半永遠の夏休みだった僕の話
子供の頃を思い出したら書きたくなりました。
8月?日 天気「?」
「永遠に続けばいいのにな」
中学の頃の夏休み終盤の口癖は、どんなやつでもこれだったはずだ。
地味なメガネっ子も活発男子もツンデレ委員長も。
みんながみんな思ってたはずだよ。終わるな、って。
ここに来るといつもそうだ。
一年中セミが鳴いてる。秋でも冬でも。
だからきっと、この場所は一年中夏なんだろうなって思う。
まぁ、暑いとか日差しが強いとか特にそんなのはなくて、 ただ単に夏の風物詩が一年中鳴いてるから夏なんだろうなって思ってるだけ。
外見的に誰も寄り付かなそうなパッとしないこの公園には、廃れた滑り台とブランコが住み着いてる。
でもその中で唯一目に付く新品の青いベンチ。
そこに君は毎回座ってるんだよね。
時間が経っても全然溶けなさそうなアイスをもっててさ、 白のワンピースに麦わら帽なんて漫画の世界から飛び出してきたような格好をしてるんだ。
そんな君と話がしたいのに、僕は君から何らかのアクションを待つばっかりで、 一向に行動には移せなかった。
だからやっぱりずっと待ってた。何らかのアクションを。
公園の中をぐるぐる回ったり、 今にもちぎれそうな音をだすブランコに乗ってみたり、ザラザラの滑り台を滑ってみたりしてみたんだ。
そこで気づいちゃったんだよね。
あ、これ僕のほうがアクション起こしちゃってるよって。
それでおかしくなったのと、変にスッキリしたおかげで、僕は君の横に腰掛けることができたんだ。
まぁ、できただけだけど。
僕は何を話そうかなんて考えてなかったから、それを気にしだしたときにすぐ我に返ったんだ。
「おかえりなさい」
狂いそうな緊張感の中聞こえた天使みたいな声。
天使の声なんて聞いたことないけどさ。
ゆっくり声のした方を見ると、女の子が笑ってた。
あぁ、やっぱり天使なのかなって思った。
天使なんて見たことないけどさ。
「おかえりなさい・・?」
僕は何かの聞き間違いかな?って思って聞き返したんだ。
初対面の挨拶にしては、かなりレアケースだったからね。
「うん。おかえりだよ?」と、女の子がベンチから立ち上がる。
「じゃあ、いこっか」
というと、僕に手を差し出してきた。
「・・・うん」
なんだろう。行かないといけない。そう思ったから僕は手を握った。
8月1日 天気【雨】
気がつくと僕らは商店街みたいなところに立っていた。
相変わらず手は握ったまま。
「ここはね、君と私が初めて出会った場所なんだよ」
そういうと、女の子は正面の横断歩道を指差した。
「・・・」
なんだろう。すごく懐かしい気がする。
不思議なことが起きすぎて何がなんだかわからないけど、 僕は確か、この女の子と横断歩道の前であったんだ。
「・・・!黄色の花束…!」
「そう。私がおつかいを頼まれて、この通りをまっすぐいった花屋に寄って帰る途中に…」
「その花束綺麗だね…って?」
「あたりっ!」
女の子が微笑む。
徐々に脳みそが熱くなる感じがした。
8月10日 天気【くもり】
「そうそう。このどんよりした空。私たちが出会う日はいつもこんな感じだったね」
女の子は僕の手を引いて商店街をぬけたところにある神社の方に向かう。
「・・・ここってどこなの??」
「大丈夫。あせらないで。少しずつ思い出そうよ」
思い出す、か。僕はどうやら記憶をなくしているらしい。
「ついたよ」
神社だ。本当にスタンダードな神社。 鳥居の先にお堂があって、周りを緑豊かな木々が囲んでいる。
「・・・」
なんだろう。また脳みそが熱くなって、頭の内側からどろどろ溶けるようなそんな感じがする。
「ここでは何をしたの?」
「なにをしたんでしょーかっ」
いたずらに微笑む女の子。
僕は必死に思い出す。
「神社ですることといえばなーんだっ」
「…!お参りだ!」
「あたりっ!」
願いが叶う神社。
そう、たしか僕たちは偶然にもここでまたあったんだ。
そのときにお願い事をした。なにをお願いしたのかは、覚えてないけど、思い出そうとすると、脳みそがぶくぶくと沸騰するように熱くなる。
「あ、あ、無理に思い出さないで?ゆっくり…ね?」
女の子は心配そうに僕を見つめていた。
8月17日 天気【雨】
「はぁ…やっぱり雨の日は憂鬱になっちゃうね?」
君が唐突に問いかける。
「そうだね…」
いつの間にか持っていた傘が雨を反射させる。その音だけが静かに響いていた。
「僕は記憶を失ってるの?」
この質問がいつか来るだろうと予期していたんだろうね。女の子は淡々とした口調で答えてくれた。
「うーん…大きく言うとそれでいいかな。今の君は記憶を思い出せない状態なの」
“今の君は”か…。
「着いたよ」
いつの間にかデパートに来ていた。すごくでかいデパートで、確かこの街一番だった気がする。
「あたりっ!街のことを少しだけ思い出せたんじゃない?」
言われてみれば確かにそうだ。僕はこの街の事をいつの間にか理解していた。
ここは僕が産まれた街。きれいな川が流れてて、空気も綺麗で、遊ぶところもたくさんある。
でも…何年間育だったっけ。
…僕は何歳だっけ。
…名前はなんだっけ…。
気付けば疑問だらけで、脳みそが沸騰しかけたとき、君の優しい手が僕の額に触れた。
「ゆっくりでいいんだってば。急に思い出そうとしないの」
僕はその優しい声に逆らえず、目を瞑りうなづいた。
ただただこの時間が永遠に続けばいいのにとか、場違いなことを考えながら。
8月23日 天気【晴れ】
「久しぶりに晴れた気がする」
「そうだね!楽しい夏休みのはずなのに、今年の夏は雨が多かったの。だからだね。きっと」
…今は夏休みなのか。と言うことは僕はまだ学生なんだな。小学生かな?中学生かな?うーんでも高校生ではないな。そんな気がした。
「そういえば、君の名前はなんていうの?」
その質問に君はびっくりしたのか、体をビクッとさせた。見てわかるぐらい大げさに。
「すごいね…!まるで決まってたみたい」
何かを懐かしむような顔をして君は言った。
「ほしのかげり、だよ?なんか思い出した?」
ほしの…かげり。確かそんな名前だった気がする。この子の名前はほしのかげり。
そしてこの子は…。
「あたりっ」
かげりが僕に抱きついてきた。僕もそれに応える。
「そうだ。僕は今日この場所で君に告白したんだ。出校日の放課後、体育館の裏。覚えてる…!」
ん、待てよ。“覚えてる…?”
どういうことだ。僕は今日この日の記憶がある。デジャブとかじゃない。確かに僕はこの日を過ごした。8月23日…。小学6年の最後の夏休み。
…あーだめだ。ここでまた脳みそが熱くなった。
「おしかったね?あと少しだ…!」
優しく手をさし出すかげり。
その手を掴んで目を閉じる。
全てを思い出すためには、この『永遠の夏休み』を過ごしきらないといけない。
「行こう。君と私の8月31日へ」
8月31日 天気【土砂降り】
夏休み最後の日くらいドカンと遊ばせてくれよ。
確かそう願って土砂降りの中を走り回った気がする。いつもバカをやってた仲間5人で、雨に濡れつつ、泥にまみれながら。
そして僕の記憶は、ここまでで止まっている。
「私はね、この日もお花を買いに花屋に行ったの。そしたら偶然まひろ君と会ったの」
かげりがうつむく。
「横断歩道に倒れこむまひろ君と」
そう。全て思い出した。
僕は確か車にひかれちゃったんだ。この横断歩道で。
調子に乗った罰だなっと勝手に納得しながら、12年間という短い時間の走馬灯を見たんだ。
「この日からまひろ君はずっと夏休みなの」
「確かに…。でも死んだはずなのになんで意識があるんだろう…」
考えていると、また脳みそが熱くなる。
だけど今までの感じとはまるで違って、じわりじわりと、あったまる感じ。
「まひろ君の時間は止まっているだけ。失われていないの。それを動かすことが出来るのが私なんだ!自分ではよく分からないけど」
なるほど。そういうことだったのか…僕は神社で願ったお願い事を思い出した。
それで全て納得できた。
こうなる事もある意味、必然だったのかも知れないな。
「一緒に帰ろ?」
ゆっくりと手を差し出すかげり。
僕はその手を掴んで、引っ張った。
そのままの惰性で僕とかげりの口が触れる。
「ありがとう。かげり」
1年後の8月3日 天気【晴天】
心電図の音で目が覚めた。ずいぶんと長い時間寝ていた気がする。
体を起こして体の動きを確認しようとしたけど、僕の手を掴んで寝ている君のせいで、あんまりできなかった。
白のワンピースをきたロングヘアーの君は、相変わらず漫画の世界から来たかのような綺麗な顔で寝ていた。
頬っぺたを突いて見ても、頭を撫でても起きる気配はない。
「ただいま。かげり」
声をかけて優しく頬を撫でる。
「んー…おかえり。まひろ」
寝言でそう言ったかげりがニコッと笑った。
あぁ、やっぱり天使なのかなぁって思った。
天使なんて見たことないけどさ。
半永遠の夏休みだった僕の話
小学生の頃なんて全てが輝いて見えて、
可能性は無限に思えたし、辛いこともさほどなかったし、
なにもかも完璧だった。
それは俺の考えで、みなさんがどんな小学生を過ごしたのかはわかりませんが、誰しもがいい時代だったと思うんです。
その頃の自分をすこしだけおもいだしてください。
少しだけは現状が楽になるかもしれませんよ?