雪の日に。
手を伸ばして、髪に触れてみる。
洗って軽く乾かしただけの髪は、まだ少ししっとりとしていて。
いつもと違う、柔らかい感触。
指で梳いて、それを味わう。
何度も。
「……どうした?」
「ん……なんか、気持ちいいなと思って」
「そうか?」
「うん。いつもはこんなふうにできないしね」
「お前もな」
言って、ジェットの指が僕の髪の間に入り込んでくる。
頭皮に直接指が触れる。
「……なんか、マッサージされてる気分」
「気持ちいいならやってやるが?」
「うん、やって」
ぐりぐりと、十本の指が僕の頭を刺激する。
適度な圧力が気持ち良くて、なんだかぼんやりしてきた。
「おい、寝るのか?」
「ん……だって、気持ちいい……」
もう言葉をつなげられないくらいまぶたも重くって、ジェットの裸の胸に頬を擦り付けて、一番落ち着けるところに納まる。
ジェットが姿勢を変えて、僕が寝やすいように抱きなおしてくれる。
「……ま、それだけ落ち着いたんなら、いいけどな」
耳元で聞こえるジェットの声が柔らかくて、気持ちがあったかくなる。
「本格的に降ってきたな……明日は積もるかもな」
そういえばさっき、窓の外をちらちらと白いものが舞い始めていた。
「積もってほしい……な……」
もう声を出すのも億劫だけど。
雪が降ればいい。
いっぱい降って、明日の朝は全部真っ白になっていればいい。
戦いの跡も、血の跡も、全て消して、綺麗な世界にしてくれればいい。
そうしたらきっと、みんなにもちゃんと笑顔を見せられるから。
「大丈夫。積もるさ。だからお前は安心して眠ればいい」
「……あり……がと……」
――いつもごめん。
頼ってばかりで。
君がいてくれるから、僕は戦える。
どんなに傷ついても涙しても、立ち上がれるから。
だから。
だからどうか。
……伝えたい言葉はあったけれど。
もう限界で、すうっと深みに沈んでいく。
あったかくって優しいジェットの胸に抱かれて。
穏やかな気持ちで。
静かに雪が降り積もる夜に。
20150209 HARUKA ITO 29の日。
雪の日に。
2月9日は29の日、ということで突発でかいてみた29。