淡く光る月のあかり~警視庁特事班の事件ファイル~

オリジナル小説です。

pixiv,upppiでもUP済み。

1話完結で、そのうち長くなるかもしれません。

プロローグ

鏡の前でネクタイを直す。……似合ってない。
俺は今日、警視庁に配属された。異例の出世だ。小躍りしたいくらいにテンションが上がっていたはずなんだけど……背広に着られてるみたいな自分を見た瞬間、悲しくなった。
童顔すぎる顔と、お世辞にも高いとはいえない背の高さ。
あいつが見たら、七五三と笑われるだろう。
俺は、チェストの上の写真を見る。いつも一緒だったあいつ。
「必ず見つけてみせる」
俺は写真に誓う。

「みー、行ってくるよ」
白い小さな頭をポンポンと撫でると、みーは小さく鳴いて、スリ……と僕の手に擦り寄った。
うう……可愛いなぁ。
思わず抱っこしてスリスリしたくなったが、さすがに初日に、それも猫をかわいがってて遅刻しましたなんて笑えないので、名残惜しかったけどドアを閉めた。

署に着いて、受付に名前を言うと、とある部屋に行くように指示された。
そういや、何課に配属になるんだろう。期待と不安いっぱいで、俺は言われた部屋に向かう。
「えーと、6階の――」
部屋を探していると、何故かすれ違う人たちが俺のことを振り返る気がする。俺、なんか変?
首をひねりながら、なんとか目的の部屋へ着いたんだけど……。
「……ここであってる……のかなぁ」
なんだか奥まった場所にあって、その上、なぜだか廊下の明かりが暗い。
嫌ーな雰囲気が漂っているその部屋。本当にこの部屋で合ってるのか聞いてみようと振り返ると、何故か人っ子一人いなくなっていた。いや、考えてみれば、この階に下りてから人を見た気がしないぞ。
「出世じゃなくて左遷だったりして。はは、まさかね」
一人で言って、一人で笑う。
戻って聞こうか、どうしようか。考えている間にも時間は進む。予定の時間まであと5分。
「うー、当たって砕けろ!」
我ながら場違いなことを叫びながら、ドアを開けると、そこには――

艶夜(つや)、今夜食べたいんですが」
「んー、なにを?」
「もちろん貴女を」
ソファーに押し倒された女性。その上に馬乗りになって、微笑んでいる黒髪の男。そこだけ夜の雰囲気全開で、俺は思わず固まってしまった。
ここ……警察署だよな?
やっぱり受付まで戻ろうか。俺はホンキで思った。
月姫(つき)、食べ物じゃないよ?」
眠たそうな声。女の子にしてはちょっと低めかな。なんて、冷静に分析してる俺がいる。
「ですから、今夜、セッ」
ゴスっ
すごい音がして、男がその場に崩れ落ちた。俺、なんだか場違いなところに来たような気がする。
「はーい、教育的指導」
ぱんぱんと手を叩きながら、スラリと長身の男がデスクから立ち上がる。
「ルイルイ怒られてやんのー」
「ばっかでー」
ゲラゲラと笑う男二人。頭をさすりながら、起き上がった男は、ムスッとした顔で二人を振り返る。
「馬鹿に、馬鹿と言われるなんて心外です」
その言葉に、ぺろりと下を出したのは、茶髪の巨漢。
「それに教育的指導ってなんですか、月宮(つきみや)。私達はとっくに成人してるんですけど」
「じゃあ、わいせつ物陳列罪。強姦未遂でもいけそうだね」
床に落ちた分厚い本(これ投げたんだ……)を拾いながら、月宮と言われた男は溜め息を吐く。
「してません!それにわいせつ物って」
「お前自身がわいせつ物だろ?年中姫に盛ってんだから」
花住(かすみ)!」
どうやら、巨漢のほうが花住というらしい。
「ルイルイ、そろそろ諦めればー?」
この中で一番小柄な男は、椅子から立ち上がると、ソファーで押し倒されたままの女性に近づいて、ちょこんとその場に座りこんだ。
「ひいさん。言ってやればいいのに。ルイルイ調子に乗っちゃうよ?」
「んー?なんで?月姫、(るい)のこと好きだよ?」
「艶夜っ」
ガバっと女の子を抱きしめる泪と言われた男。女の子の名前は、つき・・・ちゃんでいいのかな。でも、艶夜って呼ばれてるような気もするし、他の人は姫だとか、ひいさんだとか。一体なんて名前なんだろう。
「あ、あのー」
恐る恐る声をかけてみる。全員の目が一気に俺に向いた。
「君は?」
「今日から配属になった、天音白羽(あまねしらは)です!」
ここでやっと俺は名乗ることが出来たのだった。

「ごめんね。いきなりあんなとこ見せちゃって」
湯気の立つコーヒーが俺の前に置かれる。顔を上げると、ニッコリと笑うつきさんの姿。染めてるんだろうか。膝まである長い銀の髪を腰のところで一括りにして、紺のリボンで結んでる。瞳の色は、きれいな紫だった。
まるで宝石のアメジストみたいだ。吸い込まれそうな透き通った瞳。
神代月姫(かみしろつき)だよ。みんなは姫とか呼ぶけど、好きな様に呼んでね」
「姫、私にもください、お茶」
「ひいさん、オレもー」
「オレにも頂戴」
「はいはーい。待っててね」
月姫さんが給湯室に消えて数分。人数分のお茶を持った彼女が来るのを待って、自己紹介が始まる。
「私は月宮です」
メガネを押し上げて、ビシッとスーツを着こなした月宮さん。
「オレ、花住。よろしくな」
ワイシャツ姿で、人の良さそうな笑顔の花住さん。さっきも思ったけど、ずいぶんがっしりした体格の人だなー。
「オレ、雪那(ゆきな)。ヨロシクー」
オレとどっこいどっこいの身長だろう、雪那さん。それでも俺みたいにスーツに着られてる感じじゃない。
神崎泪(かみさきるい)と申します」
そして、さっき月姫さんを押し倒していた人――神崎泪さん。目があった時、俺は気がついた。この人の目、深紅だ。
そんな俺に気がついたのだろうか、神崎さんは笑みを浮かべる。
「気持ち悪いですか?私の目」
「い、いえ。びっくりしただけです」
正直に言うと、神崎さんはくすりと笑った。
「正直な方だ。私も、艶夜も自前なんですよ」
艶夜……?
「艶夜っていうのは泪だけが使っている呼び名で、姫のことだよ」
「オレたちがそう呼ぶと、ルイルイ怒るんだよ。シロちゃんも気をつけな」
それぞれマグカップを手に持って、溜め息を吐く月宮さんと雪那さん。
ふーん、気をつけよ。……ん?
「シロちゃん?」
「うん。そのほうが呼びやすいっしょ?」
思わずカップを持つ手に力が入る。落ち着け俺。雪那さんは悪くない。悪くはないが……。
「俺、できれば白羽って呼んでいただきたいな~なんて」
笑顔が引きつる。
そんな俺に気がついたらしく、花住さんが意地の悪い笑みを浮かべた。
「おや?その顔。もしかして、お前さん、シロって呼ばれるの嫌なんか」
まずい。このテの人は人をいじくって楽しむ人だ。
気がついた時にはもう遅かった。
花住さんは椅子から立ち上がると、俺のところに来て、グリグリと俺の頭をなでた。
「うりうり。シロちゃーん」
「ちょ、やめてください~」
「また始まったね。花住のいじりグセ」
それが当たり前みたいにティーカップを傾ける月姫さん。……お願い。誰か助けて。
小一時間ほど弄くられて、へとへとになった俺。そんな俺にお構いなしに説明を始める月宮さん。……マイペースだ。
「さて、シロくん。まず、ここの仕事内容なんだけど」
シロは確定なんですね……。もういいや。
「ここは特定の課に属することのない、頼まれればどこにだって出張るなんでも屋だと思われてるんだけどね」
「事実じゃん」
ちゃちゃをいれた雪那さんは、月宮さんのひと睨みで沈黙した。
「ホントのところ、ここは『ありえない不可思議な事件』を扱う、プロフェッショナル集団なんだよ」
ありえない不可思議な事件
血の気が引いていった。
「……俺、帰ります」
上司命令だろうがなんだろうが、俺はここにいたくない。免職になったっていい。ただ、ここにはいたくない。
俺は席を立って、出口へと向かう。
「逃げるのかい、天音白羽」
俺の名を呼ぶ声が聞こえた。目の前から。
顔を上げると、ドアのところに一人の男性の姿。それは、警視庁でも有名な、都筑(つづき)警視正だった。
(りん)、白羽くんに伝えていなかったんですか?」
背中の方からは、呆れたような神崎さんの声が聞こえた。
「今、伝えただろう?」
「俺……どうしてここに配属されたのかわかりません」
「君が普通じゃないからだよ」
普通じゃない
握りしめた手のひらに、爪が食い込む。
「俺は普通です」
「いや、普通では無いだろう?」
「俺は……普通ですっ」
俺は普通だ。普通でいたい。お願いだから――俺を暴かないで。
「そんなに普通でいたいの?」
叫びそうになった俺に、不意にかけられた声。
「白羽くん、君はここに入れば普通でいられる」
え?
慌てて振り返ると、ソファーに座った月姫さんが微笑んでいた。
「君に月姫たちが『普通』をあげる。だから――」
差し伸べられるしろい手。
「安心していいんだよ」
優しい声。
俺の頬を涙が伝った。
「ようこそ、特殊事件捜査班、通称、特事班へ。班長の神代月姫です。改めて、よろしく?」
はんちょう?
瞠目した俺に、月姫さんは満面の笑みを浮かべた。

俺は、結局ここに残ることにした。都筑警視正はともかく、ここの……いや、月姫さんは信じられるような気がしたから。
これが俺の始まり。
俺の忙しい日常の始まりだった。

第一の事件

「助けてください!」
勢い良くドアが開き、制服を着た警察官が一人駆け込んでくる。
俺は天音白羽(あまねしらは)
昨日、ここに配属された新人だ。
繰り返す。
“昨日”、ここに配属された。
なのに・・・。
「なんで俺にすがりつくんですかっ!」
男にすがりつかれても嬉しくない・・・。

「災難だったねぇ」
すっと俺の前に湯気の立つコーヒー。
溜め息をつきながら顔を上げると、アメジストの瞳と目があった。透けるような白い肌。銀の長い髪。
彼女は神代月姫(かみしろつき)さん。実はこの、特事班の班長だったりする。
「ここ、自分では解決できない人の、駆け込み寺みたくなっちゃってるんだよ。きっと、白羽くんが一番抱きつきやすかったんだろうね」
・・・嬉しくないです。そんなの。
「で?どんな相談なんですか?」
深紅の目が俺を見る。この人は、神崎泪(かみさきるい)さん。
俺は、またひとつ溜め息をついた。
俺の目の前には、さっきの警察官が小さくなって座っている。それはもう、可哀想なくらい小さくなってる。
「生活安全課の土岐(とき)さん?」
え?
彼、名前言ってたっけ?
俺と同じで驚いた顔してるのは、言われた本人。
「ここ、どこだと思ってるんですか?特事班ですよ?それくらい知ってます」
事も無げに言う、(るい)さん。それって・・・俺たちの情報、管理してるってこと?
誰に質問しようか迷ってると、月宮(つきみや)さんが俺を見てニッコリと笑った。
「ここはありとあらゆる情報が集まってくる、統括センターみたいなとこだよ。言っちゃ悪いけど、本部のメインパソコンより優秀だから、俺達」
さりげないナルシスト宣言?
「で、突然の訪問の理由は?」
月宮さんに凄まれて、可哀想な土岐さんは、ぽつりぽつりと話しだした。
「ここ数日の間にとある商店街で窃盗事件と器物破損事件が多発してるんです」
「防犯カメラは?」
雪那(ゆきな)さんは、デスクに肘をついて、気だるげに腕枕してる。それでも話は聞いてるみたいだ。
「見ました。でも、何も不審なものは映ってないんです」
「全部見比べたか?よーく見てみないとわからんもんだぞ?防犯カメラなんて」
頭の後ろで腕を組んで、椅子の背もたれに体を預ける花住(かすみ)さん。ぎしっと椅子が悲鳴を上げている。
「見ました。でも、映ってないんです」
月姫(つき)さんはこてんと首を傾げる。・・・可愛い。
「捜査資料と防犯カメラの映像を提出。でもって、現場に案内して」
土岐さんの顔がぱあっと明るくなる。
今にも月姫さんに飛びつきそうな土岐さんを、泪さんが牽制して、俺達は雪那さんの運転する車で現場へと向かった。

「普通の商店街ですね」
何の変哲もない商店街。あまりに普通すぎて、俺は思わずつぶやいた。
「この店と――」
案内してもらったのは被害があった3件の点在する店と、駐輪場。
「この駐輪場、よく割られるんです」
割る?
こんなトコで何を?
首を傾げる俺。月姫さんは一つのバイクに歩み寄ると、ミラーに手を添えた。
「コレみたいに?」
よく見ると、そのミラーは放射線状にヒビが入っている。
「ああっまたやられたっ」
頭を抱えて蹲る土岐さん。・・・この人、リアクションが大げさすぎる。
っていうか・・・正直うざい。
「泪、白羽くん、帰ろ?」
「そうですね、艶夜(つや)
え?え!?
「ちょっ、いいんですか?このままで」
そのまますたすたと雪那さんが待つ車へと帰っていく二人。俺には意味分かんないけど、二人にはなにかわかったらしい。俺は二人を追い掛けて、一緒に署へと戻った。
で、
「なんで寝てるんですか、月姫さん」
帰ってきた早々、月姫さんはソファーに横になって、気持ちよさそうに眠ってしまった。
うー、わけ分かんない!
「ひいさんのお昼寝邪魔しちゃいけないよ~」
雪那さん鼻歌を歌いながら、通常業務に戻ってる。気がついてみれば、月宮さんも、泪さんも、既に通常業務。
「艶夜はお昼寝が大好きなので、好きなだけ眠らせてあげてください」
「でも・・・今仕事中・・・」
泪さんの深紅の目が俺を見る。
「艶夜はちゃんと仕事をしてますよ?」
「え?」
長い指が月姫さんのデスクを指さす。
そこには綺麗に整理された書類の山。・・・もしかして、あれ全部処理済みなの?
瞠目した俺に、微笑んだ泪さんは、
「今回の件は、もう手を打ってあります。だから艶夜はそっとしておいてください」
そう言って、デスクに視線を落とした。

昼過ぎに目を覚ました月姫さんは、何事もなかったように午後の仕事を始めた。
さっき、置き去りにした土岐さんは、いろいろ事後処理をして、夕方に署に戻ってきた。
今にも泣きそうな顔で、特事班に来るもんだから、また抱きつかれるんじゃないかと俺は身構えた。
「もうすぐ犯人がここに来るから、おとなしくしてなよ」
月宮さんが、ぎろりと睨む。睨まれたのは土岐さんだけど、俺まで震え上がるのは、しょうがないことだと思う。
そして・・・
1時間ほど経った頃、ドアが開いた。
「おっつ~。花住」
ひらひらと手を振る雪那さん。
そこには、傷だらけの花住さんと、カゴの中に茶トラの猫が居た。
ぜぇぜぇと息を切らした花住さんは、乱暴にカゴをデスクに置く。
「捕まえたぜ、コンチクショー」
「はい、あれが今回の犯人」
月姫さんの言葉に、俺と土岐さんは思わず大声を出していた。

「防犯カメラには、決定的瞬間は映ってなかったんだけどね」
月姫さんはお茶を入れながら言う。
「盗難の被害に合ったのが、魚屋さんと、肉屋さんと、乾物屋さんってところでなんとなく、そうかなぁって」
・・・。
「で、花住に見張ってもらったんだ。犯人が人間だって決めつけてたから、今まで誰も捕まらなかったんだろうね」
「バカバカしい」
優雅に足を組んだ月宮さんは自分のマグカップを傾ける。
「大体の時間もわかってたから、捕まえやすかったよ」
「で、でもっ、鏡が割られるのは・・・」
「それは多分、カラスだと思う」
「「カラスぅ?!」」
ぽすんとソファーに腰を下ろす月姫さん。そのとなりには泪さんが座る。
「うん。あの鏡、中心に尖ったものが刺さったから、あんなふうに割れたんだと思うよ。元に、真ん中のところだけ凹んでたし」
「カラスは光るものが好きですからね。盗ろうとして突っついたんでしょう」
そっと月姫さんの銀の髪を撫でる泪さん。
な、なんだぁ~。
なんかどっと疲れた気がする。
大きな溜め息をついて、コーヒーを一口。・・・ああ、美味しい。
「で?どうすんのこいつ」
花住さんがカゴを見下ろす。
まさか、保健所行きとか?
視線を月姫さんに向けると、月姫さんはニッコリと笑う。
「動物病院行き。保健所はさすがに可哀想だし、お仕置きも兼ねて、タネなしになってもらう」
ピシッ
俺達は凍りついた。
「ひ、ひいさん・・・せめて去勢って言って。タネなしはさすがに辛いわ」
雪那さんが顔をひきつらせている。
「なんで?いたずらした子はそれ相応の罰を受けなくちゃ」
「い、いや・・・言葉のニュアンスというものが・・・」
月姫さんはにぃっと口角を上げる。妖艶な笑み。
「気をつけなね?」
俺達はそれはそれはふかーく頷く他にはなかった。

淡く光る月のあかり~警視庁特事班の事件ファイル~

書いてみて、二次と一次の違いを実感。

難しいですね~。

感想とかいただけたら嬉しいです。

淡く光る月のあかり~警視庁特事班の事件ファイル~

警察官の天音白羽が配属されたのは、どこの課にも属さない、何でも屋? 変な人ばかりのそこは、実は不可思議な事件を扱うプロフェッショナル集団だった。 その班は、警視庁特別事件調査班。通称、特事班。 普通でいたいと願う、普通じゃない白羽の、普通じゃない日々の始まり。(pixiv、upppiにもUPしています)

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. プロローグ
  2. 第一の事件