に執務室に紅茶をもってくるように頼んだ。
妻は婦人会のご婦人と談話していたので娘に頼んだのだ。
娘の容れる紅茶は旨い、母親譲りの腕前。
紅茶のよき香りが部屋中に広まる。
「ありがとう。」
僕は娘にお礼を言うと彼もお礼を言った。
「さて、相談って何かな?」
彼は僕に一つの手紙を見せてくれた。それはラブレターであった。今どき珍しいと僕は思った 。今ではメールや携帯でのやりとりが当たり前であるからである。
「僕はどうしたらいいんですかね?」
「君はどうしたいんだい?」
彼は考えていた。
「僕はそんなに持てる方ではないですし。冗談かなと思います。」
僕は暫く考えた。
僕もそうだった。僕もラブレターをもらった経験がある。
ただ僕と彼との違いは人に相談するということでる。
「はたして冗談かな?多分、この子は真剣だよ。」
彼はうつむいていた。
「手紙というのはね、相手に気持ちを伝えるものだと僕は思う。」
「とても勇気がいることなのだよ。そして誠君も勇気がある。」
「勇気?僕にですか?」
「そうだよ。僕が君ぐらいの時にラブレターをもらったことがある。」
「先生の奥さんにですか。」
僕と妻は高校の同級生であることは教会の信徒さんたちは知っている 。
あの頃の僕は何もできないでいた。
トラウマである。
「まあね。だけど僕は誰にも相談できなかった。僕と誠君の違いは人に相談したってことだね 。」
「高校生の時は付き合っていなかったんですか?」
「僕は当時、妻とは付き合っていないな 。恥ずかしながらね。」
「それにしても誠君は彼女と付き合う気があるのかい?」
「はいあります。」
「よし!!それでこそ男だ。」
僕は彼の背中をドンと押した。
僕が彼を送り出したあと妻がクスクス笑っていた。
リビングで誠君とのやり取りを聞いていたのだ。
「盗み聴きはよくないな。」
「あなたが恋の相談をうけるなんてね。」
(ひとみ)は目がちょっと怖かった。
高校の時の話しをしたからであろう。
「そうだね。でもね~、(ひとみ)さん彼、勇気あるね。」
「あなたも勇気があれば今頃、私たちどうなっていたでしょうね。」
僕は考えていた。
もし(ひとみ)と僕が高校時代(あの頃)に付き合っていたとしたらどんな人生になっていただろう。
「もし、高校時代(あの頃)に付き合っていたら今の幸せな生活は送れていないな。」
「そうね。詩音(しおん)も生まれていないわね。そして教会を中心とした生活もね。何よりあなたが牧師になるなんてね。」
「うん。主との約束だしね。(ひとみ)さんと再会しなかったら僕はどうなっていただろう。」
「本当~どうなっていたのかしら?」
あの再会がなければ僕らは夫婦になっていなかったであろう。
人は過去を振り返ることはできるが過去には戻れない。
だから日々を大事に生きなければならないのだ。
「ダメ人間まっしぐらだね。」

愛娘

12月、教会はクリスマスを控えあわただしくなる。牧師の仕事は教会だけではなく病院訪問、キリスト関連施設の奉仕活動、高校生の彼のような信徒相談。教会に行けない信徒の自宅訪問等の勤務がある。
今日は久しぶりに何もなく穏やかに過ごしていた。妻は外で仕事をしているしている。会社の海外出張で家を空けていた。
つまり娘と二人きり。いや正確に言うと娘の幼なじみを夜預かる事が多いのである意味賑やかである。
「お父さん、礼拝堂でクリスマスイブの歌の練習していい?」
「ああ、いいよ。」
娘は中高一貫教育のミッション系の学校に通っている。
学園の歌姫。コンクールで金賞をとってくる程の腕前だ。
友達も多く学校が終わった後、よく友達と礼拝堂で練習をしている。
「クリスマスイブ礼拝。冒頭ソロパートで歌ってくれるかい?」
「えっ!!私がソロで?」
「うん。教会委員会で話が出たんだ。詩音(しおん)やってくれるかい?」
詩音(しおん)は考えていた。クリスマスイブはクリスチャンにとって欠かせない大事な行事の一つだから。
今までは学校の友人とともに冒頭歌ってくれた。
今回はソロパートである。
「勿論、合唱部のパートも用意してある。」
「みんな楽しみなんだよ。詩音(しおん)の歌声。」
「わかったわ。私、頑張るね。」
実にできた娘である。
親バカと思われても仕方ないが。
夕食。
今日の当番は僕である。昼に予めカレーを作っておいたので後は 温めるだけである。
特製スペシャルカレーだ。娘たちは僕が作るカレーが大好物。
「そう、そう。今日ね。あの誠が女の子と楽しそうに歩いていたの。」
「嘘でしょ。」
「本当よ。私、びっくりしちゃった。」
詩音(しおん)と昌美が誠君の話題で盛り上がっていた。
僕は娘たちの会話に耳を傾けていた。
誠君と娘たちは同年代である。
誠君は上手くいったらしい。
昌美ちゃんは詩音(しおん)の幼なじみである。彼女の母親はシングルマザーで大病院の看護師をしており夜勤が多く家で預かる事が多い。僕は娘と同じように接している。
「青春だね~。」
僕は娘たちの話しを聞いてぽつりと言った。
「そうだ。私、お父さんたちの高校生の時の話し聞きたいな。」
「私も聞きたいな。」
「そうだな。君たちにも話さなければならないな。」
僕たちの出合いつまり(ひとみ)と僕の高校時代(あの頃)のことは話してはいない。
時がきたら話そうと思っていたから。
先日、誠君に高校時代(あの頃)の話しをした時、(ひとみ)の目が怖かったのはそのためである。
娘たちは僕たちが高校生の同級生とだけしか言っていない。
娘たちも他人の恋愛に興味がある年代であるし僕たちの事を理解を示してくれる年代と僕は判断したのだ。

クラスメイト以下前編

娘たちとリビングで僕は僕と妻の出合いについて語り始めた。
詩音(しおん)の入れた紅茶にブランデーを入れて。
「どこから話そうかな?」
娘たちの目は輝いていた。
「そうだな。先ずは出会った頃かな?」
僕は高校時代(あの頃)の話しをすることにした。妻とは高校3年間同じクラスメイトだとたことを話した。
「そうだね。僕たちは毎日顔を合わせていた。まっ当たり前だけどね。」
「そして(ひとみ)からアプローチがあった事を覚えている。」
「どんなアプローチ?」
僕は高校時代(あの頃)の事を未だに覚えている。
忘れようにも忘れられない愚かな行為、人としてクリスチャンとして最低な事をしていたバカちんな自分。
「なんていうのかな?世間話からかな。(ひとみ)が僕に興味があるってことはわかっていた。僕は勘だけは人一倍強かったからね。」
勘だけは強いほうだ。そしてそれが災いして他人から目をそらしていた。
一人になることが多かった自分。
「僕は(ひとみ)からラブレターをもらった。」
「いつ、もらったの?」
2月14日(あの日)だね。」
「バレンタインデー」
二人は声を揃えて言った。
意気もぴったりはもっていた。
「ロマンティックなんだね。お母さん。」
「そうだね。ロマンチストだね。(ひとみ)の気持ちをぶち壊したのは僕だ。」
「えっ?」
「その気持ちをずっと無視していた愚か者だよ。」
「ひど~。」
「同感。」
娘たちは僕を睨んでいた。
あの当時の僕は酷い男だ。
「僕は手紙よりも話したいことがあれば面と向かって話せ‼(ひとみ)に心の声で叫んでいた。」
僕は渇いた喉を潤す為、紅茶をのんでから
「今思えば〈エゴだよ、それは〉と当時の僕に言ってやりたいね。」
「でも当時、(ひとみ)と付き合っていたら恋人になっていたらどうなっていただらうう。」
僕は娘たちに質問をした。
当時の僕の気持ちは僕しか知らない。
相談できる相手がいなかったと思っていたからである。
「今日はもう遅い。タイムアップだ。明日改めて話そう。そして宿題。」
と僕は娘たちに言った。
娘たちが部屋に帰った後、僕はリビングで一人考えていた。
高校時代(あの頃)の事を。
「(高校時代(あの頃)の僕たちの関係はクラスメイト以下だよな。)」
過去に戻れたらいいな。と何回か思ったか。
しかし過去を悔い改めることはできる。
そして謝ることも。
それが何十年後であっても。

クラスメイト以下後編

コリントの信徒への手紙13章4節から13節まで
新約聖書317ページ
愛は忍耐強い。愛は情け深い。ねたまない。愛は自慢せず、高ぶらない。礼を失せず中略、私は幼子のように話し幼子のように思い、幼子のことを棄てた。
中略それゆえ、信仰と希望と愛、この三つは、いつまでも残る。その中で最も大いなるものは愛である。
僕は何度もこのコリントの信徒の手紙を読んでいた。そして改めて自分が高校時代(あの頃)の愚かな行為を悔やんでいた。
今日は二日酔いである。娘たちに自分のことを初めて話したからだ。
そして久しぶりに吸った煙草。僕は牧師になる前はヘビースモーカーであった。時たま吸うことがあるがそれは精神的に参っているとき。
例えば2月14日(あの日)が近くなると自己嫌悪にことが多いからである。
朝、娘たちが朝御飯の支度をしていた。
「お父さん、おはよう。」
「おはようございます。おじ様。」
二人の娘たちが元気よく挨拶をする。
「おはよう。」
「お父さん、煙草臭い‼煙草吸ったでしょ。」
「ああ。」
「お父さん~。」
「牧師が煙草吸って悪いという法律はないぞ。」
最も飲酒や喫煙をしてはいけないとは聖書には書いていない。
「お父さんだってね。人間なんだよ。」
「おば様がいないからさびしかったんじゃない?」
昌美が僕のことをフォローしてくれた。
確かに淋しい。淋しさが僕の精神が疲弊していたのは事実である。
「お父さん今日は休み何でしょう。どうするの? 」
「そうだね。久しぶりに札幌でも行こうかと思っている。」
「札幌かぁ~。いいな。今日休みだったらお父さんとデートできたのに。」
本当に出来た娘に育ってくれたと思っている。
親ばかな一面だ。
二人を送り出した後、二日酔いも治ったので早速電車に乗って札幌に出かけることにした。
クリスマスは娘二人の誕生日である。
詩音(しおん)が産まれた時のことを今でも覚えている。
詩音(しおん)が産まれたのは僕が神学校に通っていた時に産まれた。
30代後半の時である東京の神学校で授業を受けていた時、(ひとみ)の妹から電話がありすぐに帰ってきてと電話があった。
あれは20日頃だったと思う。
僕は校長に出産予定日を話していたので
「授業よりも家族の事を大事にしなさい。」
と言い車で空港まで送り出してくれた。
初めての出産である(ひとみ)
校長は車の中で僕の不安な気持ちの僕を励ましてくれた事を覚えている。
飛行機の中では一人だ。
不安感が横切る。
校長が僕に
「主が共にいる。」
僕の好きな みことばである。
北海道に着くなり病院に直行した。
病室で(ひとみ)が無事であったことに喜ぶ。
(ひとみ)がびっくりしていた。
「どうしたの?」という(ひとみ)の目、安堵の僕。
25日に無事に詩音(しおん)が産まれた。
僕は病室で(ひとみ)に労った。
感謝の言葉。「ありがとう。」
その数日後、他人の目があるのに病室で歌っていた。
〈まぶねのなかに〉
好きな讃美歌。
人の前で歌うのは苦手な僕。
歌い上げた時、病室中から拍手。
「素敵な旦那さん。」と言われた時の苦笑していた。
「下手ですんません。」と僕が言うと若い女性は
「いえいえ、深みのあるよい歌声よ。」
と声をかけてくれたのは昌美の母親。
その後、僕は(ひとみ)
「ごめん。妊娠中側にいてあげられなくて。夫として失格だね 。」
高校時代(あの頃)と同じだ。クラスメイト以下だった僕の行動と。」
と僕は(ひとみ)に言った。そして(ひとみ)は僕にこう話した。
「私は貴方の事 、好きよ。私たちを守るために牧師になる勉強しているんだから誇りに思って。それに(とき)がたっても私を受け入れてくれたもの。」
僕は本当に幸せものだと思った。車中で過去を思い出しているうちに札幌に到着した。

プレゼント

久しぶりの休日、僕が育った街札幌を歩いていた。
キリスト教書店に立ち寄り馴染みの店員と雑談をしてからの娘たちへのプレゼント選び。
「(最近の若い女性の好みどんなのがいいだろう。)」
と悩んでいた。
街のメイン通りで救世軍が慈善鍋を出して讃美歌を演奏していた。
僕は足を止めて彼らの演奏を聞いていた。クリスマスが近い事もありクリスマスソングを中心に演奏。僕は鼻歌を歌っていた。
〈荒のの果てに〉
鼻歌から途中から声を出して歌っていた。
「羊を守るのべのまきびと♪たええなるしらべ♪」
リーダーらしい男性が僕に近づいて来た。
「よかったら一緒にどうですか?」
彼は優しそうな男性。
「教派、違いますけど。いいんですか。」
「あなたはクリスチャンでしたか。同じクリスチャンです。歌いましょう。」
彼は僕を受け入れてくれた。
「(あの時と一緒だ。)」
僕は30代の頃を思い出していた。
久しぶりに教会に行った時と何だか似ていたのである。
「では最初から。」
彼らの演奏にあわせて僕は歌った。
教会とはまた違った感覚。街行く人たちが僕達をみる。
演奏が終わり拍手がおきる。
「あなたの歌声、深みのある歌声ですよ。」
「久しぶりに外で歌うのはいいものですね。実は僕は港町の教会で牧師をしています。」
僕は正体を明かした。
「牧師でしたか。先生にまた御会いしたいですね。」
「ええ。喜んで。家の教会にも是非、お越しください。」
「はい。必ず。」
彼らと別れてから僕は喫茶店に入った。
馴染みの喫茶店。
20代の頃から通っている喫茶店である。
昭和の香りが漂う喫茶店、僕は一人寛いでいた。
頼んだコーヒーはコスタリカ。
僕は中南米とくにカリブ海地方のコーヒー豆がお気に入り。
たばこを吸いながらあの時の事を思い出す。
あの時の僕は嬉しかった。
さてプレゼント二人は喜んでくれるかな。
街を歩いていると知人に声をかけられた。
「先生。お久し振りです。」
「いや~。北ラジオの齊藤さん。」
齊藤君はラジオ局のプロデューサーで〈聖書のみことば〉の担当だった。
今は中高生に人気のラジオ番組のプロデューサーである。
「先生が札幌に来るなら連絡ぐらいしてほしいですな。」
「齊藤君は忙しそうだからね。遠慮したのさ。」
「先生は誰にでも優しいですよね。」
齊藤君と 喫茶店に入る喫茶店のはしご。
「仕事の調子はどうだい?」
「ええ。順調ですよ。詩音(しおん)ちゃんは元気ですか?」
「相変わらず元気ですよ。芸能プロにスカウトだけは止めてくださいよ。」
「先生は心配性ですな。」
前例があるからだ。
たまたまラジオ局の収録で娘を連れて行った時にスカウトの話しがあった。
勿論、僕は反対した。〈学業優先〉がモットーな教育方針だからだ。
「クリスマス25日夜の○グループのコンサートチケット5枚あるんですがどうですか?先生夜はお暇ですよね。よかったら詩音(しおん)ちゃんの誕生日プレゼントにどうですか?」
「ほう。○グループの。確か娘が夢中になってますな。ではありがたく。」
「何故知っているんです?娘が○グループのファンであると。」
「はっはっはっ。禁即事項ですよ。」
後から知った話しだが娘が北ラジオ局にリクエストを良くしているとの事。

運命

僕は娘たちに昨日の宿題の話題をしていた。
はたして娘たちは僕たちのことをどう思っているのだ。

オリオン座の星降る夜に

主人公と高校生のやり取りの話です。
人生相談、教会は悩み事を相談する場所でもあるんです。
報連相です。これも勇気のあること恋愛ならなおさらです。

オリオン座の星降る夜に

もし過去を思い出していなかったら今の幸せな生活はなかっただろう。もし彼女と再会していなかったら自分は牧師にもならなかっただろう。刻(とき )は時に人生に味方する。神様がくれた刻(とき)の流れ青春期、青年期を振り返る主人公の物語。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-26

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Copyrighted
  1. 勇気
  2. 愛娘
  3. クラスメイト以下前編
  4. クラスメイト以下後編
  5. プレゼント
  6. 運命