その男はSAMURAI

その男はSAMURAI

境内の拝観料を自分が出しますと言いながら、緊張と寒さで手がかじかんでいるので小銭を上手く出せずにもたついている自分が武士は恥ずかしかった。
ライスフィル氏に飽きれられているのではないか…ライスフィル氏は案の定、武士の後ろで肩をすくめていた。

気を取り直して境内に足を踏み入れると、その朱色の建物にライスフィル氏はwow…と外国人らしい感嘆の声をあげて、武士はほんの少し安堵した。

恋人のメアリーからメールが入った振動がポケットのスマホから伝わり、建物に見入っているライスフィル氏に気付かれない様に武士はコッソリとスマホをチェックした。
タケシ、大丈夫?メアリーのメールに武士はNo problem.と返信した。

外国人は神社仏閣が好きだから、と出張で来日するメアリーの父のライスフィル氏を春日大社に案内する事を提案したのはメアリーだったが、そのメアリーが急なアルバイトで参加出来なくなり、今、武士とライスフィル氏の二人で春日大社に来ている。非常に気まずい事態である。

南回廊、西回廊を通りながら、灯篭の数にライスフィル氏はAmazing!と感動していた。大本堂で彼は何をお願いしたのだろうか…きっと日本の大学に留学生として来ている娘メアリーの健康と幸せだと想像すると武士はメアリーを大切にしなくては…と新たに決意を固めた。

Naoe Kanetsugu.ふとライスフィル氏が呟き武士は驚いた。
「よくご存知ですね!直江兼続という戦国武将がこの春日大社を愛していて、灯篭や油代を寄付していたんですよね」武士はそう言って、ライスフィル氏が日本語があまり堪能ではない事を思い出し、慌てて、戦国武将Naoe Kanetsugu is …Loved 春日大社と拙い英語力を使い伝えようとしたが、Japanese Dorama 見まシタ、とライスフィル氏は答えた。武士はライスフィル氏が日本に興味を持っていてくれていると思うと嬉しかった。

帰りの参拝道には鹿がたくさん居た。鹿は神の使いで…と伝えたかったが神の使いを英語で何と言うのか武士にはさっぱり分からなくて、自分の英語力の無さに嫌気が差す。
メアリーが日本語が堪能なので、外国人であるメアリーとの日常のコミュニケーションには困らないが、もっと英語を勉強しなくては…とまた新たに決意を固めた。

ライスフィル氏は鹿をじっと睨んでいる。しかもその鹿がポロポロと糞をし始めたので、ライスフィル氏はますます鹿を睨みつけていた。武士は空気を変える為に鹿せんべいを購入しようと考え、近くの売店で鹿せんべいを購入し、武士は鹿に鹿せんべいをあげ始めた。Try…you?ライスフィル氏にそう聞くとYes.と言ってライスフィル氏が恐る恐る鹿に鹿せんべいをあげようとすると、鹿がたくさん集まってきてライスフィル氏はBow-wow!と犬の鳴き声を真似して鹿たちを追っ払ってしまった。動物が嫌いなのかもしれない。武士は悪い事をしたなと反省した。

春日大社を後にして、次に何処に行こうかと武士が考えあぐねているとライスフィル氏がタケシ is BUSHI.と呟いた。確かに読み方を変えれば武士はぶしと読めるが、自分が武士の様な器の大きい人間ではとてもないと武士は思っていたので、No.No.と否定した。
「メアリー、とても大切にしてくれてル、感じマス。ほんとにアリガトゴザイマス」
その言葉を聞いて武士は危うく泣いてしまいそうな位に感動した。
「ワタシ、名前サム・ライスフィル。SAMURAIネ。BUSHIとSAMURAI、同志ネ」
神よ…と武士は胸が震えた。これはもう神のお導きだ鹿さんありがとう、と武士は鹿に感謝した。

Next…Let's Go Todaiji-Temple!ライスフィル氏はそう言って浮かれ足で歩き始めた。
「東大寺は戦国武将の松永久秀が火を放ったと言う史実がありまして…」
武士が説明し始めると、ライスフィル氏はI know.とウィンクをした。

後日メアリーがライスフィル氏に日本観光はどうだったかと聞くと、鹿 is very cute.と言っていたらしい。鹿好きなSAMURAI…武士はますますライスフィル氏の事が好きになった。

その男はSAMURAI

その男はSAMURAI

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-08

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