ドラゲナィ

ドラゲナーィwwww

カラっと乾いた荒野を、大きな剣をもった2人は歩く。
鎧は軽めに。持ち物は最低限。しかし武器だけが大きいのが印象的。
目的地は決まっている。この先にある商業街だ。

「もう、まだ着かないんですかぁ~。」
しびれを切らしたように若い女性の声がこだまする。
「後少しだ。新米なんだから文句を言わずに歩け。」
「あんまり年齢変わらないじゃないいですかぁ!」
若い男の声に続いて、噛みつくような新米の声。
「せっかくの最初の依頼がお使いなんてぇ・・・」
新米と呼ばれた娘、ムーンはため息を漏らす。先日ギルド入団試験に合格し、これが初任務だ。
「最初から外に出られるだけマシってやつさ。俺なんて最初はコロシアムの受付だったんだぜ。」
「うわっ、スカイ先輩、よくそんなの受けましたね・・・」
スカイと呼ばれた男は豪快に笑って続ける。
「引き受けるってことが大事なのさ。ギルドなんて便利屋は、結局人の信頼があってこそ大きな仕事が出来るんだからな。」
「うーん、分かるんですけど・・・これじゃあいつまで経ってもあの子たちに会えないよ・・・」
一瞬だがムーンの表情が曇った。
「あ?なんか言ったか?」
「あっ、何でもないです!」

よく晴れた空、透き通るような心地よい風が彼女らの脇を抜ける。
「おっ、見えてきたぞ。」
スカイが指を差した先には、山と見まごうほど大きな城壁が見える。
あまりに巨大過ぎてここからでも相当はっきりと視認できるが、どうやらまだ距離はあるらしい。
「うへぇ・・・まだこんなに・・・」
「後2,3キロってとこだな。辛抱しろ。」
「はぁ~・・・」
ムーンが大きくため息をついたその時だった。

空が暗闇に包まれた。一瞬にして雲が太陽を覆い隠し、まるで夜だ。
ただの曇り空とは違う、異様な暗黒がそこにあった。
「!!」
スカイが何かを悟ったように構える。
「ムーン、今すぐ街まで走って応援を呼んで来い。これは・・・ドラゴンの宵-ドラゴンナイト-だ
・・・!」
「てことはドラゴンが・・・」
「そう、奴らが来る。お前が戻ってくるまでなら押さえられる。だがそれ以上は・・・お前は早く応援を呼んでくることだけ考えればいい。さあ、走れ!」
「でも・・・」
「いいからいけ!ここで足止めをしないと街が襲われる!」
「・・・!」
ムーンは頷くと踵を返して走り出した。


ムーンは走りながら葛藤していた。
「(ドラゴンが来る・・・あの子たちに繋がる手がかりが得られるかもしれない・・・。私が闘えば・・・。でも"あれ"はまだ見せられない・・・!)」
「("あれ"を見せれば、またみんな私から離れていく・・・独りぼっちになる・・・)」
「でも・・・」
そう呟いたその時、巨大な影が頭上を横切った。
「今のは・・・2体目・・・!?」
状況を認識した時、ムーンの頭から葛藤は消え、自然と今まで走ってきた道を戻っていた。


「さぁて・・・どうしたもんかな・・・」
スカイは目の前に立ちふさがる巨大な生き物を見すえ、剣の柄を握っていた。
真紅の鱗、鋼鉄の爪、巨大な翼。これがドラゴンだ。
生命の進化から大きく外れた存在。何にも属せず、常に孤高であり、生物の頂点に君臨する。
その孤高の存在はじっと自分を見つめている。スカイはじりじりと間合いを詰める。
一歩踏み出そうとしたその時だった。ドラゴンが地獄から響いてくるような声で咆哮を上げた。
「ぐぁっ・・・!」
地響きが起き、乾いた荒野にはひびが入る。スカイはそのまま後ずさりした。
「くっそ・・・」目を開けた時、スカイは我が目を疑った。
------増えている。
ドラゴンは群れないはずだ。協力などしないはずだ。
常に孤高の存在であり、対立こそすれ、協力など聞いたことが無い。
まずい。死ぬ。
完全にスカイの脳裏には死がよぎった。
片方が翼を広げ、こちらを伺っている。もう片方は今にも飛びかかる姿勢でいる。
大きな地をえぐる音とともに、動いた。気付いた時には目の前にドラゴンの鋭利な爪が迫っていた。
-----ああ、俺は死ぬんだな。
そう、死ぬはずだった。

だが爪は届かなかった。
目の前には見慣れていない背中と、大きな翼。
だが、唯一聞き慣れた声が耳に響く。
「先輩、今から見るもの、全部ギルドには秘密でお願いしますね。」

そこからは圧倒的だった。ものの数分でドラゴンたちは観念したのか、逃げ帰っていった。
「お、お前・・・」
「そうです。ムーンです。・・・あはは、引いちゃいますよね、こんな姿見ちゃったら・・・」
ムーンの姿は完全に変わっていた。
ドラゴンの翼、ドラゴンの爪、ドラゴンの尻尾。
それに、さっきの戦闘を見た感じだと炎まで吐けるらしい。
「せっかく仲良くなったと思ったのになぁ・・・。私、ドラゴンと人間のハーフなんです。昔は力のセーブが出来なくてずっとこの状態だったんですけど、ようやくセーブできるようになって、人間と一緒の生活が出来て、このままギルドで家族のドラゴンを探して、人間とドラゴンの誤解を解いて、・・・全部、上手く、行くはずだったんだけどな・・・。」
ムーンは徐々に涙目になっていく。
「もう私、行きますね。私と一緒にいると先輩までなにか言われちゃうかもしれないし、先輩もいやでしょうし・・・。短い間でしたが、お世話になりました!」
離れようとするムーン手を、少し大きな手が掴んだ。
「・・・?」
ムーンは首をかしげる。
「・・・確かに驚きはした。まさか人間とドラゴンのハーフが存在したなんてな。人前でも絶対に隠した方がいい。何を言われるかわかったもんじゃない。」
ムーンは俯く。
「・・・だが、立ち去るのは今じゃない。まだギルドの依頼をこなしてない。つまりまだ俺はお前の上官だ。」
困った顔をしているムーンを尻目に、スカイは続ける。
「上官命令だ。この依頼が終わったら、ギルドを抜けろ。」
ムーンはまた俯く。
「そして、俺の旅に付き合え。俺の、とあるドラゴンを探す旅に。」
そう言ってスカイは腕の包帯を取る。
そこには龍の鱗のようなものがびっしり付いていた。
「先輩・・・これ・・・」
「昔の文献だから本当かは分からないんだが、俺の曾々祖父がどうやらドラゴンらしくてな。腕の鱗は何かの病気だと思ってたし、ドラゴンと人間が分かりあえるなんてこれっぽっちも思ってなかったがな。目の前に分かりあえた結果がいるんだ。少しは気になるさ。」
「ついでに・・・お前の家族探しもやってやるよ。」
「・・・先輩!」
ムーンはとびきりの笑顔でスカイに抱きつく。
「だー、やめろ暑苦しい!後この依頼が終わったら先輩は禁止だ!もう先輩じゃなくなるんだからな!」
「はい、先輩!」


こうして2人の旅が始まる。
いつかドラゴンと人間の架け橋になったこの二人は、人々にこう呼ばれることだろう。
ドラゴンの騎士-----ドラゴンナイト、と。

ドラゲナィ

ドラゲナィ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-15

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