今日から「自分探し」始めます。
私には自分というものが分からない。
みんなを和ませるような私。
姉さん的存在の私。
甘え上手な私。
ストレートな物言いの荒っぽい私。
…………こうやって、私の『仮面』はどんどん増えていった。
そんなどうしようもない私の前に「あなた」が現れた
「あなた」に出逢っていなかったら、私はどうなっていただろう…
桜ヶ丘高等学校 2年 橘 玲奈
今日から「自分探し」始めます
*プロローグ*ー春ー
春。
それは出逢いと別れの季節……_____
今日は2年生に進級する始業式。
今まで一緒に1年間過ごしたクラスメイトとも、さよならだ。
そして新たなクラスで始まる1年のスタート。
もう何回着たであろう制服に腕を通しながら、考える。
………新しい友達いっぱいできるといいな
………仲いい子がいるといいな
そして、いつものお願い事を言う________
………………今日も何事もなく過ごせますように。
玲「行ってきまーす」
橘 玲奈。
今日から高校2年生です。
*第1話*『橘 玲奈』という女
昇降口で誰かに声を掛けられた。
恵 「おはよー!玲奈っっ!!」
玲 「おはよう。恵理。」
この子は、山城 恵理。
去年、友達づくりに出遅れていた私に声を掛けてくれた唯一の子だ。
明るくて活発。それでいて容姿も整っている。
恵理は瞬く間にクラスの人気者になった。
なぜ恵理のような子が、私のような『仮面』で偽った女と親友なのか……
未だ私も分かっていない………
しかし、そんな理由も探す必要はない。
だって…
私は恵理のことを一度も「親友」だと思ったことはないのだから。
恵理に私の『本当の姿』を見せる時が来るとするなら…
それは、彼女との関わりに終止符を打つときだろう。
恵理は私にはもったいないぐらいのいい子だから、彼女に私の本性を見せることはこの先ないと思う。
…………
私があまりにも仏頂面だったからであろう。
恵 「玲奈ぁ?」
玲 「……あっ、ごめん。(笑)今日の晩ごはん何にしようか考えてた。」
恵 「あっ。そっか。玲奈んちお母さん仕事忙しいんだっけ?」
玲 「うん。今日も夜勤だからあたしが作るの。」
恵 「……大変そうだね。玲奈んち…
あたしにできることあったら、何でも言ってよねっっ!!
…『親友』じゃん?
玲奈が大変そうだったら、あたしどこでも飛んでいくよ!(笑)(笑)」
……
玲 「ありがと。恵理。すっごい嬉しい♪
……あたしにとっても恵理はずーっと『親友』だよっっ!」
恵 「ふふっ♪そーこなくっちゃ!
よーし、体育館にクラス割りを見に行こうっっ!」
玲 「うんっっ!」
こうやって、また嘘で塗り固められた『仮面』をとることはできなかった。
*第2話*『その名前』
体育館に着くともうそこにはたくさんの人が集まっていた。
もちろん新学期なだけあってみんなのはしゃぎようは、いつにも増してすごい。
クラス割りの前で手を取り合ってキャッキャ言ってる女の子たち。
「あーあたし○○くんと同じクラスだー♪」
「えーいいなぁーあたし違ったー」
そんな楽しそうな会話が聞こえる…
恵 「あーもうっ!!なんでこんなに人多いのよっっ!!」
玲 「(笑)(笑)」
やっと人がはけ、私たちにもクラス割りが見えるようになった。
玲 「えーっと………橘 玲奈………橘…
あっ!あった!
あたし、1組だ。
恵理は?」
恵 「あっ、あたしも1組ー
やったーー玲奈と同クラだ♪」
玲 「また、1年間よろしくおねがいします。(笑)」
恵 「こちらこそ。(笑) 」
どうやら、私は恵理と同じクラスになる縁があるらしい。
玲 「あっ、ねぇ。 この『戸田 蒼』なんて人いたっけ?」
恵 「あ、ホントだ。どうだろうね?転入生とかじゃない?」
玲 「……やっぱ、そうだよね!
ごめん。変なこと言って。」
私の名前のすぐ下にあったその名前。
『戸田 蒼』………かぁ。
なんか胸騒ぎがする。
私の知っている人のような、知らない人のような…。
男か、女か。
そんなこともまだ分からずに。
ただ私はあの名前を見て何かを感じていた。
新しいクラス「2-1」と書かれた教室の前に立つ。
中にはもう何人かの生徒がいて、みんな自分と気の合いそうな子を見つけてはグループという新たな輪をつくっている。
時間ぎりぎりについた私と恵理は、グループに入ることもせず自分の名前の書かれた席に着いた。
やがて、このクラスの担任になったであろう「柴ティー」が入ってきた。
彼は、去年から私たちの学年の先生である。
本名、柴田勝久。 略して柴ティーだ。
大柄な体格とは裏腹、顔はとてもかわいい顔をしている。
それでいて普段はとっても優しいもんだから、去年から私はこの先生が大好きである。
怒るとめっちゃくちゃ恐いけど。(笑)(笑)
柴 「おー、みんな席着けー。HR始めるぞー」
がやがや、がやがや。
柴 「あーもうみんな知っていると思うが、今年このクラスの担任になった柴田だ。
俺は、普段はガミガミ怒らないがお前らの行動によっては地獄に突き落とすぐれーの勢いで怒るからな。
覚悟しておくように。
では今年1年間どうぞよろしく。」
クスクス。みんなが笑う声が聞こえる。
柴 「じゃーとりあえずこれから始業式だから廊下ならべなー」
玲 「絶っっっ対校長の話長いよねー」
恵 「だねー。あたし寝不足だから昼寝には十分だわ。(笑)」
玲 「(笑)(笑)」
…………
案の定、始業式早々校長の長ったらしい話を聞かされる羽目になった。
恵理は本当に寝てたけど…(笑)
教室に戻ると柴ティーが私が一番気になっていたことについて話し出した。
柴 「えー今から転入生を紹介する。………おい、入ってこい。」
やっぱり転入生というのはいつの時代でもちょっと特別なもので、がやがやとまたクラスが騒がしくなりだした。
あー私の隣の空いている席はあの人のなのかな…
? 「失礼します。」
………………あっ。………
*第3話*不思議な瞳
ガラガラーッッッ。
その扉を開けて入ってきたのは…
すらっとした長身の男の子だった。
少し茶色みがかったサラサラの髪。
スッと筋の通った綺麗な鼻。
ぱっちりとした二重のきれいな目。
彼のそのきれいな顔から目が離せなかった。
周りの音が聞こえなくなっていた。
やがて、音が聞こえるようになると女の子たちがこそこそと話している声が聞こえた。
「ねぇーあの人ヤバくない!?」
「めっちゃイケメンじゃん!!」
「あたしけっこうタイプかもー」
そんな女子の行動も気にせず、その男の子は話し出した。
蒼 「第一高校から来ました。
戸田 蒼です。
1年間よろしく。」
………ドキッ……蒼く…ん?
やっぱり私、この人のこと知っているのかもしれない。
今はまだ思い出せないけど。
柴 「えーっとじゃあ戸田の席は………
名簿順だから、橘の隣だな。」
蒼 「はい。」
彼の声は海のように広く、みんなを包み込むようだった。
彼が私に近寄ってくる。
ガラッ。イスをひいた。
蒼 「ジィーっ。」
玲 「なっ、何?」
彼の瞳にはいつもの『仮面』をかぶり、自分を押し殺している私ではなく素の私が映っていた。
何なのこの人?
どうしてこんなに私を見透かすような強い目で見るの?
怖いよ。
私の本当の姿がばれちゃう。
早くっ…!お願いだからそんなに私のことを見ないでっっ!!
そんな私の切なる願いが届いたのか彼はやっと私から目を逸らした。
蒼 「名前は?」
玲 「……橘…玲奈。」
蒼 「お隣だしよろしくね。橘さん。」
玲 「………ぅ…うん。よろしく。(笑)」
ヤバイ。この人の前だと私、いつもの笑った顔できないや。
今まで私のことをこんなに見つめる人なんていなかったのに。
あなたの目に捉えられると私はこんなにも怯えてしまう。
なぜこんなにもあなたの前だとで私は『仮面』が取れそうになるのだろう。
…………もしかして、
あなたも私と似たような経験があったのかな……
*第4話*学級委員
隣にちょっと不思議な戸田君が来てからというもの、私の席の周りは常に女の子で溢れかえるようになった。
「戸田君って彼女とかいるの?」
「どんな子がタイプ?」
語尾にハートがついた喋り方の子がたくさんだ。聞いててうんざりする。気になる人にはこうもあからさまなアピールをするものなのだろうか。
私とは次元の違う人たち。そうやって今日も自分との境界線を引いて私は安心してしまう。
『この人たちと一緒じゃなくて良かった。』と。
女の子たちの黄色い声を聞きながら、当事者である戸田君はというとさっきから飄々と笑っている。自分のことなのに、興味がないみたいだ。やっぱりこの人は変わってる。
彼女たちの興奮している様子を眺めていたら、私は自分だけが戸田君に興味がないのがばれてしまいそうで何だかばつが悪かった。
逃げるようにして恵美の元に向かった。
熱烈なラブコールを送り続けている女の子達に、いつの間にか冷たい視線を投げかけていたらしい。それは、当事者である戸田君にもだ。恵美に「玲奈!顔が恐いよー」と言われた。恵美にもバレるなんて
今日から「自分探し」始めます。