空に浮かぶ流氷

天体観測が好きなので私の日常生活をそのまま小説にしました。

 朝起きたら、ベッドの横に堂々と寝転んでいた細長い大きな箱。持ち上げてみるとずっしりと重かった。今年は何をくれたのか。サンタさんの正体を知っている私は冷静に頭を働かした。箱はプチプチの紙で包まれており、しっかりと巨大なセロハンテープで固定されている。80センチはある巨大な箱。私はビリッとテープをはがす。すると箱の模様が見えた。壮大な宇宙。そこに突き出たレンズ。もしかして、もしかしたら。
 私は一気にテープと紙を取り外し、箱の模様を見る。中学一年生。天体望遠鏡を手に入れた。

 「気をつけてねー。また歩きながら電柱にぶつからんようにねー」
 塾の先生に手を振って、私は人目の少ない路地に足を運ぶ。夜八時。私は辺りを見渡し、人のいないことを確認すると、空を見上げた。首を七十五度ほど曲げて、目が慣れるまで空を見続ける。この街が田舎でよかった。田舎じゃないと、きっと星は街の明かりにうもれていただろうし、憂鬱の気持ちで家へ帰ることになっただろうから。
 目が慣れてきた。くっきりと自分の居場所を知らせる星達。塾の帰りに私は星座を見つけながら帰る。足を停めて星を観るのはいいのだが、なにせ私は歩きながら星座を探す。足元はもちろんくらいし無論、ときどき電柱にぶつかる。塾の数学担当の女の先生も天体観測が好きで、ついこの間この話をしたら笑われた。
 まあ。たしかに周りから見たらあの子、大丈夫? とはなると思うし、おかしな光景だろう。そんなことを思いながら一通り星を眺めたら、今度は星座を見つけることにした。
 最近探しているのは熊座だ。吐く息が白く、凍てつくような道路を月が優しく照らしてくれる。そんな中、宇宙一面に我が物顔で居座る熊座は、とても迫力があり、星座という名前の糸で、何万光年の星達を繋ぐと息を飲むくらい美しい。
 きっとこの一つ一つの星には、亡くなった人と重ねて、毎日を精一杯生きている人もいる。
流れる星に恋心を預けて、願いを唱える人もいる。私のように、眺めるだけで満足する人もいる。
家までの道のり、残り百メートル。私は自分の帰る家を、人目見て、ため息をついた。家の駐車場にお母さんの車が停まっていなかったからだ。
 しょうがない。お母さんも忙しいのだ。無理もない。出来の悪い子供のために毎晩夜遅く働いているのだ。きっとそう。でも、たまに停まっている車に期待してしまう心は、水をたくさん吸ったスポンジのように重くなった。
 私はぼやけた視界を空に向ける。そうだ。今日は綺麗に月もでているし、天体観測をしよう。

 駐車場の上にお父さんが造ったベランダ。庭に生えているキヅタとヘデラが黒い手作りの階段に絡まっている。私は蔦を避けながら、階段を踏みしめてゆく。もちろん両手に天体望遠鏡を握りしめて。
 天体望遠鏡は事前に組み立てておいていたから、比較的準備に時間はかからなかった。
 天体望遠鏡をサンタさんに授かってから、初めて使用する。
 ワクワクする。何万光年も離れている光を見るのだ。
 まず望遠鏡の足を伸ばし、レンズを月に向ける。そしてレンズを大体月を眺められる位置に巨大な釘で固定し眺める。
 少しレンズを動かし月にピントを合わせる。
「うわっ。眩しい」
 接眼レンズと対物レンズを合わせずに見たら、ぼやけた大きな白い光が目に飛び込んできた。
 私は一番大きなレンズを選んでセットする。覗いたレンズの中には月の輪郭がぼんやりと浮き出ていた。次に中くらいのレンズをセットして除く、クレーターらしきものが見える。兎さんもいる。すごい。って、私は思った。じゃあ普通の星は? 私は一番小さく一番倍率の高いレンズをセットし、星を探した。
 黒い殺風景の星。月と対照的に真反対の星が見えた。次の星を眺める。でもピントがずれる。なぜ。私の扱い方が下手なのか。もっと説明書を読めばよかったのか。いや、もしかしたら流れ星かもしれない。流れ星はみるみるうちに大きくなってくる。え。近づいてきている。
 ふと上を見上げたら私の顔になにかとてつもなく固く、痛いものが降ってきた。
「うっ」
 痛すぎて頭割れる。私は頭をおさえて五分ほどうずくまった。そしてしばらくして頭痛がおさまると落ちてきたものの正体を見に行った。
 落ちていたものを拾って月明かりに透かして中を見る。メッセージボトル。空から降ってきたメッセージボトル。普通海から浜辺に流れ着くものなのじゃないだろうか。
 うーん。ジーパンのポケットに入っていた携帯でボトルを照らし、見る。まず、ガラスの瓶に手紙が入っているところは普通。普通すぎて面白くないし。ほら。もっとボタンがあったりしてそのボタンを押したら宇宙人と話せるとか・・・・・・。
 逆にそんなボタンあったらうろたえるけどさ。
 私はコルクを外して手紙を広げる。短い内容だ。

二○××年 二月十二日
 僕たちのふるさと、月に最近予測不能の隕石が墜落してくるのです。このボトルは、時速十二メートルで進みます。このボトルは、未来からきた手紙で、約三百八十年ほどの未来から来たものです。
 本題に入ります。僕たちの住む月に、最近原因不明の隕石が多々落下し、僕の住むサウンタウンの中心の建物、月の雫は混乱しています。
 僕たちの月に存在する貴重な水分も蒸発しだし、僕たちは今、今日生きていくのがやっとです。僕は月の雫の気象庁研究生としてこの状況について調べているのですが、最近ある言い伝えを聞きました。
 早乙女という苗字のおばあさんが言っていました。
 地球に、涙を流すと星が降る能力をもつ人物がいるという・・・・・・。
 このボトルに書ける文字数は限られているので今回はここまでです。月に手紙を流す方法は、星の砂をボトルに少々詰めて、風船で地球外まで飛ばすのです。

 手紙を読み終えると、ボトルにしまってコルクで閉じた。涙を流すと星が降る・・・・・・。か。

 二三二五年地球は急激な温暖化により、酸素が三分の一に減り、人類は五〇億人消滅した。生き残った残り少ない人類は月を拠点とし、夢と希望の溢れる都市、サウンタウンを作り上げた。絶滅する前の地球の空には流氷のような雲が流れ、毎日のように雨は振り、東京などの平地は瞬く間に潰れ、田舎に生き残った科学者はなんとか生き延びようと月に移行することを決意した。
 温暖化。そのことについては私も最近気になっている。最近毎日のように空を見上げ、流氷のような雲が流れているのを気にしながら。毎日のようにやり取りしている手紙にそう近代情報が記されていた。
 私には何ができるのだろう。
 涙を流すこと? 私が涙を流すことで流れ星が流れるのなら。なら泣かなければいいのかな。でもそんな私は強くないから。臆病だから。

 今日も一粒私は涙を流す。


 

空に浮かぶ流氷

 地球温暖化は現在地球に課せられる課題であり、解決させなければならないことです。私たちには何ができのでしょう。私は流氷のような雲の浮かぶ空を眺め、そう思いました。
 あと一等星の夢っていう歌があるんですが、その歌の歌詞もすごい綺麗なんです。載せますね。
 
 空駆ける 銀色の光にふっと 見上げた夜の空
 思い思いに瞬く星達
 あの中にきっと君はいる そう思うことで
 ぼくは悲しみを閉じ込めてまた歩き出せた
 誰よりも強く輝いてた君の一番の夢は
 大切な人のため生きることだったね
 
 uh~ ah~

 いにしへの人々は 星座という名前の糸で
 何万光年も離れている星たちを一瞬でつなげた
 それならぼくはこの地球ときみとをつなごう
 この目で 耳で肌で
 心で感じるもの全てを
 君と分け合いながら生きてゆけるなら
 ぼくは悲しみをとじこめて ah~
 また歩きだすよ 君と僕の
 ほかにはだれもしらない
 星座に守られながら

空に浮かぶ流氷

私は涙を流すと流れ星が流れるらしい。 その涙でだれかの願いが、想いが叶うのならいいのに。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-15

CC BY-NC-ND
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