ゆめはし
アイ
「愛」なんて言葉は世界で最も理不尽で無責任な言葉だ。
そんな言葉は嘘であり、ただの妄言でしかない。
突然現れて突然なくなる。
ものを愛した分だけ、自分がそのものに浸食されているということだ。
だから、愛したものがなくなったとき自分がその分だけ削られていく。
子供を早く亡くして自分が壊れてしまう親がいる。恋人に裏切られて自分が保てなくなってしまう人がいる。
これは、ある特定の人を愛しすぎてしまったからだ。愛した分だけ自分は削られる。
だから私はそんなことなんて、しない。
1
「夕夏、過去問のやり直しやったの?」
「やってないけど」
「だめじゃない。お兄ちゃんはやってたのに…なんでそう、できないの。そんなんじゃ、受からないわよ」
「…」
高校受験を来月に控えた私は、母の話を聞きながら、左手首をなぞった。
兄は勉強ができた。
いつも勉強をしていたし、母も兄につきっきりだった。
県で一番の進学校に入学した兄は私の誇りになんかならない。
兄と同じ塾には行ったことがあったが3か月しか持たなかった。
県で一番有名な学習塾で、私は授業について行くだけども精一杯だった。
3か月通ってもクラスは一番下のクラスのまま上がらなかった。
その時、塾の先生に言われた一言は「お兄ちゃんとは違うんだね」だった。
言葉が出なかった。
昔から私は兄を追い越すことができなかった。
認めてもらえなかった。
誰にも。
ピアノのグレード試験に合格した時も、褒めてくれたのはピアノの先生だけだった。
帰りの迎えの車に乗った時、母は結果表を横目で見て、「お金かけてるんだから当たり前でしょ」と言っただけだった。
褒めてほしかった。
絵画コンクールで賞を取った時も母は褒めなかった。
「なんでこんな時期にそんなくだらないことやってるの。勉強しなさい、勉強」
母は、いつも私を冷たく突き放した。
なんで認めてくれないの。
母は勉強ができる子が大好きだから、仕方ないことだと思った。
ゆめはし