最後の贈り物


私の恋人である奏時は、最近体調を崩している。最初はそんなに酷くは無かったのに、徐々に身体は弱っていくばかりで、私は何もしてやれない。私が出来るのは、手造りの菓子を持って奏時の家に見舞いに行く事くらいだ。奏時は大企業の社長の嫡男で、このまま行けば次期社長である。それ故、奏時の弟である優矢はあまり奏時を良く思っていないようで、奏時に突っ掛かっている場面を度々みかける。少し前に、その事で奏時に尋ねた事がある。

「弟さんと仲が悪いの?」

「いや、ちょっと突っ掛かってくるだけで、別に酷く仲が悪かったり、嫌われてはいないと思うんだ。」

「そうなの?」

「あぁ。だってアイツ、ああ見えて意外と優しい所があるんだ。親に言われた訳でも無いのに、俺にお粥を作ってくれたり飲み物を持ってきてくれたりするんだ。何だかんだで、良い弟だよ。」

奏時はそう優しく微笑んでいたけれど、突っ掛かって来たり文句を言っている様子しか優矢の事をしらない私からしたら、不思議でたまらなかった。それでも、奏時が言うのだから間違いはないのだろうと思い、その日は帰った。

奏時の体調はまだ良くならない。それどころか、前より悪化しているように見える。私は心配で仕方ない。そして、奏時が早く治るように良くなるように祈り、奏時の好物である紅茶味のシフォンケーキを焼いて見舞いに行く。奏時は毎回美味しそうに食べてくれる。「一口くれ」と言った弟の優矢にもあげないくらい気に入ってくれた。その美味しそうに平らげる姿が嬉しくて、私はまた奏時の好きは洋菓子を焼いて持っていく。

ある日、見舞いに行くと、奏時は自室でベットで上半身だけ起こしてテレビを見ていた。サスペンスドラマだ、奏時は二時間モノのサスペンスドラマが好きで、元気だった頃はよく録画までして見ていた。そして不意に彼が私に言った。

「サスペンスの犯人て黒い手袋して犯行に及ぶじゃん。でも、罪を犯した人が後悔する時って『俺の手は血で真っ赤に染まってしまった!』とかいうよね。俺、“これから犯罪を及ぶ人は黒、もう犯罪を犯した人、特に人を殺してしまった人は赤”っていうイメージがあるんだよね。ドラマのせいかな・・・・・・?」

「そうかもね、ドラマの見過ぎかも。」

奏時の言葉にクスリと笑いながら答えた。そう答える私に、奏時は私の方を向き、苦笑しながらこう言った。

「美奈子は白が似合うよ。」

その言葉の意味が未だに私は解らなかったので、意味を聞こうと思った所に優矢が奏時の部屋に入って来た。優矢の手には、優矢のお手製なのだろう晩御飯が白い綺麗な器に入って、木製のトレイに行儀よく並んでいた。私はその日両親との用事があった為、持って来ていた菓子を置いてすぐに帰った。

そして数日後、奏時は死んだ。もう会う事は叶わない。触れる事も、微笑み合う事も出来ない。奏時の葬式では涙が止まらなかった。もう奏時とは一生のお別れだと思うと無性に悲しくて、寂しくてたまらない。正座をしながらお経を聞いている時、悲しくて下を向いてしまった。左手にはめた奏時とお揃いのペアリングが静かに光り輝いていた。それを目にした時、ほんの少し微笑んだ。まだ彼との絆は残っている。

後日、奏時の家に行った、弟の優矢に呼ばれたのだ。訪れると優矢が玄関から出て来た。優矢の手には、一つの封がしたままの紙袋。玄関先でその袋を私に渡す優矢、私は少し間を置いて尋ねる。すると、優矢は優しそうに微笑み答えてくれた。

「この紙袋は、何?」

「兄貴の部屋から見つけたんだ。ほら、紙袋にお姉さんの名前が書いてあるだろ?きっと兄貴からお姉さんへの贈り物だよ。兄貴は浮気性とか酷かったけど、お姉さんの事は本気で愛してたと思うよ。」

「中身は・・・・・・?」

「さぁ、俺はその中身見てないから。似たような紙袋がもう一つあったけど、俺の名前が書いてあったから、きっと俺のだと思って開けたんだけど中身は黒い革の手袋だったよ。」

私は、そっと紙袋の封を開ける。すると出て来たのは上質な・・・・・・深紅の手袋。

優矢は私が紙袋から取り出した手袋を不思議そうに眺めながら呟いた。

「俺のが黒で、お姉さんは赤・・・・・・。なんでまた、手袋だったんだろうな。」

紙袋をもう一度確認すると、手紙が一通入っていた。内容なんて、開くのが恐ろしくてとてもここでは見れない・・・・・・・。

  

END

   

『美奈子へ

愛してるよ、俺を殺した犯人さん。

奏時より』

  

 

最後の贈り物

最後の贈り物

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-02-24

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