しようきんし

(作者註:これはあくまでも架空の世界のお話です)
 それは、隣の大国の一方的な通告から始まった。
「漢字は我が国固有の文化遺産である。しかるに、貴国は我が国に無断でこれを使用している。これは文化の略奪に他ならない。貴国はただちに漢字の使用をやめるか、然らずんば、漢字の使用料を支払うべきである」
 無論、政府は不当な要求であるとしてこれを拒絶した。
 すると隣の大国は、貿易を制限したり、大使館のまわりで大規模なデモを行ったりと、様々な圧力をかけてきた。
 政府は海の向こう側の大国に仲裁を頼んだが、集団的自衛権の適用外であると断られた。
 一方、国内ではこれを機に、なるべく漢字を使わないようにしようという運動が巻き起こった。かねてから漢字制限を主張していた一部の国語学者たちは、もろ手を挙げてこの運動を歓迎した。その結果、新聞の記事は次のようになってしまった。
《さんじゅうにちみめい、ちゅうおうくにちょうめでおきたかさいは、じゅうきょごむねをぜんしょうし、げんざいなおえんしょうちゅう》
《さくやのきょじんたいはんしんは、ぎゃくてんさよならまんるいほんるいだで、きょじんぐんしょうり》
《おおてぎんこうにたいし、ろうどうきじゅんかんとくしょより、ふばらいざんぎょうかいぜんめいれいだされる》
 新聞を読んで、頭痛やめまいを起こす者が続出した。
 もちろん、新聞以外の出版物も徐々に漢字不使用のものが増えてきた。週刊誌などは、愚かにもカタカナさえ使用しなくなった。
《すくーぷ、あのおおものえんかかしゅとあいどるぐるーぷせんたーがしんみつこうさい、か》
 政府としても、これ以上国内が混乱するのを放置するわけにもいかず、隣の大国と妥協点を探る交渉を繰り返した。その結果、巨額の使用料を毎年支払うことで、なんとか折り合いがついた。
 政府も国民も安堵に胸をなでおろしていると、今度は南方の大国から通告が来た。
「数字のゼロは我が民族固有の文化である。よって、貴国はゼロの使用料を支払うべきである」
(おわり)

しようきんし

しようきんし

(作者註:これはあくまでも架空の世界のお話です) それは、隣の大国の一方的な通告から始まった。「漢字は我が国固有の文化遺産である。しかるに、貴国は我が国に無断でこれを使用している。これは文化の略奪に他ならない。貴国はただちに…

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-24

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted