よい子の理論

ことだま

誰かが私を完璧だと言うから、
私は完璧であり続けなければと思った
誰かが私を真面目だと言うから、
私は真面目であり続けなければと思った
誰かが私を頼れる人だと言うから、
私はいつでも頼られる人であり続けなければと思った
言葉は刃物だ
彫刻のように私を作り上げることもあれば、
ナイフのように私を殺すこともある
完璧だから、真面目だから、頼れるから、
私は誰も頼らない、誰にも泣きつかない
寂しがったら、甘えたら、弱音を吐いたら、
柄じゃないと言われるから、
一人でも平気な顔をしなければと思った

他人の見ている私が、
私のあるべき姿な気がしたから、
その期待を裏切るわけにはいかないと思った

誰かが私を悪い子だと言うから、
私は必死でいい子になろうと思った

舞踏会

仮面を被って、綺麗なドレスで着飾って、
今日も舞踏会へ出かけましょう
一人の世界から一歩踏み出せば、
そこはもう、嘘だらけの仮面舞踏会

本当の私さようなら
理想の私こんにちは

お色直しは何回必要でしょうか
仮面はおいくつ用意しましょうか
本当の私はどこにしまっておきましょうか

ありったけの嘘を着飾って、
私は今日も出かけます

give and give

どうしようもなくあの人と繋がっていたい
どうしようもなくあの人に抱きしめてもらいたい
どうしようもなくあの人にキスしてもらいたい
どうしようもなくあの人のそばにいたい

どうしようもない想いが集まって私たちは“恋”をする
でもそこに“愛”はない
“愛”は無償のものだから
誰かを想う気持ちに代償が必要なくなった途端
“恋”は“愛”になる
でも、誰かを想う気持ちに見返りを求めていたら
“恋”はいつまでも“恋”のまま

与え続けなければいけない
たとえそれが自己満足だと言われようとも
見返りを求めない想いこそが
“愛”と呼べるものだから

赤信号

赤信号で止まるのは
私がいい子だからじゃないよ
あなたと少しでも一緒にいたいから

ゆっくり帰ろう
お話しながら

真面目ちゃんって笑うでしょう
それだって嬉しいの
笑うあなたが私のせいなら
どんなことだって嬉しいの

繋がない手でも
揺らる度に触れるから

こんな夜なら
ちっとも寒くないわ

あいでんてぃてぃ

いつからだろう
私が人の頼り方を忘れたのは
いつからだろう
私が人から頼られないと不安になるのは

人は自分ひとりで自分の存在を認識できないみたいだ
隣にいる誰かが自分を見つけてくれて
初めて自分の存在を知るんだ

いつからだろう
人の顔色を伺いながら話すようになったのは
いつからだろう
人の褒め言葉がお世辞に聞こえるようになったのは

悪口はいつだって自分の事だと思うくせにね
褒め言葉はいつだって嘘に聞こえるんだから
変なの

みつめる

昔から人の顔を見て話せなかった
どこを見ていいかわからなかった
見てはいけない気がした

見てしまえば
見たくないものが見える気がした

その顔の向こうにある本当の気持ちが
この言葉が上辺だけであるということが

目をそらせば傷つかなくて済む気がした

でも今は少しだけ顔を見て話そうかと
そんな気持ちが生まれてきた

その顔に、その言葉に
優しさや信頼や愛しさが
ほんの少しでも顔をのぞかせるから

もう少しほかの気持ちを探してみたいと
思うようになったから

前を見て
目を見て
話してみようと思う

おやすみ

あれからどれほどの時間がたったのだろう
私たちの手をすり抜けて
消えていったものたちを

忘れるものかと誓ったはずだった
忘れることなどできないと思っていた
何度も何度も自分に言い聞かせたのに

この過ちを何度繰り返せばいい
この後悔を何度繰り返せばいい
この喪失感を何度味わえばいい

思い出すのはこの一時だけになっていた
振り返る機会は日に日に少なくなっていた

目をつぶるこの一瞬だけ私たちは思い出す
目をあけてしまえばいつもと同じ時間がまた動き出す

何事もなかったかのように時間は進んでいく

何事もなかったかのように時間を進めなければならなくなっている

あの日感じた感情のほとんどを忘れて
私たちは今日を生きる
おやすみ愛しき人

またいつか同じ気持ちを味わう日が来るかもしれない
今愛せる人を
思い出したこの一瞬だけでも
全力で愛そうと思う

過去の未来

君に逢わなければよかったと思う時がある
君に逢わなければ
君を傷つける苦しみも
君を失う悲しみも
味わうことなく生きていけたのに
でも君に逢わなければ
君と笑い合う喜びも
君と過ごす夜のぬくもりも
知ることはなかっただろうね
君を抱きしめたい渇望も
とめどなく溢れる君への愛しさも
こんなにも君で満たされた自分を知ることもなかったね

君がいない過去の未来は
今よりも幸せだろうか
君に出会わない過去の未来は
なにを学んだんだろう
君がいた過去の未来は
今の自分を作っていて
君に出会った過去の未来は
今とても幸せだよ

かごめ

裏の顔を持つ人がいる。
腹黒いと言われる人がいる。
裏表のないと言われる人がいる。
そのどれでもない人がいる。
裏の顔は裏にはない。
裏に回れば別の表の顔がそこには待っているから。
裏の顔を見ようとしてぐるぐると回ってみても、いつまでたっても裏の顔なんて出てこない。
たくさんの表の顔たちが裏の顔を囲むように立っているのだから。
かごめかごめ、籠の中の鳥のよう。
誰にも見せない裏の私はいついつでやる。
いつも周りと距離を感じるのも表の顔たちが囲っている分仕方ないのだ。

よい子の理論

よい子の理論

よい子になりたいですか よい子ってなんですか 私は誰よりも悪い子だよ よい子のふりをしてるだけ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-21

Copyrighted
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  1. ことだま
  2. 舞踏会
  3. give and give
  4. 赤信号
  5. あいでんてぃてぃ
  6. みつめる
  7. おやすみ
  8. 過去の未来
  9. かごめ