現実と認識

「本当にこれで大丈夫なんだろうな?」
 (さとる)が訝しげな表情で尋ねると、三人は息を合わせるように同時に頷いた。
真夜中の小学校に集まり、携帯ライト片手に作戦会議に勤しんでいる姿は、さながら冒険小説の一端のようである。
悟は白い光を床に向けた。

「すごいリアルだ」

 暗闇の中から、二つの丸眼鏡を光らせるガリベン生徒、茂木(もぎ)が唸るように声を発する。
 すると隣の屈強な男、丸尾(まるお)が握りこぶしを彼の頭にぶつける。

「いたい、何てことするんだ」

 丸尾は反発にも臆することなく茂木の胸倉をつかみ、真っ暗な床の上に突き飛ばす。

「お前の声がデカイからだ。誰かに見つかってみろ。全部お前のせいだからな」

 テンションが急降下した茂木は頭を摩りながら元の配置につく。

「君たち、計画は三時間後なんだから、喧嘩してる場合じゃないよ」

 悟が二人を仲裁する。
 床には茂木が唸ったのも頷けるほどの、リアルな物体が転がっている。
 黒い長髪を地面に散乱させた少女の倒れた姿。
 腹部からは真っ赤な血を流し、その血だまりの中にはナイフが一本突き刺さっている。
 
「しかし茂木が驚くのも無理もない気がするな。これはどこからどう見たって本物にしか見えねえ」

 丸尾は両腕を組みウンウンと二度頷く。

「昨日ふたりで作ったんだよ。君たち塾だからってこなかったけど、大変だったんだよ」
「すまん、すまん。…で、計画って何するんだっけ?」

 呆れたという感じで茂木が丸尾に軽蔑の視線を向ける。

「丸尾さん、僕を吹き飛ばしておいて、その言い草はないじゃないですか。騙すんですよ。騙す」
「騙すって?」
「…ったく。重弘(しげひろ)君を騙すんですよ」

 すると今まで死んだように眠っていた少女の上半身が浮き上がり口を開く。

「覚えてないの丸尾君。重弘君を元気付けようって、みんなで計画を立てたじゃない」
「ああ…ああ、そうだったな」
「どうしたの? 浮かない顔して」
「こんなことで、本当にアイツ元気になるのか? だって、同級生が死んでる姿を不登校の生徒に見せて驚かせようなんて、もしかすると逆効果じゃねえのか?」
「そうかな? わたしは良い案だと思ったけどね。目の前で昔仲の良かった生徒が倒れてる。救急車で病院に運ばれてその場から消える。彼はとても心配になる。わたしはしばらく影で隠れてて、次の日に、実は生きてました、ってやると、きっと驚くと思う」
「……ううん」

 悟は両手を広げ皆を諭すように声を上げる。

「まあ、とにかくやってみよう」
「やってみようじゃねえよ。救急車も呼ぶんだろ。大騒動だぞ。学校の生徒や教師だって集まってくる。それに終わった後には先生たちから大目玉をくらうはずだ。それだけじゃない、親からも怒鳴られるのは確定だろうし」
「重弘のためだろ」

 丸尾はこう言われると電池が切れたかのように口をつぐむ。
「そうです丸尾さん。重弘君の元気を取り戻すためなら、どんな騒動になったって構わないんです。次の日、みんなで胸を張って学校に行きましょうよ」
「簡単に言ってくれるな。お前、俺んちの親父の恐ろしさを知らないから、そんな暢気なこと言ってられるんだ」
「大丈夫よ丸尾君。茂木君の言うとおり、彼のためなら先生や生徒だって、親だってきっと許してくれるはずよ」

 こう言った少女は死体とは思えないほどの快活な声を、ためらう丸尾に対して放つ。

「せっかく美紀(みき)も乗り気になってくれたんだ最後までやりとげようよ」

 丸尾が両目をつぶり、唸るような声をだしながら、考えこんでいると、奥から大人の声が聞こえてくる。

「何だ? そこに誰かいるのか?」

 悟が小さな声で叫ぶ。

「みんなライトを消すんだ」
 
 三人は悟の言うとおりにライトを消し、そして己の存在を抹消するかのように、周囲の闇に溶け込んでいく。
 しばらくすると奥から、足音がトントントンと軽快に聞こえてくる。
 鳴っては止み、鳴っては止みを繰り返し、次第に四人の元へと近づいてくる。
 ゴクリ、と誰のものとも分からない、唾を飲む音がこだました、その瞬間、ふと足音が停止した。

 ガラガラガラと扉の開く音が聞こえ、またトントントンという音が再開される。
「…気のせいか」

 足音の持ち主が弱々しい声を洩らすと、思わず茂木が声を上げてしまう。

木戸(きど)先生って、あんなに弱虫だったんですね。いつもは僕らの前で、ちゃんと宿題やって来い、とか、忘れ物した奴はいないか、って大口叩いてるくせに」 
「うるさいよ茂木。しいい」

 三人が声を押し殺し同時に注意する。
 木戸先生の足音はしばらく周囲を旋回し、誰もいないことを確認すると、扉を閉め、また奥の闇に消えていく。
 
「大丈夫。ここは絶対に見つからない」

 悟が自信ありげにこう発言すると、美紀も頷き続ける。

「そうよ、ここは何年も前から使われてない教室なんだからね。一週間前にふたりで職員室から鍵を盗んでも、誰も気付かないくらい古い部屋なんだから」

 …重弘が学校に来なくなったのは今から一ヶ月前のことだった。
 
「重弘、今日はずいぶん遅いな。いつもは、寝坊で遅れたって言ってホームルームすれすれに駆け込んでくるくせに」

 体格の二分の一程度しかない椅子の上に巨大な尻を落とし込み、偉そうに両腕を組みながらこう言葉を洩らすのは丸尾。
 隣の悟は大きな欠伸をもらし、彼の駆け込んでくるであろうグラウンドをガラス窓の内側から見守る。
 丸眼鏡を光らせた茂木が悟の机に両手の平をつき、声をかける。

「どうですか? 来ましたか重弘君」
「うんにゃ、まだ」
「風邪でもひいたんですかね? 最近寒いですからね」
「昨日は元気だったじゃん。昼休みはドッジボールやったし、放課後も一緒に帰ったし」

 すると教室の出入り口から颯爽と少女が現れる。
 先の暗闇で死体に変装していた美紀である。
 
「ねえねえ、聞いた? 重弘君、今日学校来ないんだって」

 三人は彼女の報告に対し、目を丸くして驚いている。
「理由は何なんだ?」

 立ち上がると同時に丸尾の椅子が後方に吹き飛ぶ。

「知らないわよ。わたし職員室で木戸先生にこう聞かされただけだから」
「やっぱ風邪だな風邪」
 
 悟は腑に落ちないという顔をあらわにし、もう一度、窓の外をボンヤリと眺めはじめる。

…重弘は、それから二ヶ月経っても、学校に姿を見せなかった。
 四人は相変わらず驚きの反応を見せていたが、それも最初の一週間程度だけで、次第に彼がいない状況が普通に思えてくるのだった。
 
「理由は何ですかね?」

 体育の授業。
 運動場で声を上げながらマラソンに勤しむ茂木と悟は久々に重弘の話題を口にした。
 重弘がいなくなったのが平常運行になっていた学校生活において、彼の話題が出てくるのは珍しい。

「知らないよ。木戸先生にでも聞いたら」
「聞いたんですよ。聞いた。聞いたけれど、何だか口ごもって答えがはっきりしないんです」
「じゃあ単なる不登校だな」
「僕が知りたいのは理由ですよ。悟君、彼に何があったのか知りたくないんですか?」
「人は理由がなくても学校を休むよ。僕らだって理由もなく怒ったり、理由もなく悲しんだり、たまにあるだろ?」
「たまにで二ヶ月間も休みますか? 異常ですよ異常」

 悟が大きな欠伸を一つすると、背後から近寄ってきた木戸先生により注意をうける。

「こら悟、茂木、授業中だぞ。ぺちゃくちゃ喋ってないで、ちゃんと走らんか」
「…先生、重弘君、何で学校に来なくなっちゃったんですか?」

 茂木がこう問うが、木戸の返答はしどろもどろ。

「…うん? ああ、重弘?」
「もう二ヶ月ですよ。そろそろ僕たちにも理由を教えてくれてもいいんじゃないんですか」
「ああ…そうだな」
「やっぱり学校が嫌になって来なくなったとか」
「お前たちが心配する問題じゃない。今俺たちが必死にアイツの話を聞いてるんだ。アイツもいろいろな問題を抱えてる。きっともうすぐ戻ってくるさ」

 悟が声を荒げる。

「僕ら友達ですし」
 
 ふたりがポカンと口を開けたまま走りを止めると、悟は猛ダッシュで前方へと走り抜けていった。  

「よし準備万端」

 夜の闇はまだ続いていた。
 上空にカラスたちが大挙として押し寄せ、うるさく泣き喚いている不気味な小学校、計画の準備が整った四人が指定の位置につく。
 
「しかしアイツ本当にやってくるのか?」

 丸尾は大きな体に収まりきれないほどの黒マントをまとい、ターゲットの重弘が来るのを今か今かと待ち続けていた。

「来る」

 美紀は最前と同じような体制になりながら、顔だけをのっそりと丸尾の方へ向けた。
 
「木戸先生が教室内で呼んでるって家に連絡をいれたんだ。きっと来る」
「でもこんな夜中だぜ。校舎の電気だってどこもついてないし、本当に上手くいくのかなあ」 

 教壇の前に座る悟が自身を臭わす発言をしたにも関わらず、丸尾はまだ半信半疑の体を崩さない。
 
「丸尾君、いやなら帰ったっていいんですよ。犯人役なら僕だってやれます。偽物のナイフを持って、美紀さんに近づき、そして彼女が大声で叫んだ後、教室から飛び出すんです。簡単な仕事だ」
「お前じゃ小さすぎるだろ。犯人は大人じゃないといけないんだ。学校に侵入した殺人犯が美紀をナイフで刺す。その役は俺が一番ぴったりだろうからな」

 すると悟が大声を出す。

「みんな、静かに」

 いつの間にか窓の方に近づき階下の様子を伺っていた悟がグラウンドにいる何かに気付いたようである。
 他の三人が近寄り、彼と同じように窓から顔を突き出す。
 暗闇のグラウンドに小さな明かりがポツリと灯っている。
 
「きっと重弘に違いない」
 
 四人に鈍い緊張感が押し寄せる。

「さあ、配置につきましょう、みんな」
 
皆がすり足で所定の場所へと向かうと、今まで騒がしかった室内が、ぱっと静寂の元に立ち返る。
 三人は沈黙と暗闇の中で五感を鋭く集中させ、待ち望んでいた少年の行方を見守る。

「先生が来いって言ったから、面倒だけど来たんだ」

 重弘が来なくなって二ヶ月がたったある日、彼は突然学校に現れた。
 そして丸尾の質問に対して、こう返答した。
 
「みんな待ってたのよ。急にいなくなって、心配したんだから」

 美紀が顔をしかめながらこう言う。
 重弘は皆が予想していたよりも、案外あっけらかんとした態度だった。
 というよりも、昔よりも口調が明るく、心を病んで学校を休んでいた人間とは思えなかった。

「理由は何なんですか? どうして二ヶ月も学校に来なかったんですか?」

 重弘は大きく伸びをし欠伸をする。
 質問に答える気などさらさら無いかのような、ふてぶてしい態度。
 四人は少し呆れ顔。

「別にそう騒ぐほど大きな問題じゃないよ。ただ言いたくないだけ」
「僕たち友達だろ? そのくらい話してもいいだろ?」

 重弘は悟の言葉に対し、さっきとはうって変わった鋭い眼差しを向ける。

「…つまらないな。お前ら」

 彼はそれっきり黙りこんだまま、その態度を崩さなかった。  
 そして次の日から、彼がもう一度学校に足を運ぶことはなかった。

「悟君、来ましたよ」

 宵闇に茂木の声がほとばしった。
 廊下の奥から、足音がカツカツカツと響き渡り、次第にこっちに近づいてくる。

「…準備はいいな、みんな」

 悟は教壇の机の後ろ、茂木は掃除道具入れの中、美紀は床の上へ、丸尾はその近くで腰を埋めている。
 
「木戸先生、いないんですか? 木戸先生」

 それは紛れも無く重弘の声だったで、三人はとりあえず彼が訪れたことにホッとした。
 白いライトの光が教室の外でユラユラと左右に揺れている。
 
 …彼を驚かせる、それが一週間前に悟の思いついた案だった。

「いいな、美紀が床の上で横になっている。そして外から重弘が現れ、そして犯人役の丸尾が近くに立っている。不思議に思った重弘が近寄ってくると、月明かりに照らされて、美紀の死体が露になる。きっと重弘は驚きの声を上げると思うから、その瞬間、丸尾が教室内から大袈裟に逃げ出す。そして背後から声を聞きつけた僕と茂木がやってくる」
「でも、そんな夜に悟君と茂木君が校舎にいるのっておかしくない?」
「…うん。でも、まあ…それは、きっと重弘も気が動転してるだろうし、適当につくろえば何とかなるんじゃないのかな」
「何とかなるって随分適当だね」
「いいんだよ、どんな手を使ってもアイツを驚かせればいいんだから」

 …ガラガラガラ。
 教室の扉が開く音がした。
 タンタンタンと弾む足音が美紀の眠る窓側の位置にまで移動していく。
 そしてパタリと止む。

「何だこれ」

 重弘の声は若干ふるえていた。
 彼のライトが人魂のように彼女のいる床の方へと近づいていく。
 すると叫び声。

「うわああああああああああああああああああああ」
 
 悟は暗闇の中でニヤリと笑う。

「………彼を驚かせて、本気で不登校が治ると思ってるの?」

 一週間前の作戦会議で美紀が再度、異論を唱える。 

「治るさ」
「確証はあるの? もし失敗したら大変なことになるよ。学校中だけじゃない、街中が大騒ぎになる。きっとタダじゃすまない」
「君もアイツを救いたいとは思わないのかい? アイツはね、今きっと心が疲れきってるんだ。何にもやる気が出ない、友達のことだって、どうでもいい。勉強だってしたくない。疲れきってるアイツの心を解き放つにはガツンと大きなショックを与えてやるのが一番いいんだ。アイツの気をこっちに引き寄せるだけでいいんだ」
「…でも」
「アイツがそう認識すれば構わないんだ。どんな手を使っても構わない。友達を救うためなら、人を騙しても構わない」

 悟の熱弁どおり、重弘は激しく驚いた。
 驚きのあまり、背後の床の上に尻餅をついた。
 その瞬間、教室内に閃光が灯る。
 道具入れの中から静かに飛び出した茂木が、壁にある電気のスイッチを押したのだ。

 重弘の目の前には腹部にナイフの突き立った美紀が大の字で倒れている。
 それは正真正銘彼女の死体にしか見えない。
 そして巨漢の黒マントに目だし帽の男が彼女の脇に突っ立ち、あやしい姿を晒している。
 そのあやしい人物、丸尾はダンッと大きな足音を響かせると、一目散に教室内から飛び出していく。
 
「どうしたんですか重弘君?」

 それはわざとらし過ぎるくらい、わざとらしかった。   
 
「どうしたんだ重弘」

 続いて悟が登場する。

「あ? 何でお前らが、ここにいるんだよ?」

 動揺する二人。

「え…ええ、ちょっと学校に用事があって」
「…こんな時間に?」
「重弘こそ何やってるんだよ、こんな真夜中だぞ」

 三人は倒れた少女、美紀をそっちのけで淡々と会話を続けている。 

…沈黙。

 さらに沈黙。
 しばらくして、最初に口を開いたのは重弘だった。

「何だ? この茶番」
「…ちゃ」

 茂木の丸眼鏡がキラリと光る。
 重弘は二人を無視し冷静さを保ちつつ、美紀の死体へと近づいていく。

「重弘さん、それっ美紀さんじゃないですか? ……これは一体」

 重弘は腰を屈め美紀の死体をまじまじと見つめている。
 悟は若干の不安感を滲ませる。

「し…重弘君、きゅ、救急車を呼びましょう」
「いらないよ、そんなもの」

 まさかの即答に二人は唖然とした表情を見せる。

「これ死体じゃないだろ。きっとまだ生きてる」
「何を言ってるんですか? どうみたって死んでるじゃないですか、そのナイフに、ほら傷口からすごい血が出てますよ」 

 重弘はくんくんと犬のように美紀の腹部の臭いを嗅いでいる。
 そしてライトを彼女の顔に近づけると、それを目元付近に持っていき光をあてる。

「……や、やばい」

 悟がこう口走った、その時だった。
 むっくりと美紀が起き上がり、両目を擦ったのだ。

「まぶしい」

 こう言うと、パッと両目を開く美紀。

「やっぱり」

 重弘はしめしめという笑みをもらしながらこう言う。

「どういうことなんだよ? 何でこんなことしてるんだよ、お前ら」

 三人はふて腐れたような態度で下を向く。
 しばらく沈黙が流れ、お通夜状態が続く中、その沈黙を打ち破るように美紀が口を開く。

「重弘君を助けようとしたのよ」
「俺を助ける?」
「重弘君を驚かせて目を覚まさせてやろうとしたんですよ」

 茂木が続けると重弘は呆れたという表情で若干の苦笑いを浮かべている。

「僕が発案したんだ。君がなかなか学校に来ないんで、何かそのきっかけが掴めるかと思って今日この作戦を実行したんだ」
「じゃあ、さっき走り抜けて行ったのは丸尾だな」
「そう、アイツが殺人者をよそおって美紀を襲う。死んだ美紀を君が見つけ驚く、と同時に僕らが飛び出してくるって寸法だったんだけど」
「…失敗か」
「君があまりにも鋭かったからね」 
「…ったく」

 屋上に押し寄せていたカラスの群れが突然バタバタと空へ舞った。
 それに気付いた四人が、どうしたのかと窓際に近づく。
 廊下を隔てた新校舎の屋上に何者かがいる。
 自らに携帯ライトの白いスポットを当て、大きな黒マントを蝙蝠のように広げている人物。
 
 丸尾だ。

「ちょ…あいつ何やってるんだ」

 悟が声を荒げるが遠く離れた彼に聞こえるはずがない。
 黒マントの丸尾は屋上の隅っこを、ゆっくりと歩きながら、何やら大きな声で笑っている。 

「ワハハハハハハハ」

 演技のつもりだろうか、悪を演じきっている丸尾は、実に満足気に屋上を徘徊している。

「危ない」

 すると屋上に浮かんでいた黒い影が突然消えた。
 
「やばいですよ丸尾さん」

 四人は急いでベランダへと飛び出し、上半身をひねり出すかのように、手すりから身を乗り出した。

「何だよ? どうしたんだよ? これも演技なのか?」

 さっきの落ち着き払った態度とは正反対に、重弘の声は震え、驚愕の言葉を発している。

「違う。演技じゃない」

 悟がこう言い放った瞬間、四人の視線が地上に向いた。
 そこには壊れた人形のように手足が四方に折れ曲った醜い格好をした丸尾の姿があった。
 
 茫然自失の四人…かと思いきや背後にいる美紀と茂木だけは何故かニヤニヤと笑っていた。
 重弘が目を丸くして驚いている姿に腹をかかえるようにして笑っていた。 

                                                ──現実と認識──終わり 

現実と認識

現実と認識

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-21