「やり直し?」「いや、繰り返し」

「やり直し?」「いや、繰り返し」

来るとこまで来たら、もう後戻りは出来ないという話です。

世界が灰になっても

世界がこんな風になっちゃったのは、僕が高校生のときだ。授業中に窓の外を見ながら考えてた“いきなり世界が終わればいいのに”が、まさか実現するなんて。
隕石とかではないと思うんだけど、僕の見ていた景色が突然消し飛んだんだ。その部分だけ綺麗に爆発しちゃったって表現で100点が取れる出来事だったね。
それからそういう現象が続いていって、世界はいつの間にか色を変えていた。
あんなに青かった空は、どこか赤みがかって汚れて、街は瓦礫(がれき)の山になって、でも人は誰一人として死んでなかった。食べ物も水も。死んじゃったのは風景と電気ぐらいだ。

そんな世界になってから考えたことは、
“これはこれで悪くないな”というものだった。
落ちるとこまで落ちた世界からは争いが消えた。ある意味、平等になったからだ。《これはきっと、神様が人類に与えた試練だ》って誰かが唱えて、それが広まった結果、みんなが手を取り合う姿勢も見え始めて、地球は、ゆっくりだけど早いペースで復興し始めたんだ。

いろんな垣根を越えて、70億人が一つになりつつある世界は、前より平和に見えた。

「昔さ、こんなこと考えてなかった?『一からやり直せば、次はきっと上手く行く』って」
綺麗に残った学校の屋上で、少し汚れた地面に寝そべりながら君が言った。
「何だよ急に」
別に。と、君は寝返りをうつ。
「小学校の頃は、確かに思ってた。けど、それが難しいことなんだなって知ったのは最近だ」
「なんで難しいの?」
「決めた基盤をもとに進んでるからだよ。40mぐらい積み上げた積み木の、下を組み替えたいと思ってもできないだろ?それと同じ」
よくわかんない。と、君は笑った。
「でも今の世界は違うじゃん?今君が言った積み木に例えると、その40mが崩壊しちゃったわけだ。だから、また組み直していかなきゃいけない。それはやり直しじゃないの?」
少し悩んだけど、違うかな。
「今人類がやってるのは、『繰り返し』だと思う」
なるほど。と、君は手を叩いた。

世界の復興は案外早くて、3年たらずで元の姿を取り戻しつつあった。
けどその頃から国同士がだんだん離れていって、作業が遅れるようにもなった。あと2年ぐらいみんなでやれば、元に戻ったのに。
そのうち科学者たちが動き出して、なんで世界がこうなったんだろうという答えを探し出した。
たぶん、答えなんてないのに。

「3年前の君が言った通りだね。積み直し作業ももうすぐ終わって、元に戻る“だけ”だ」
相変わらずの屋上に寝そべっている君が言った。
「そうだろ?やり直して変わるなら、最初からみんなそうしてるんだ。でもそんなの無理だから、原状回復に努めるしかない。やり直しは二度手間というわけ。結局僕らは、ゆっくりと進化していくしかないんだよ」
そうだね。と君は欠伸をしながら言った。

「やり直し?」「いや、繰り返し」

新しく始める。という事と、またやり直すという事は、同じ動作だとしても、全く意味の違うものになる。僕はそう思います。

「やり直し?」「いや、繰り返し」

「じゃあ結局どうしたらいいの?」 「僕も君も子どもも大人も、それを知らないから悩むのさ」 「なるほど」

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-25

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