ギムレット先生の憂鬱
スマホゲーム「モンスターストライク」の二次創作物です。
教師、という職業は、存外大変なものである。授業をする日中は勿論、夜はプリント作成や授業内容の予習、来るであろう質問の受け答えやテストの丸付け、提出物のチェックや成績処理などやる事が盛りだくさんだ。部活の顧問でもしようものなら、更に時間が無くなってくる。
モンスト学園において、そんな世間一般的に教師と呼ばれる存在であるギムレットは、机に座り、頭を抱えていた。勿論頭を抱えるというのは比喩的な表現なのだが、この時ギムレットはその比喩がぴったり当てはまる程に悩んでいた。
「はぁ...」
気づけば、やるべき業務も全て終わったのにそんなため息を吐く自分がいる。まったく、私らしくもない...そう心の中で呟き、明日の分のプリント作成でもやるかと思った矢先、ギムレットの悩みの種の一人である人物が声をかけてきた。
「おーおーどうしたギム先生、何だか元気がねーじゃんかよ」
歩み寄りながらギムレットの肩に手を回し、まるで学生のようににかっと笑う人物の名はぬらりひょん。ギムレットと同じく、モンスト学園で教師を務めている人物の一人だ。
「ぬ、ぬらり先生!別になんでもないですから、先生も自分の業務に...」
ぬらりひょんの柔らかい果実がギムレットの頬に当たる。途端に頬を染め、慌ててぬらりひょんの手を払うギムレット。
「なーんだ?そんなに顔赤くしちゃってよ、あ!まさかギム先生、私の事好きなのか?」
「にやにやしながら言わないで下さい、そんな事絶対にありませんから」
「まぁた、照れてるだけなんだろ?」
「ああもうてかぬらり先生酒臭い!また業務中に飲酒しましたね!」
「んなもんいいだろー、もう授業無ぇんだし?ひっく」
「出来上がってるじゃないですか!」
「まーまー、んなつまんねー事よりギム先生も授業終わりだろ?...アソぼうぜ?」
「あ、ああああ遊ぶって何を....」
「うわー、ギム先生やらしー事考えただろー」
「なっ......もういいです、自分もこの際言わせて頂きます」
そのただならぬギムレットの雰囲気にも全く動じない酔っ払いぬらりひょん。
「あなたのその格好は刺激的すぎます!なんですか肌着がサラシだけって!しかも常に前を開けて谷間晒して!サラシだけに晒してるんですか!そんなんじゃみだらな事を考えてしまっても仕方ないというものでしょう!」
指をビシッとぬらりひょんに指し、やけになったような声で言い放つ。勿論その声は職員室中に響き渡り、大半の教師が「考えてたんだ...」というような表情を浮かべた。幸か不幸か、その反応でギムレットの寒い駄洒落は闇に葬られたようだ。
「なので!私は即刻あなたにそのふしだらな衣装を正して貰いたい所存です!」
「なんだ、ギムレット先生は私に脱いで欲しかったのか?そ、その...それは流石に...こ、ここ職員室だしせめて2人きりの時に...」
「そーゆー意味じゃありませんッ!!くねくねしないで下さいッ!!普段からそのサラシと羽織りのみという格好を正して下さいと言っているのです!」
「な、この古くから先祖代々伝わるサラシと羽織りを脱げと!?」
「この前汚れたから替えようかなって言ってたじゃないですか!」
「で、でも英語のテキーラ先生とか保健のオロチ先生とかも、結構激しめの格好を...」
「て、てててテキーラ先生はいいんですよ!それに正すとしてもそれはあなたの次です!」
「んだそれ!ひーきだひーき!」
「贔屓じゃありません!もう今回という今回は本気です、校長室に直談判してきます!」
最後にぴしゃりと言い捨て、ギムレットは職員室を出て校長室へと向かった。
ギムレットの身の丈の倍はある厳かな雰囲気のドアの前に立ち、その取っ手でコンコン、とノックをする。
「入ってよいぞ」
「...失礼します」
そこには、入り口に見合う筋骨隆々とした体躯と長い銀髪を持つ、この学園の校長である、ゼウスがデスクワークをしていた。いつ見ても、何故学校の校長をしているのか、と疑問に思うほどの肉体美である。
「ギムレットか。どうかしたのか?」
「職員の服装が乱れている件について、提案の言葉を言いに来ました」
「まーたそれかい...お前は本当に、ぴしっとしたもんが好きだのう」
「私の好みなどなんでもよいでしょう。それより...いや、その前に校長、あなたのその服、」
「ん?」
「流石に、そのバスローブのような服は、その、色々と不適切なのでは」
「な、何を言うとる!これは校長としての威厳を保つためのうんぬんかんぬん…」
「…まさか校長、自分の筋肉を自慢したいだけ、とかいうくだらない理由じゃありませんよね?」
ギクッ!と、ゼウスの巨躯が強張った。どうやら図星だったようで、何かしら言い訳らしきものをしているがどれもこれもしっちゃかめっちゃかである。
「はぁ…全く、校長もしっかりして下さいよ…」
「だがギムレットよ、流石に上裸などといった具合のものならアウトだが、今の服装を縛るのには儂は反対だな」
「何故です?」
「儂の教育理念に反するからだ」
「曇らせなくていいので、具体的にお願いします」
「まぁ要するにだ、服装も個性、という訳だ」
「…理解し難いですね、それ自体については賛同ですが、何も学校教育の場に持ってこなくとも」
「服装が決まってなきゃ学業はできんのか?」
「それは…」
「お主は一回、そこらへんについて考えるべきじゃな。とにかく、服装の規制は認められん」
「…分かりました、失礼します」
一礼し、ギムレットは校長室を後にした。
服装も個性…確かに一理ある。一理あるが、そこにあるだけだ。理解するだけで、共感はしない。
そのはずなのに、しかしなんだろう、この自分の内なる心がくすぐられる感じは。
そんな心境のままギムレットが職員室に入ると、
「わわっ、ぎ、ぎぎぎギム先生…!」
そこにはいつもとは違く、ぱりっとした黒いスーツに身を包んだぬらりひょんがいた。いつもとは違う、着慣れない服にどこか窮屈そうにしている。
その隣には、蒼く長い髪を持つ整った顔立ちの英語教師、テキーラがぬらりひょんの襟を正していた。恐らくはテキーラが職員用の予備のスーツをぬらりひょんに貸したのだろう。
「……テキーラ先生、何の」
おつもりですか、と言おうとしたギムレットの口を、ずいっと近付いたテキーラが自らの人差し指で塞いだ。すると、自ずとギムレットの口は塞がり、唇にテキーラの人差し指が付く形となる。
ただでさえ美しく神秘的な容姿をを持つテキーラにそんな事をされ、ギムレットはたじたじだ。否が応でもドキッとしてしまう。ぽけー、とギムレットが惚けていると、
「…あなたが今見るべきは、こっち」
ギムレットの唇に付けていた指を離し、自分の横を指差す。恐らくは、もじもじしながら上目遣いで此方を伺っているぬらりひょんの事を言っているのだろう。
「ぎ、ギム先生、怒っちまったのかなー、って…だからテキーラ先生に手伝って貰って、これ着せて貰ったんだけど…や、やっぱ私にゃ、こーゆーのは似合わねーよな、あっはは…」
指と指とをつんつんさせ、自虐的な笑みを浮かべるぬらりひょん。
「はぁ…」
そんなぬらりひょんを見、ギムレットは嘆息する。
恐ろしく不器用なのだ。この女性も、そして自分も。
「確かにそんな服は貴女には全く似合いません」
ビクッ!と、ぬらりひょんの身体が強張る。
「そ、そーだよね…うぅ」
「だから」
遮るように、ギムレットはぬらりひょんの頭を撫でて言う。
「いつものあの羽織りに着替えてきて下さい。少なくとも幾分かは、そちらの方が貴女は魅力的ですよ」
すると、先ほどまで沈んでいたぬらりひょんの表情が一気に明るくなり、
「…!や、やっばそーだよなっ!へへっ、私じゃあ早速着替えてくるから待ってろよなギム先生!」
すたたーっ、と何処かへ消えてしまった。職員用更衣室の方に着替えに行ったのだろうが。自分のこんな言葉だけでそこまで喜ぶなど、全くおめでたい女性である。
だが問題はそこにはない。問題は今ここに流れている、自分とテキーラの間のこの空気。
気まずすぎる。
「あ……あの、テキーラ先生…」
1分ほどの沈黙の後、ギムレットはテキーラにそう声をかけたが、テキーラはただ嘆息し、
「…女ったらし」
ボソッと呟き、自分のデスクへと去っていった。
その言葉が数日はギムレットの脳内を渦巻くことを、ぬらりひょんは勿論、テキーラも知らない。
ギムレット先生の憂鬱
「ギムレット先生の憂鬱」どうでしたか?今回はTwitterのフォロワーさんのリクエストでぬらりひょんが登場となりましたね。まったく職務中飲酒常習犯のぬらりひょんは困ったもんです。しかもからみ酒ですしね。今後はテキーラ先生、ぬらり先生、ギム先生の三角関係が目立つようになるかもしれませんね。それと名前だけ出てきたオロチマル先生も、実は後ほど違うお話で出てきます。
僕もぬらりひょんのたわわな果実をゲフンゲフン。