ちょっとしたこっそりデート

今日はクリスマス。今年のクリスマスは弟とデートする予定だ。
弟と言っても、血が繋がっているわけではない。父親の友人が亡くなって、残された子供をうちの家庭が引き取ったから私の弟となった。今から十年くらい前の話だ。ただ、遠目に見ると弟と呼ぶには違和感がある。そもそも弟と呼んでいるのも便宜上の呼び方で、実際の年齢は数か月程度あたしより遅い程度だ。
その弟がただの義理の弟で終えられるのだったら、私は苦労しないだろう。実を言うと、私は弟が好きだ。家族愛というわけではなくて、恋愛感情の話だ。別にブラコンなんかではない。いつから好きかというと、同じ屋根の下で生活をする前の頃から。しかしながら十年もあったのに告白出来てないのは、自分でもどうかと思っている。誰かに相談することさえできていない。
その一方でもし告白したらどうなるかに怯えている自分もいる。
待ち合わせの場所に時間より街はイルミネーションの灯りで埋め尽くされている。様々な色の電灯が自然と視界に入る。その光景に思わずため息が出そうになる。この景色を一緒に見れたらもっとうれしいんだろうと考えてしまう。近くのところでも待ち合わせしていると思われる人が何人もいる。
 時計を見ながら、待ち合わせの時間になるのを待つ。十分はたったと思って時計を確認すると、実際は一分しか経過してない。こんなことを何十回も繰り返した。他の人は待ち合わせ相手と会ったのか待っている人数が減っている。こんな遅くに待ち合わせなんてしなくてもいいのに。そんなことを考えても仕方ないのはわかっている……つもり。
 そんなことを考えながら少し不安な表情を浮かべていると弟がやってきた。
「待たせたか?」
「ううん、大丈夫。あたしもついさっき着いたばかりだから。それより……早く行こ?」
 そう言いながら、その言葉と作り笑顔でその場を取り繕った。弟には何かあったと見透かされそうなのはわかっていたけど、どうでもよかった。案の定、弟はあたしを少し疑っているような顔をしている。とりあえず、弟と最初の目的地に歩いて行くことにした。
 最初の場所は見た目お高い感じの料理店。高層ビルの上の方の階にあるから、辺りを見渡せるということで人気らしい。弟が言うにはこの時期は特にお客さんが多いからギリギリ予約が取れたそうだ。コース料理だから、一つ食べ終わって一定時間過ぎた後に、次の料理が運ばれる。だから料理の間の時間には話す余裕がある。
「こういうところに来るのって初めてだよな?」
「そだね。行きたいって言ったのはあたしだけど、まさか用意してくれるとは思ってなかったから、嬉しいよ」
 本当はあなたと一緒だからなんて言えそうにない。特に変わったことないような素振りを見せないようにしている。それだけで精一杯な気がしなくもない。
「よかった~。苦労したかいがあった。今日の為にどんだけバイトしたか」
「でも、この年間でも税金ギリギリまではやってないでしょ」
 そういえば、今年は毎日会えたり会えなかったりを繰り返していた。あたしの為に無理しなくてもいいのに。
「しかし、綺麗な景色だな。ただ、窓側じゃねーから、よく見えないな」
「でも、この店が取れたことが奇跡だからそこまで気にすることじゃないよね」
 目の前にいるあなたほうが綺麗。あたしの独占欲が動き出しそう。
 

コースの最後のデザートを食べ終わって、二人で席を立った。会計は弟が全部してくれた。あたしだって自分の分くらいは次の目的地に行く途中、クレープの屋台を見つけた。あたしがいいなぁと小さくつぶやくと弟は買ってこようかと訊いてきて、あたしは少し戸惑いながらも頷いた。
弟が買いに行ってる間、あたしは近くのベンチに座った。近くの音響は歌を流している。クリスマスの曲ではなかったし知っているアーティストの曲でもなかった。
「……い! 聞いているのか?」
「わっ!」
 どうやら、あたしは弟の声に気づいてなかったようだ。おかげで弟にかなり心配された。
 二番目……と言ってもこれで最後だけど、観覧車だ。もちろん、二人一緒の観覧車。向かい合わせに乗ることにした。
少しずつ上がっていくのは観覧車だけではなかった。少しずつ心臓の鼓動が早くなっているのがわかる。
「普段こういうところに二人で来ないからどうなるかと思ったけど、ボーっとしたことを除けば、特に問題なく進んだな。」
「そ、そうだね」
 気が付くとあたしはいつもより焦っているかのように返していた。もう隠しているのもつらくなってきたということだろうか。奇跡が起こるかはわからないけど、試してみようと思った。
 心臓の高鳴りが最高潮を迎えた時、他愛もない話を断ち切り、あたしは立ち上がって、
「ねえ、あなたは私の義弟なのはわかっているけど、これだけは言わせて!あたし、ああたのことが好きなの!」
十年以上もの間隠し続けた想いを伝えた。
弟は呆然としながらも顔は赤く染まっていた。

ちょっとしたこっそりデート

ちょっとしたこっそりデート

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-19

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