Circus

空中ブランコ乗りの話

ぼくは昨日と同じように、一番目のブランコに揺られていました。

ぼくの真下で演技を披露する大蛇遣いへの歓声を聞きながら、大きな放物線を描いて二番目のブランコへ飛び移ります。
今度はぼくへの大きな拍手と歓声が響き渡りました。
息を整え、三番目のブランコへ飛び移ろうとしていた、その時です。
先程までの歓声が、突如として悲鳴に変わりました。
見ると、大蛇がその太い体を大蛇遣いに巻き付け、ぎしぎしと締めあげているではありませんか。
ぼくはブランコに揺られながら、その光景を見つめていました。
観客の声にかき消されて聞こえるはずのない音―大蛇遣いのか細い腕や脚が折られる、雨垂れのような軽快な音が、確かにぼくには聞こえました。
ぼくは勃起していました。
大蛇遣いの首がガクンと後ろに垂れたのが見えたとき、ぼくはブランコを握っていた手を離しました。
今までで一番大きな放物線を描いて、ぼくの体は底なしの闇に投げ出されました。

大蛇遣いの話

わたしはいつものように、空中ブランコ乗りの下で、大蛇を自分の意のままに操っていました。

一つ、また一つと芸を披露する毎に、観客の歓声は大きくなっていきます。
クライマックスに向け、空中ブランコ乗りとのタイミングを合わせようとしていた、その時でした。
今の今まで大人しくわたしの命令に従っていた大蛇が、突然わたしの体に巻きついて離れなくなったのです。
ものすごい力で締めあげられ、わたしは声を出すことも出来ませんでした。
観客の悲鳴が大きくなるにつれて、大蛇の力も増していきます。
遂に息をするのも苦しくなり、わたしは気道を確保すべく頭を大きく後ろに反らせました。
その数秒後、わたしは肉の塊が地面に叩きつけられて潰れるような音を聞きました。
わたしは濡れていました。
静かに目を閉じると全身の力が抜け、体がおかしな方向に曲がるのを感じました。

団長の話

なぜ私がこのような悲劇でもって二人の間を裂いたのか、不思議に思っている者も多かろう。
なにも私は、二人の愛に嫉妬していたわけではない。私は、その愛故にいずれ二人が不幸になることを知っていたのだ。私にはそれが耐えられなかった。
大蛇に興奮剤を打ったあの瞬間から今まで、私は一瞬たりとも後悔していない。
二人は今、私の腹の中で初めての抱擁を交わしているだろう。身はなくとも、血液のあたたかさでお互いの体温を知るのだ。

それは、この世界で互いに傷つけ合いながら生きていくより、遥かに幸せなことだとは思わないかね?

Circus

Circus

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-15

Copyrighted
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  1. 空中ブランコ乗りの話
  2. 大蛇遣いの話
  3. 団長の話