夏の寒さについて

16歳の夏、何故か私は立ち往生していた。
如何せん暇なのだ。惰眠を貪るにしたって時間が有り余りすぎている。
私の思い描いていたビジョンには、毎日朝から晩までこの長い夏休みを仲間たちと謳歌し、その輝かしい青春を背負って新たな二学期へと足を踏み入れる、というところまで計画が為されていた。
・・・ところがどうだ。いきなり頓挫だ。
訳のわからない時の早さに為す術なく、挙句誰一人と関わること無くそのまま夏休みに突入してしまった。一体誰を恨めばいいんだ。
たぶん行動を起こさなかった自分だろう。
うーん、クーラーの冷気が身に染みる。

目の前にはたくさんの課題が積まれていた。私はこれらを夏休みの間に処理しなければならない。
別にそこまでは今までとなんら変わりない。私はただそれらを黙々とこなし続けるだけだ。
しかし、近頃の高校生は違う。彼らには他にも「すけじゅーる」なるものが存在するらしく(小中学生のソレとは規模が違う)、課題と同等に処理しなければならないものの一つらしい。
だが、それらは彼らにとって「みんなで行う楽しいもの」でもあったりするらしく(例えば海に行ったりとか)、おまけに周囲に言いふらすときにはニヤニヤしながら「あーメンドクセェ」と一言付け足してまるで自分にとっては重荷であるかのような言い方をしつつ密かに優越感に浸ってるんだとか(そいつは相当にタチが悪い)。
今ではその言葉を聞くたびに虫唾が走る。

そう、私の夏休みにもその「すけじゅーる」が組み込まれる・・・
はずだった。
何故組み込まれなかったかといえば、それはもう言わずもがな私の行動力もといコミュニケーション能力が原因だった。
私は中学のころから相当な根暗気質(主に顔面が)みたいで、何をしてもしなくても「機嫌が悪そう」だとか「楽しくなさそう」だとか「仏頂面」「委員長っぽい」などの意味を示唆する視線を浴び続けてきた。
もちろん私自身そんな覚えはなく、少なくとも内心では楽しく過ごしていた。でも顔はあまり笑ってなかったかもしれない。高校で新しい学校生活を送れば自然と表情も柔らかくなってくるかなと多いに期待を膨らませていた。

・・・まぁ言うまでもなくそんなものは幻に過ぎなかった。「自然と」だなんて期待していた自分が馬鹿みたいだ。
そもそも学校とかいう人為にまみれた世界にそんな言葉が存在するはずもない。結局皆人為的に感情をさらけ出している。人との付き合いの中で自然と感情をむき出しにすることなんか一切無い。人の手によって感情は作られるのだ。
「ここではこうしたほうが良さそうだ」と自ら判断を下し、本来兼ね備えた情を捨て、相手に合わせて表情を作り直す。そうした形式的なやりとりが結果、「友情」というものを作り出している。
仕組みがわかった途端、私は呆れ果ててしまった。情もクソもあったもんじゃない。うわべだけのコミュニケーションなんて無意味だ、と。
内心陽気だった私も、気付けば根元まで根暗気質になってしまっていた。

結局私は他人とのやり取りを諦めた。こんなものを一学期の間にこなすだなんて無理ゲーにもほどがある。
それこそまるで情の無い人間だなんて思われそうだけど、決してそうではない。むしろ情があるから拒むのだ。私はまだ情を捨てたくない。
けどそれは世間から見たら我儘なのか?非があるのは私なのか?


あぁ、こうしてる間にもクーラーが責め立てるかのように冷気を浴びせてくる。山積みになった課題も無言の圧力をかけてくる。
とりあえず読書感想文はさっさと終わらせてしまいたい。あれは残し続けると後々やっかいだ。英語とか数学のワークは答えを見ながらそれっぽくやれば瞬殺できる。いや出来るか?にしてもちょっと多くないかこれ?
・・・いや出来るんだろう。だって「すけじゅーる」がないもん。夏を共に過ごす相手がいない。残念ながら全然余裕を持って終わらせられる。
じゃあ夏休みは?
これを終わらせれば夏休みも一緒に終わってくれる?終わった次の日から新学期?
そんなわけないだろ。夏休みは終わらない。夏休みが終わらない限りこの押し問答も延々と続く。なんて退屈な日々。
それに現段階では二学期にすら希望を見出せない。こうしてる間にも周囲の同年代たちは交友の輪を広げている。さぞ有意義だろうな。
当たり前過ぎてそんなことすら感じてないんだろうけど。

ていうか寒い。気付けば部屋が冷え切ってる。
結局今日もクーラーの冷気と夏を過ごすことになるのか。誰も連れ出してくれないし、しょうがないか。
そんなことを考えながら冷蔵庫から棒アイスを取り出す。体を冷やし続けることで夏を忘れるのだ。


・・・まぁそれでもいつか、暑い日差しを浴びられる日が来ると いいなぁ。

夏の寒さについて

夏の寒さについて

こんな女の子いたら良いよねって話です

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-22

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