ヤニオヤジ

感想いただけると嬉しいです。

ヤニオヤジ

冷え込みはじめた夕方に一人、なかなか来ないバスをバス停のベンチで待っていると、しわくちゃの小豆色のジャンパーを着たオヤジが人一人分空けて静かに座った。オヤジは近くに座る女子高生が、受動喫煙をするのもおかまいなしに、煙草を吸い始めた。煙草のにおい自体は別に私はそこまで嫌いなわけではないのだが、保健で「煙草は有害だ」と習ってからはなんとなく喫煙者を避けるようになった。私は、はめていた手袋ごと手で鼻から下を覆い、出来るだけその空気を吸わないようにした。しかし、もやっとしいるが、どこか鼻をさすようなあの臭いは全然消えない。さらに、もう一人、今度はヤニオヤジよりは少しは上品そうなオヤジが私とヤニオヤジの間に座った。私は、自分の側に中年男性が座ることが不愉快で、思わずそわそわしてしまった。そして、まだあのイヤな空気が私のほうにも漂ってきていた。私はすっ、と立ち上がりなんでもないような顔でゆっくりとその場から(二十メートルほどだったろうか)離れた。私は胸いっぱいに酸素を身体にとりこんだ。それから、遠目にイスにどっかりと座るヤニオヤジを眺めた。
暫くすると、目的のバスが来た。私はさっさと乗ってしまおうと思った。これでもうニコチンのかたまりとも綺麗さっぱりさよならだ。しかし、そうはいかなかった。バスの入り口近くに座っていたヤニオヤジも動き出したのだ。そしてそのまま私よりも先に開いたばかりのドアからバスに入っていく。私はなんだか先をこされた気がして悔しかった。でも、まああくまでポジティブにでいこう。これで、先にオヤジが座った席から遠い席を自由に選べるじゃあないか。しかし、このオヤジはたいそう人の期待を裏切るのが好きらしい。オヤジはバスの前方の方に歩いていったから、私はわざと少し後方の席に座った。だが、なんとこのオヤジ、運転手さんに話しかけにいっていただけであった。私が座った隣をのそのそと歩き、バスの一番後ろの席の中心にどかっ、と座った。どうして一人しか居ないのにわざわざ大人数用の席に座るのだろうか。本当にずうずうしい。オヤジはさらに、一人でぶつぶつとずっと何か言っていた。私はもっと前方の席に移ろうか迷ったが、なんだかそれではこのヤニオヤジに負けた気がするのでその場でただじっとしていた。
発車のアナウンスがされた。私はふとバスの窓から外を覗いた。ベンチにはさっきの少し上品そうなオヤジがまだ座っていた。彼は煙草を吸っていた。そのとき初めて煙草を吸っていたのは例のヤニオヤジだけじゃあなかったんだな、と気がついた。少し上品そうなオヤジはまあまあセンスの良さそうな黒いコートを着て、お洒落な帽子を被っていた。私はもうヤニオヤジのことは気にならなくなっていた。

ヤニオヤジ

なんだか、自分で「こうっ!」って決めてしまうとそこから抜け出せなくなってしまいます。だけど後から考えてみると、全然見当違いだったりして自分で笑っちゃうようなことってありますよね。広い視野と心のゆとりがほしいです。

ヤニオヤジ

駅前にいたヤニオヤジのお話。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted