宝石を吐く娘

ある日突然叶刹の声が出なくなった話。


朝起きたら、声が出なかった。
正確には、言葉が浮かばなかった。

言いたいことはあるのに、上手く言葉を繋ぐことができなかった。

「ぁ……っ、」

喉に違和感はない。

「……。」

口を開けても出ない声。

僕がなにをしたか。
端末を取り出してグリノを呼べばすぐに飛んできた。

「叶刹っ…!」

グリノ。
僕は目で相手の名前を呼んだ。

目の前に膝をついて口の中を見て、なんの異常も見られないとぽつり呟いた。

正直驚いた、そしてそれと同時におかしいと思った。

グリノは闇医者。腕のいい闇医者。
だから、異常があれば一発でわかるはずだ、でもそのグリノが異常無しと言うのならそうなのだろう。

「…叶刹、舌を出して。」

言われた通りに舌を出す。

金属片を舌に這わせるようにして、首を振った。
そんなグリノを見ながら、僕は腹から何かがこみ上げて来るのが分かった。

怖い、怖い。なんだこれ。

「っ…お”ぇぇっ…!!」

カランカランと、床に吐き散らした血に混じっていたのはキラキラ光る紺碧色の塊。

グリノも相当驚いているらしい、暫く立ち尽くして僕の背中に手をあててくれた。

「これは…ラピスラズリだ。」

ラピスラズリ。
確か、宝石…?

「…っ…お”ぇっ…がっ、ぁ…」

カランカランカラン。

一つ、二つ、三つ。
ラピスラズリが口から溢れる血と共に机へ落ちる。

痛い、苦しい。

「…っ、叶刹っ…!」

「うぷっ…ごはっ…!!」

私が吐き散らした血で軽く水風船が二つ作れるだろう。

それ相当に、吐いたのだ。

「…あー、気持ち悪い…頭ぐらっぐらする。」

喉に石が詰まっていたから喋れなかったのだと、グリノが診察結果を出してくれた。

「はい、あとこれ。」

「っと、うっわ…」

僕が吐いた血で作った、透明の水風船。
まるで血の塊を持っているようだ。

「…サメに襲われそうになったら使うといいよ。」

「まずそんな場面がねーよ。」

グリノの血を貰いながら、水風船を見つめる。
こうして見ると黒紅梅色も、中々綺麗だ。



次の日。
叶刹が吐いた血は全て、ルビーの宝石に変わっていた。



( 宝石精製娘の壮絶人生論 )

” 僕は、攫われて人に売られて買われた ”

end.

宝石を吐く娘

宝石を吐く娘

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-02-22

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