魔獣使いの契約結界
魔獣使いの少年
《アストラリア学園》
その学園を知っているか、と問うと。全員が首を縦に降る。まあ、こんな馬鹿でかい学園を知らない人はあまりいないだろう。しかし、それとは別に……もう一つ、理由があった。
現在、編入生という形で何故か学園の外にある校長室で手続きを済ませ、その学門の前にいる一塚クロトは深い溜息を吐き、頭をがくりとさせる。
「なんだ……これ」
そして、再度視線を前方にやり。その光景にまたも絶句する。
その視線の先には生徒一人一人の横に謎の生物がいるという、なんとも奇妙な光景が広がっていた。
もう一回言う。
《アストラリア学園》
その学園を知っているか、と問うと。全員が首を縦に降る。
じゃあ、何故全員が首肯するのか。
……当たり前だ。
「魔獣使いが集まる学園……か」
『魔獣まじゅう』それは、特定の人物が持つ《契約結晶》により封印し仲間に出来るという一つの獣けもの。
まず、《契約結晶》自体に適応する人物が少ないため、ごく限られた人物でしか魔獣を操作する事は不可能だ。
そして、ここ東京の首都部に造られた《アストラリア学園》に世界から 《契約結晶》に適応する人物が集められる。
それが、全国に認知される理由の一つである。
しかし、なぜ日本ここなのか……俺にも分からん。
ただ一つ、分かることは《アストラリア学園》が普通じゃないということだろう。
「アンタ、待ちなさいよ」
と、その時。可愛らしい声がクロトの鼓膜を震わせる。
「なんだよ……」
重い頭をその声の主に向けると、そこには気強さそうに腰に手を当て、左右均等に結ばれたツインテールを揺らしている少女がいた。
……だから、嫌なんだよ。
そう、ここ《アストラリア学園》は《契約結晶》に適応する者ならば“何歳„でも入学が、可能である。
「……小学生か?」
毒づくように言ってやると、そのツインテールの少女は肩をプルプルと震わせて半ば涙目になっていた。
「私は十六よ! 十六歳っ!」
周りからの視線が集められ、なんとも痛々しい。
クロトは再度はあ、と深い溜息を吐いた。
「まぁ、いいよ。で、俺に何の用だ」
今までの工程を切り捨て、ツインテール少女に問うた。
「そ、そうよ! で……なんで、アンタは契約反応が無いのよ」
……まずい。
《契約反応》というのは、いわゆる魔獣と契約している者から発せられる一種の気配である。
バレないと思っていたのだが、まさかバレるとは……。
「おぉーと! 授業に遅れるッ!」
臭い演技をし、無心でダッシュを試みる。
しかし、謎の違和感を覚え。その動きを止められる。
「凍りつくせ、氷アイスの絶壁ドラゴンっ!」
「え……ちょ!」
この、女の子。何しやがる……。
ここは、公共の場だぞ!
しかし、そのドラゴンは情けを知らないようだ。一直線にクロトに向かって突撃をしている。
(死ぬって……!)
思わず歯噛みをし、思考を巡らす。
使うか……アレを。
「死にたくなかったら、アンタも魔獣を出しなさい!」
そんな思考を途切らせるようにツインテール少女が叫ぶ。
「あぁ……クソっ!」
何とか、ドラゴンの突撃を避け。言葉を続ける。
「そろそろ起きろっ! 俺の魔獣ッ!」
––––––瞬間。
クロトの魔獣を見た、生徒全員が驚愕の顔を表した。そう、剣がクロトの手に握られていたのだ。
通常、《魔獣》というのは、生き物なのだが。クロトのは皆とはタイプが違うかった。
「このッ!」
幾度の斬撃を繰り返し、ドラゴンが力尽きる。
……やっちまった。
「アンタ……」
ツインテール少女は先程行ったクロトの行動に目を見開き、口を開く。
「……いいわ、その実力。認めてあげる」
また……五年前と同じことが……。
「だから、しばらくは私のパートナーになりなさい、アンタに拒否権はないわ」
ツインテール少女に指を指され、クロトは本日三回目の溜息を吐く。
「俺は……《普通》じゃないぞ」
魔獣使いの契約結界