空上の鬼
初投稿ですし小説を今まで書いたこともありません稚拙な文章ではありますが
若者が書いたものだ仕方がないと思って読んで頂けたら幸いです。
疑念
雲の切れ間を撮った写真に人のような物が写ったという話がSNSを駆け巡っていた。
数日たっただけでニュースに取り上げられる程だ。
連日のニュースでは、
「登山中、景色を見ようと空を見上げたら何かが空を飛んでいた。」
「買い物に出掛ける途中で飛んでいたのを見た。」など
地上からの目撃談と、飛行機から撮ったというあの写真が紹介されている。
しまいには、各種の専門家が出演し専門用語を並べ淡々と解説、自論を話していた。
ここまで広まったのは、ただ写ったからではない。
顔の体型や服装、表情まで撮れているからであり、とても細部まで確認できる。
そこら辺にうろついてそうな大学生のような体型に20代ぐらいの若者の格好で
人間であるような印象を覚える。
だが、その印象が一気に崩れる所がある、それは表情だ。
日本に古来から伝わる"鬼"にとても似ている。
いや、似ているどころではないまさに"鬼"だ。
二本の角に険しい形相、朱色に染まった肌。服で隠れて見えないが全身赤いのだろう。
先程も言った通りその"鬼"がSNS、ニュース加えて新聞にまで紹介されている。
日本は"鬼"で染まっていたーー
二人の捜査官
朝のニュースを一通り見て、荒木八紘は考えていた。
荒木八紘は40を超える捜査官であって、とても変わった人物である。
「この写真、どう思うよ。新入り」
今年配属された新人、間宮加古に興味本意で聞いた。
「たかが、不可解な写真が撮れただけで騒ぎすぎだと思いますね」と
とても興味がないような口調で間宮は返した。
二人はこのニュースが報道されてからこの話しかしていない。
間宮は誰にもわかるぐらいに興味津々だったのである。
この会話に二人以外は誰も介入しようとしない、したくないのだ。
八紘は間宮が来るまで誰とも関わることなく事件を解決していた。
敬遠されていた八紘に無表情な間宮が増えたことで、八紘は話すようになった。
周りの捜査官は二人の会話を小耳に挟みながら事件の捜査に追われている。
二人、八紘と間宮は事実上のタッグになっていた。
二人はとにかくやる気がない。捜査官としての心意気が欠如しているとまで言われている。
二人の上司、田沼敏雄はそのことで困り果てているのだ。
全く動かない二人を動かし、働かせるそれだけがとても難しい。
今二人が他愛もない会話をしている中、周りは殺人事件の捜査をしているのだ。
しびれを切らした田沼はやや呆れた口調で
「お前ら、それでも国に仕える公務員か?立派な公僕として働け」
田沼の放った言葉は彼らの耳には届かず、宙を舞って儚くも消えた。
それもそうだ、写真の話に夢中で見向きもしないのだから。
「おめぇら さっさと仕事につけ!! このクソ馬鹿共が!!!!!」二人は田沼を見上げた。
二人の目は死んだ魚のような目でとても気だるそうな顔をしていた。
「なんですか?」と間宮が、「無視しとけ」と八紘が言う。
田沼の顔はニュースの鬼のように真っ赤だった。それを見て、八紘が茶化した。
間宮のツボに入ってしまったようだ。部屋には二人の笑い声が響いていた。
田沼はもう気の抜けた顔をしていて、察するにもう諦めたようだ。
「動きたい時に動け 、後はもう知らん」
田沼が離れた時にはもう昼時になっていた、遠くでは田沼の溜息が聞こえる。
「田沼の爺さんのせいで疲れた」
「ご飯でも行きましょうか」
間宮の提案に八紘が乗った。
「近場にうまいラーメン屋がある。そこに食いにいこう」
「またラーメンですか、本当にラーメン好きですね。私も好きですが」
「ラーメンは美味いだろ。食ってこそ一日が充実する」
「分かりましたよ八紘さん。話も程々にしてもう行きましょう」
二人はようやく部屋から出ていった、部屋は一気に静かになった。
「今頃本部はつまらない捜査をしているんだろうんな」
「それが仕事なんですよ。八紘さん私たちもそうですよ」
「そうだったな新人。お前捜査官って意識は残ってたのか、吃驚だよ」
「じゃなきゃ辞めてますよ」
「それもそうか。と、いうことは俺にもまだ残ってるんだな」
こんな話を続けてるうちにラーメン屋は目の前だった。
「よぉ」
「こんにちは」
二人は馴染みの大将に挨拶をしていつも通りの注文をした。
八紘はこてこての豚骨ラーメン、麺は硬めである。
間宮はあっさりした塩ラーメンで、麺はおまかせである。
店内では、昼時のニュースが流れていた。また、あのニュースである。
二人はさっさと食べて、追加で餃子を頼み鬼の話をし始めた。
大将は感づいた、また長居する気だなと
「大将悪いね、また長居すると思ってるだろ?」
「申し訳ないです」
「そう思うんだったらさっさと食べて帰ってくれよ」
「いいだろうよ、悪いと思ったから餃子頼んだんだ」
「ゆっくり食べます」
「まぁ結構前から諦めてるから別にいいけどさ。餃子はあったかいうちに食べてくださいよ」
「そうしたら出るしかないじゃないか」
店内では三人の笑い声が響いていた。
二人は今の雑談で満足したようで餃子を食べて、別々に会計を済ませ出た。
信号を渡ろうと変わるのを待っていたら、先に渡った集団が悲鳴を上げた。
集団の中心で男が血を流している。男は動かない。
二人は野次馬を押し抜け中心に行き、八紘は周囲を落ち着かせ応援と救急を呼び
間宮は怪我人の容体を確認をしていた。
そんなときである。集団の中から怒号が上がった。一人走って逃げたのである。
八紘に全てをまかせ、間宮は犯人と思わしき人物を追いかける。
さっき食べたラーメンと餃子が走りの邪魔をする。
それでも間宮は走りを速めた、間宮は思い出していた。
高校時代、陸上部で関東大会を優勝した時のことである。
その僅かな記憶の干渉受ける間に追いついてた。
肩に手をかけ、振り向かせた。犯人の顔は赤かった。
まるで、あのニュースの鬼のようで、間宮のうごきは止まってしまった。
顔は特殊メイクとは違うまさに生命を感じる生物の肌だった。
さらに特異な点がある、それは額に生えた二本の角である。
見入ってしまったニュースで見た顔が、写真の顔がそこにある。
「……鬼だ」
鬼は喋らない冷徹な顔を間宮に向ける。
その瞬間だ、間宮は腹に冷たいものを感じた。血だ、気づいた刹那痛みが伝わる。
朦朧と意識が消えていく、鬼が自分を見ている。そこで、間宮の意識は完全に途絶えた。
鬼は消えていたーー
鬼
八紘は病室にいた。呆れた顔をしている。
「八紘さん!!鬼を見たよ!!ニュースの、あの写真の!!」
病室に入った瞬間に興奮した間宮が飛びついてきた。
間宮の傷は浅かった、故にはしゃいでいられるのだ。
まるで幼い小学生のようだ。
「いくら浅くてもそれじゃあ傷口開くぞ。少しは落ち着けここは病院だぞ」
「珍しくまともなこと言うんですね」
「失礼な奴だな。まぁいい三つ伝えることがある」
「なんですか」
「一つ目だお前の言う鬼は全国指名手配となった」
「二つ目、俺もお前も捜査することは確定だ」
「三つ目……新しい鬼の写真が撮れたぞ。しかも今日だ」
間宮はもう間宮でなくなっていた。
朝のあの冷静さはどこに行ったのだろうか。八紘は驚きを隠せない。
そんな八紘を無視して間宮はヒートアップする。もう止まらないーー
「その写真ありますか!見たいのですが!!」
「テレビつけろ、それかネット使え携帯あるだろ?」
「すいませんテレビはないし、携帯は無くなりました」
「はぁ…しょうがない俺の携帯で良いなら見ろ」
八紘は使い古したガラケーに保存してある、画質がやや悪い写真を見せた。
フードを深く被り俯いたまるで、週刊誌に移るのを避けている芸能人のような風貌である。
だが、この写真には不自然な点がいくつかあった、まずは肌の色鬼のように赤い。
それに深く被っているはずのフードが違和感を覚える、先端が持ち上がっていた。
そこから尖ったものが見える、昼時の太陽に照らされて鈍く光っている。
あの最初の鬼の写真を見たからだろうか鬼に見える。
「これ、フード被ってますがあいつと一緒ですよ。私が見た鬼と」
「お前もか」
「私も?どういうことですか?」
「最初に刺された男いただろ?救急車同行したんだよ。途中で意識戻ったんだけどよ
ずっと「鬼だ…鬼が…」ってずっと呟いてさしばらくすると錯乱しちゃってもう大変だったよ」
「やっぱり鬼ですか!!」
「そうだ、まぁなんか情報入ったら教えるから寝てろ。二日ぐらい寝たら戻って良いから」
「明日からじゃ駄目ですか?」
「これでも早いんだ。我慢して寝ろさっさと傷治せ」
「わかりました…じゃあもう寝ますね」
「おう…おやすみ」
「おやすみなさい」
間宮が興奮を抑えて寝たところで八紘は病室を出た。
八紘には捜査官になって今までには無かった膨大な仕事量と忙しい日々が待っていた。
そしてそれは間宮にも降りかかるものであった。鬼は二人に途轍もない仕事をもたらしたのだ。
世間では、「鬼による事件だ」と夜のニュースを騒がしていた。
八紘は捜査室に戻った。いつもは遠目で見ていた同僚たちと仕事を始めた。
同僚たちは田沼を軸に手を止めることなく働いている、八紘も共に。
八紘、田沼、同僚もいつもだったらありえないこの光景を新鮮な気持ちで味わっていた。
朝まで続いた会議は一つの結論に到達した。
二人が放棄していた一連の殺人、傷害事件は鬼が犯人であると。
さらに日本全国で起こった殺人、傷害に類似している点があることから日本各地で起こっているという事が推測できる。
・そのわけは、人目を気にせず行う大胆な犯行で鋭利な刃物を使っていること
・写真を撮った日からその事件が起きているということ
ここで捜査班全体に数々の疑問が浮き上がった。
・本当に鬼なのか、どうなのか
・鬼の動機は何なのか
・現在、どこにいるか
・日本各地で何故、犯行を実行に移せるのか
鬼が潜んでいる
捕まえるまで終わらない鬼の犯行が日本を襲う
国民は考えない
鬼の登場をネットが望んでる、喜んでいる
八紘は一人恐怖をおぼえた。
あじわったことのない感覚。
それはさっきまでの働いた新鮮な感覚とは違う。
異質、異様な空気が、思考が支配していった。
鬼は勢いを止めることなく広まっていたーー
発現
連日、日本は鬼のニュースで染まっていた。
そんな中ある週刊雑誌は警察がここ最近で起きている。
殺人、傷害事件の犯人が"鬼"だと考えているとのことを掲載した。
今まで公表することがなかった、警察の見解に似た事が書いてあった。
どうやら記者が独自の調査で結論に達したようだ。
その数日後、警察で週刊誌の件で記者会見が行われた。
「鬼の写真がSNSに上がった、二月二十日から殺人 、傷害などの事案が
増加しているのは事実です。」
「また、これらの事件は日本各地で起こっている可能性があり鬼が関わっている可能性が否めません」
「鬼は実在すると?」
「現時点では不明ですが、あの写真の真偽と共に調査します」
「テレビやSNSでは連日、あれは合成ではないとの声が多数あがっていますが
それについてはどのようにお考えで?」
「捜査中につき回答は差し控えさせてもらいます」
こんな記者会見が朝からずっと行われている。
八紘はニュースから目を離さず考えていた、いつものような落ち着きはない。
「鬼はどんどん広まっているのに、犯行は起きている...
鬼は一人ではない?摸倣犯がいるのか?」
八紘はそんな疑問を一人ぶつぶつ呟いている。
そんな時、間宮が数日ぶりに復帰してきた。
「八紘さんボケているのですか?大丈夫ですか?まだ四十代ですよね?」
と、間宮が声をかける。
「俺はボケていない、正常だ。そんなことより怪我は大丈夫か?」
「怪我は大丈夫ですよ」
八紘が見舞いに行った数日前とは違い、とても間宮は落ち着いていた。
「ならいいんだが、無理はするなよ。間宮」
「珍しいですね。間宮って呼ぶなんて」
「別にいいだろ」
「そうですね」
テレビではまだニュースが続いている。
田沼が真面目な顔をして、質疑応答に答えている。
まだまだ続くようだ。
「間宮さん、君も今日から捜査に参加してもらう」
同僚の一人が間宮にそう伝えた。
空上の鬼