白雨

夏の夕暮れ時だった。
まだまだ夏の真っ只中で、張り付くような生温い風がうっとおしい。俺は顔をしかめて服で体を仰いだ。
今日は葬式だった。こんな暑いときにみんな黒のスーツに身を包んでいた。クーラーは効いてるけど、外ではまだ蝉が鳴いていて暑さを感じさせる。
泣いてる奴もいれば、呆然としてる奴もいる。突然の交通事故だった。誰しも状況が飲み込めていないんだろう。そんな中で一人だけ唇を噛み締めて真っ直ぐ前を向いている奴がいた。死んだ奴に助けられた女の子だった。
泣かないのは、意地だろうか?きっと、気の強い子だ。
今にも血が落ちそうなほど唇を噛み締めて、握りしめた手は震えている。
突然、蝉が鳴かなくなった。俺は緩慢な動きで、窓の外を見ると、ざぁざぁと雨が降っていた。
あー、えっーと、こういうのなんていうんだっけ?いきなり降ってくる雨。……忘れた。 頭の悪い俺じゃ思い出せない。
また、体を葬式の方に向けて、女の子を見た。
ほっとした。ちゃんと彼女は生きていた。どうやら傷を負っているわけではないらしい。
そう、死んだのは俺だった。
別に俺の体がどうなろうと、どうでもよかった。大事な彼女を守れたのだ。それだけで俺は充分だった。生きていてくれて嬉しかった。
「よかった……守れてよかった」
だけれど、もう一つの本音は言葉にしなかった。出来なかった。
……ああ、そうだ。突然降る雨を白雨っていうんだっけ。えっと、そう、夕立のことだ。夏に降る俄雨。
でも、大丈夫。突然ざぁざぁと降るけど、白雨はちゃんと止むから。短い期間に降るだけ。だから、大丈夫。
この雨は彼女の涙みたいだった。そして、俺の涙だった。泣きたいのをじっと我慢しているのは彼女だけじゃない。
でも、最期に泣くわけにはいかない。あの子も耐えているのだから。
ようやく、葬式も終わりを告げた。みんな帰っていき、辺りは静まり返っている。
だから、俺は誰にも聞こえないその場で小さく小さく自分の願いを言葉にした。言葉にすると、一粒、涙が零れ落ちた……。

(もっと、君と一緒に居たかった)

白雨

テーマは雨です。ただ、切なく、雨のお題で書きたかっただけです。
最後の一言が言わせたかっただけです。

白雨

暑い暑い真夏の夕暮れ時…。突然降ってきた雨は短い間に去っていく。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted