手紙
乙一さんが好きなんです。乙一さんとかO・ヘンリーみたいなびっくりするようなオチのある話が書いてみたくてかきました。
お母さんへ
お元気ですか?理恵は元気です。
理恵はこの前、学習発表会の役決めがありました。理恵はなんと、劇で3番目に台詞の多い役をもらったよ!すごくうれしかったから、がんばるね。だから、その学習発表会には今度こそ理恵を見に来てください。
理恵より
わたしはお姉ちゃんがにくい。というのも、お父さんとお母さんが去年の秋ごろにりこんすると言ったときに全く反対をしなかったからだ。むしろ、りこんを勧めたのはお姉ちゃんだった。わたしはお母さんが大好きだった。だから、お母さんさんがわたし達の家を出て行ってしまうのがとても悲しかった。わたしはお姉ちゃんがどうしても許せなくって、お母さんが家から出て行ってからずっと口を聞いていない。そもそも、お姉ちゃんが高校生になってからはほとんど話さなくなっていたから、そんなに状況が変わったわけでもないのだ。それにお姉ちゃんはもう高校3年生だから、あと一年もすれば家から出て行ってしまうから、わたしには関係ない。
わたしはせめてお母さんに手紙だけでも出したかった。だから、お父さんにお母さんの住所を聞いてみた。そしたら、お父さんはふきげんそうな顔をして、「知らない」とだけ言った。お父さんはきっとまだ、お母さんがきらいなままなのだ。
わたしはあきらめられなかったので、今度は家の電話に番号が残っていたお母さんの方のおばあちゃんの家に電話をしてみた。おばあちゃんは、最初はどうしようか迷っていたけど、わたしが涙声になって真剣に頼んだら、お母さんの住所を教えてくれた。
わたしはすぐに、手紙を書こうと思った。そうだ、ぜひこの前買ったばかりのかわいいクマの便せんにしよう。何を書こうかわくわくする。結局、内容は今度の運動会についてにした。わたしは封筒には、わたしの住所と名前とお母さんの住所だけを書いた。ここであえてお母さんの名前は書かない。我ながらこれはいいアイデアじゃないかと思った。
わたしの家の近くにはポストがない。だから、わたしはしょくばの近くにポストがあるお父さんにこの手紙を出してもらわなければいけない。わたしは住所を聞いたときいやな顔をされたから、お父さんが本当にこの手紙をポストに入れてくれるか心配になった。だからお母さんの名前をふせたのだ。
わたしはお父さんにこの手紙を出すよう頼んだ。お父さんは封筒をくるりと回して、うらの住所が書いてある方をじっと見てから、「これは誰に出すの?」と聞く。わたしはここで「お母さん」と答えたらせっかくの計画が台なしになる予感がしたから、「ひっこしちゃった友達」と出来るだけ感情が表情に出ないようにして言う。お父さんは「ふぅん。」とふにおちない感じで言ったけど、なんとか受け取ってくれた。
二週間後、わたしの部屋の机の上に桜の柄のついたうすいピンク色のふうとうが置いてあった。ふうとうのうらには、見慣れたきれいな字で、しっかりと「佐藤 真理子」と書かれてある。わたしはそれを見て、思わず飛び上がりそうなくらいうれしくなった。お父さんはちゃんとお母さんあての手紙を出してくれたようだ。わたしは急いで手紙を部屋の電灯にかざして、なかの手紙を切らないように注意を払ってふうとうのはしをハサミで切る。手は少し汗ばんでいた。
それから、わたしは何か行事があったりすると、お母さんに手紙を出すようにしている。手紙はわたしが学校に行く前にリビングにあるテーブルのお父さんの席の所に置いておくと、帰って来た時にはきまってなくなっていた。そして、数日後にはその返事の手紙がわたしの机の上に置かれている。
しかし、ひとつ不満があった。わたしはずっと手紙に行事を見に来てほしいと書いている。お母さんはいつも「わかりました。絶対に見に行きます。」と返事を書いてくれる。だが、いつも学校行事にお母さんの姿はなかった。それに、よく読み返してみるとお母さんの身の周りのことについてはほとんど書かれていない。なぜお母さんは来てくれないのだろうか。いったいお母さんは今どんな生活を送ってあるのだろうか。全く見当もつかない。そもそもお母さんは本当にわたしとの約束を守る気があるのだろうか。ひょっとしたら、もうわたしになんて興味は向いていないのかもしれない。今度の学習発表会も、来てほしいと書いたけれど、結局お母さんは来てくれないんだろうなあ、とぼんやり考えた。
日曜の朝、一階のリビングに降りると、お父さんとお姉ちゃんが話をしていた。どうやらお姉ちゃんが高校を卒業した後の大学の寮の話らしい。たしか東京の大学の一期選抜で受かったのだったか。しかしお姉ちゃんはせっかく受かった大学をけって、家に残りたいと言い出した。当然お父さんはかんかんに怒って反対していた。しかしわけを問いただそうをしたとき、ちょうどお隣さんが尋ねてきた。「佐藤さぁ〜ん」なんて気の抜けた声で外から呼ばれたから、お父さんはそっちの相手をするしかなくなった。前に姉はあんなに大学のパンフレットをみて、あれがやりたいこれがやりたいと目を輝かせていたのに、急に大学に行きたくなくなったのだろうか?わたしとしては早く家をでていってほしいのだけれど。
いよいよ学習発表会まで一週間となった。わたしは主人公の姉の役だが、だんだんとセリフも台本を見なくてもスラスラ言えるようになってきた。劇も全体的にまとまってきた気がする。これで準備はばっちりだと考えていたころ、お母さんからの手紙が届いた。今回は珍しいことに、出してから3週間たっても返事が来なかったから、ついに返事の手紙すらよこしてくれなくなってしまったのではないかとハラハラした。わたしはふうとうを電灯にかざして、おそるおそるそのはしを切った。
理恵へ
こんにちは。
少し間をあかしてしまいましたね、ごめんなさい。お母さんも、早くあなたに返事を出したかったのだけれど、最近身の周りのことがごたごたしていてなかなか落ち着いて手紙を書く時間をもうけられませんでした。
学習発表会、もうそんな時期ですか。
理恵は頑張り屋さんだから、たいそうその役を一生懸命練習していることでしょう。主人公の姉の役なんて凄いです。私があなたの年くらいの時は、もっと引っ込み思案で、台詞なんてほとんどないような役ばかりやっていました。
その努力の成果、絶対にみにいきます。
だけど、ここからとても残念なお話になります。お母さんは、わけあってこれから先お手紙を出せなくなりました。だからこれが一番最後のお手紙になります。理恵も悲しむと思うけれど、お母さんも非常に悲しくて、胸が張り裂けそうな思いです。
最後に、
一年間手紙を書いてくれてありがとう。
お母さんは、手紙はもう出せないけれど、いつまでもあなたの味方だし、応援しています。それだけはわすれないでください。
お母さんより
わたしは涙が止められなかった。どうしてお母さんがもうこれ以上返事を書くことができないのか、まったく想像することはできない。それにまただ。また「絶対いきます」だ。もう、やめてほしい。最初から来る気がないならそう書いてもらったほうがよっぽど良い。むだに期待をいだかせるような言葉を書いて、ことごとくそれをうらぎるのはざんこくすぎる。わたしはその手紙をぐちゃぐちゃに丸めて部屋のすみに投げた。それからしばらく布団に入って声を押し殺してひたすら泣いた。
最後の手紙が届いてから3日がたった。わたしはもう一度、手紙を書く決心をした。そして、その中であの手紙が最後である理由は聞かなかった。理由はわたしがよく知っていることだったからだ。だからわたしはただ、今までの感謝の気持ちと学習発表会をぜひみに来てほしいということだけを書いた。
お姉ちゃんへ
お姉ちゃんからの最後の手紙、読んだよ。理恵は最初に、これが最後の手紙だと読んだときとっても悲しくなって長い間泣いた。
だけど、やっぱり理由を知りたくて、その後何回も手紙を読み直したの。そしたら、おかしなところがあることに気がつた。理恵は自分が書いた手紙には「3番目にセリフが多い役」としか書いてないのに、返事のには「主人公の姉の役」と書かれてた。それは、わたしの近くにいる人しか知らないことだよね?
もうひとつ、よく考えたらりこんしたお父さんとりこんしたお母さんはもう「佐藤」のはずがないのに、ふうとうには「佐藤真理子」と書いてあった。
だから理恵はこれは実はお母さんではなく、この家の誰かが書いているのかもしれないと思った。
つまり、最後だといったのはお姉ちゃんが家を離れて大学に行かなくちゃいけないからだよね?
理恵はこの家のどちらかが書いてると知ってからお姉ちゃんの部屋に忍びこんで、勝手に部屋の一番下の引き出しの奥にうすいピンクの便せんがあるのを発見した。それから、お父さんの部屋のゴミ箱からぐしゃぐしゃに丸められた、理恵がお母さんに書いて、送ってもらったはずの手紙をみつけたんだ。
ずっと理恵が信頼してたお父さんはわたしをだましてたんだね。そして、皮肉なことに、理恵がにくんでたお姉ちゃんこそずっとわたしをはげまして、見守っててくれたんだね。
わざわざぐしゃぐしゃにされた手紙をこっそり持ち出して返事を書くなんて、お姉ちゃんもなかなかしゅうねんぶかいね。でも、ありがとう。そんなお姉ちゃんがいてくれたから、理恵はこの一年がんばってこれたよ。
お父さんとお母さんのりこんを進めたのだって、本当はお父さんとの関係でずっと苦しんできたお母さんのためだったことだって、理恵だって頭ではわかってたんだ。だからもうお姉ちゃんを恨む気持ちも捨てようと思う。
では、理恵からも最後にひとつお願い。
学習発表会は、“絶対に”見にきてください。
楽しみに待ってます。
理恵より
手紙
場面の切り替えがどうやっていいのかよくわかりません。日々精進ですね。