オオカミとカエル

 小さな池で、子供のカエルたちが遊んでいた。
 そこに、突然、一匹のオオカミがやって来た。うんとお腹が減っていれば小さなカエルたちだって狙われたかもしれない。だが、オオカミは喉が渇いていただけのようだ。ガブガブと水を飲み終わると、そのまま去って行った。
 それでも、初めてオオカミを見た子供のカエルたちは大騒ぎである。あまりに騒がしいので、大人のカエルが様子を見に来た。
「ええい、静かにせんか。いったい、何があったというのだ」
 子供のカエルたちは口々に訴えた。
「とても大きい生き物が来たよ」
「大きくて、うんとやせていたよ」
「顔が細長くとんがっていて、耳は三角だったよ」
 大人のカエルは耳を塞いで叫んだ。
「ああ、うるさい、うるさい。いっぺんにギャアギャア言われてもわからん。大きい生き物というのは、わしぐらいの大きさかね」
「違うよ。もっとずーっと大きいよ」
 大人のカエルはちょっと背伸びして見せた。
「これぐらいかね」
「違うよ。それにもっとやせていたよ」
 大人のカエルは精一杯お腹を引っ込めてみせた。
「これぐらい、やせていたかね」
「違うよ。もっともっとやせて、顔もほっそりしていたよ」
 大人のカエルは口をすぼめて見せた。
「これぐらい、ほっそりしていたかね」
「違うよ」
「違うよ」
「全然違うよ」
 大人のカエルはできる限り背伸びをし、力を込めてお腹を凹ませ、頬をギューッと細くした。
「こ、これで、どうだ、うーん」
 ついに、無理をしすぎた大人のカエルは目を回し、フラフラと倒れてしまった。

 次の日。
 大人のカエルはフィットネスクラブに入会した。
(おわり)

オオカミとカエル

オオカミとカエル

小さな池で、子供のカエルたちが遊んでいた。 そこに、突然、一匹のオオカミがやって来た。うんとお腹が減っていれば小さなカエルたちだって狙われたかもしれない。だが、オオカミは喉が渇いていただけのようだ。ガブガブと水を飲み終わると…

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-23

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