想いの時間

やっぱり彼は困惑していた。
そりゃ、そうだ。私がいきなり別れを切り出して、別れる以外の選択肢は受け取らないと言ったのだから。
「どうして、?」
傷ついている。そんなこと前から分かっていた。想像できていたことだった。
「飽きたから。遊びだったの。分かる?」
そういうと、彼は、嘘だという。
「ちゃんとした理由があるんでしょ?どうして何も言わないの?俺じゃ頼りない?」
はぁ。と私はため息をついた。
「あのさ、何を本気にしてんの。遊びに決まってるじゃない。あんただってすぐ新しい人が出来るでしょ。飽きたの、別れて。」
彼は、一瞬、ものすごく泣きそうな顔をしたが、すぐに笑顔になると、一言、分かった。と言った。
……ずきん。とてつもなく胸が痛くなった。
私が傷ついてどうするの?わけわかんない。自分で別れを切り出したんだから傷つく必要なんてない。
「じゃーね。」
一言だけいうと、私はその場を離れた。
彼が何も聞いてこない人でよかった。優しくてよかった。……よかった。
ぽたっ……と思わず零れ落ちた。慌ててゴシゴシと目元をこする。
「あはは、雨降ってきたなぁ。」
苦しかった。大声を上げたかった。叫んでしまいたかった。
本当は違う。大好きなんだと言いたかった。今すぐにでも戻って抱きしめて欲しかった。だけれど、それはもう叶わない望みだった。
私は、死にたかった。彼がいてもそれは変わらなかった。彼が悪いわけではない。私が自分の感情を持て余して制御しきれないでいた。それに彼を巻き込みたくなかった。優しい彼はきっともっと良い彼女が見つかる。
学校はもうすでに辞めている。事情が重たいということにして誰にも言っていない。私がどこに行っても足取りを掴める人はいないのだ。
……バカみたい。 自分の身勝手な感情で大事だった人を傷つけた。どうか彼には幸せになってほしい。
身勝手な想いにワガママな願い。
……これでやっと、居なくなれる。
ちょっとだけ、彼が戻ってきてくれるんじゃないかって期待した。でも、予想通り、彼は来なかった。
わかってる、大丈夫。
「だいすき」
彼女は、自分がどんな顔をしているのか知らなかった。
それから、彼女を見た人はいなかった。彼はどうしただろう?彼は、必死で彼女を探していた。聞いていたからだ。あの時、あの場で、彼女の言葉を。

「だいすき」は「たすけて」にしか聴こえなかった。





彼は彼女を見つけだした。そして、抱きしめると言った。
「俺も大好きだよ。だから、もう一人で泣かないで。」
彼女は、初めて声を上げて泣いた。もう何も我慢することはなかったのだ。

彼は、彼女の言葉を確かに受け取った。

想いの時間

もし、彼と別れたら……なんて想像して書いてみました。

想いの時間

遊びか本気か間の時間

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-12

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