『 よくあること 』

リュックに手を突っ込んで、取り出したのはシャンプーボトル。

◆◆◆◆◆

なおし屋さんが大きなシャンプーボトルをプッシュすると、白くてきらきらしたモノがノズルの先端から溢れ出た。

壊れてしまった僕のお気に入りの椅子に、その白いきらきらがねっとりと絡みついていく。

「使い勝手が良いんだ、これ。他の容器だと沢山出過ぎちゃってさ」

そう言いながら、なおし屋はもうワンプッシュ。
さっきと同じくらいの白いきらきらが、僕の椅子をすっかり包み込んで飲み込んで。

◆◆◆◆◆

白いモノに包まれた椅子が静かに起き上がる。
折れてしまった脚も、ふわりと浮かんだ。

脚がくっついて、塗装が綺麗になって。

「……あ」

太い尻尾が生えて、逞しい腕が生えて、鋭い爪が生えて、おぞましい顔が現れて。

「あー、順番間違えちゃった。こっちのボトルから使わなきゃいけなかったのに」

違うボトルを手に苦笑いする、なおし屋さん。
見る見る恐ろしいモノに変化していく僕の椅子。

「……」

シャンプーあるあるなんかじゃ、済まされない状況で。

『 よくあること 』

『 よくあること 』

極短小説。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-25

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