湿る路
薄霧の明朝
まだ日が顔を出さぬうちに、トヨの一日は始まる。
てきぱきと布団を片付け、水桶を用意し、飯の支度を始める。トヨは良く出来た子で、里の中でも評判が良い。言い付けを破らないし、気配り上手、将来はこれ以上ない良い嫁さんになると、村の者は口を揃えて言う。
飯が炊ける頃に親が起きて、顔を洗い、トヨに味噌汁の具を聞く。あぶらげとネギよ、そうトヨの優しい声が聞こえる。
囲炉裏を囲み、親子3人で飯を食べる。母はあぶらげが好物なので、少し嬉しそうだった。たくあんを箸でつまみながら、父はトヨに、今日は畑仕事はいいから、偶には遊んで来なさいと告げる。母もそれがいいわ、と直ぐに賛成する。トヨもまだ子供、遊んで来いといわれ顔をほころばせた。
トヨの一日は、少し違うものになるだろう。
湿る路