笑いは銀河系を救う「お笑いバトル」(5)

五 おじいさんと孫漫才

 舞台には、年寄りの男と若い女性が登場した。おじいさんと孫だ。

「はい。地球人です」
「私も地球人です」
「二人合わせて、地球人です」
「それがどないしたんや。落ちがないで。そのままや。じいちゃん」
「じいちゃんって呼ぶな。瞳。ここは舞台や。舞台の上では、祖父と孫の関係はないわ。漫才の相方の関係や」
「ほんでも、じいちゃんには変わりないで」
「なんや、それは年寄りと言うことかいな。わしは若いで」
「若い言うても、もう八十やろ」
「人間世界では、そりゃ、年寄りかもしれんが、宇宙の起源から言えば、若造どころか、赤ちゃんみたいなもんや」
「こんな文句を言う赤ちゃんがおったら、うるそうてしょうがないわ」
「赤ちゃんは例えや。でも、ほらみろ」
おじいさんは口から入れ歯を取り出して、また、元に戻した。
「歯がないんは、赤ちゃんと一緒や」
「ほんまや。わがままなところ、自分勝手なところも、赤ちゃんと一緒や」
「ほっといてくれ。人間は生まれて、成長して、死ぬ前に、元に戻るんや」
「なんや、じいちゃん。もうすぐ死ぬんかいな」
「あほ言え。わしは死なんで、まだまだ、ぼやき続けなあかんのや」
「ほな、あたしも、一緒にぼやくわ」
「そうか。いやに、素直なや。その言葉に免じて、今日のところは勘弁してやるわ。それにしても、ほんま、最近、どないなっとんのや」
「どないや、言うて、どうしたんや」
「アンドロメダ星雲が銀河系にぶつかって来るという噂やないか。なんぞ恨みでもあるんかいな」
「恨みはないとちゃうか。ただ飛んでくるだけやろ」
「ただ飛んでくるんやったら、ちゃんと、目を開けて、ぶつからんように避けなあかんやろ。それが他人さんへの常識やろ」
「星には目はついてあらへんで」
「ついてなかったら、つけたらええやろ。わしがマジックで目を描いたろか」
「そんな無茶な。それに、マジックで目を描いても見えへんで」
「無茶なんは、ぶつかってくる方やろ」
「そりゃそうや。じいちゃんの言う通りや」
「どうしても、ぶつかるんやったら、慰謝料を持ってこい」
「そういう問題ではないんとちゃうか」
「この銀河系には、地球人だけでも何十億人も住んどるし、銀河系人なら数千億にも上るのに、迷惑やろ。人の迷惑考えとんのか」
「そりゃそうや。このままぶつかったら、地球がこなごなになってしまうわ」
「そうやそうや。こなごなや。わしも瞳も粉々や」
「小麦粉みたいに言わんとって」
「粉々になったわしと瞳を水で練って、焼いたら、たこ焼きや」
「あっちっちっち。熱うて、たまらんわ」
「瞳も、わしの話によう乗ってくれるな」
「そりゃ、じいちゃんの孫やから」
「まあ、そう言うことや」
「何が、どう言うことや。アンドロメダ星雲がぶつかってくることが気にくわんのやろ。じいちゃん」
「ほんまか。瞳。そりゃ大変や。はよ、逃げなあかん」
「何言よんな。アンドロメダ星雲がぶつかってくると言うたんは、じいちゃんやないか。ちょっとボケとんのとちゃうか」
「誰が簿毛や。毛が薄いんは通り過ぎて、このとおり、つるつるの人工太陽や」
「じいちゃん。その人工太陽のまぶしさで、アンドロメダ星雲をなんとかできんのかいな」
「そりゃ、ええこと言うわ。今度、光頭会のメンバーに相談してみるわ」
「コウトウカイ、て何?」
「光る頭の会や。わしのように、頭がこうごうしい者の集まりや」
「何やて。じいちゃんみたいに、口やかましうて、文句たれで、ぼやく奴がまだ他におるんかいな」
「誰が文句たれや。わしは自分に正直なだけや。他の奴は、思うことも言えんで、いじいじしているだけや。そんなんしとったら、体に悪いし、長生きできんで」
「じいちゃん、まだ、生きる気か」
「ああ、生きるで。瞳が結婚して、ひ孫を見るまで、生きとかなあかん」
「嬉しいこというてくれるけど、じいちゃんと一緒におったら、いい虫も、悪い虫も寄りつかんけど」
「そりゃそうやな」
「いやに素直やな」
「でも、頭が光るおかげで、いろいろと役立つこともあるんやで」
「何が役立つんや」
「この光を利用して、たこ焼き焼いたり、合図をしたりできるんや」
「ほんまかいな。じいちゃん、何やっとんのや」
「アンドロメダ星雲に、光で合図しとんのや」
「なんて合図や」
「たこ焼きはいらんかいな。たこ焼き欲しかったら、ここまでおいで」
「ここまで来たら、地球にぶつかってしまうがな」
「その時は、迷惑料代わりに、たこ焼き代をもらうがな。瞳にも半分やるわ。その代わりに、たこ焼きを焼くのを手伝ってくれよ」
「もうええわ」

 二人は舞台を降りた。舞台の裾から司会者が登場した。
「夫婦や兄弟の漫才師は多いですけど、祖父と孫のコンビは珍しいですね。さあ、得点の方はどうでしょうか。電光掲示板をご覧ください」
 舞台の上手の掲示板に得点が表示される。
「十万笑いです。一挙に、笑いがヒートアップしました。銀河系に向かってくるアンドロメダ星雲の戦闘部隊の第一陣が総崩れです。他の星雲に吹き飛んだことでしょう。たこ焼きで釣っておいて、餌に食いついた途端、吹き飛ばすやり方が成功しました。残るは、本体の総大将のみです。最後の登場は、銀河系一のお笑いスター・・・」

 じいちゃんと孫は寄席から出た。
「さあ、たこ焼きを食べに行こう。瞳」
「まだ、漫才が続いとんかいな。たこや言うたら、さっき火星人がおっつたで。あの火星人を食べるんかいな」
「あほ言え。あんな火星人喰うてどないすんのや。それに、火星人がたこ言うんは、地球人が勝手に考えた想像の生き物や。ほんまもんの火星人は違うで」
「でも、さっき舞台に立った火星人は、頭がつるつるで、手足が八本あって、どう見てもたこやったで」
「あれは着ぐるみや。お客さんの気を引くための仕込みや」
「なんや、そうかいな。それならほんまもんの火星人はどんなん?」
「それはわしも知らん。頭がつるつるで、手足が八本いううんだけは聞いとるけどなあ」
「それがたこなんや。じいちゃん、やっぱりボケとるで」
「誰が薄毛や。毛が薄いんは通り過ぎて・・・」
「もうええわ。それ、さっきの漫才の続きや。それよりも、じいちゃん。わたしは、たこ焼きよりもパフェがええわ」
「パフェが食べたいんかいな。それやったら、ええ店、知っとるで。アイスクリームの上にたこ焼きがのっとんのや」
「それ、やっぱり、たこ焼きや。それに、そんなん、まずいんと違うか?」
「アイスクリームのてんぷらもあるんやさかい、パフェの上のたこ焼きも美味しいんと違うか」
「ちょっと、話が違うと思うけど。それに、じいちゃん。もう、漫才は終わっとるで。たこ焼きにこだわらんでもええんとちゃうか」
「漫才は終わっとるかもしれんけど、生きていることは続いとるで」
「そりゃ、そうや。じいちゃんにしては、いやに真面目やなあ」
「何言よんかいな。わしは、これまでずっと真面目に漫才してきたで」
「そうやなあ、二十四時間、漫才人生やもんな」
「二十四時間だけやないで。三百六十五日漫才や」
「三百六十五日を八十年間続けているから、三万時間に近いんとちゃう」
「ええこと言うなあ。確かに、母親のお腹から生まれた時に、おぎゃあ、の代わりに、まいど、って言うたもんや」
「それは嘘やろ。二人だけで、漫才してどないすんのん」
「ほやから、二十四時間、漫才していると言うとるやろ」
「それって、疲れへん?」
「疲れてしもうて、もうよれよれや。ほなけん、栄養つけるために、たこ焼き食べるんや」
「そこかいな。そこに行きつくんかいな。ちょっと、無理があるけど、まあ、つきおうてあげるわ」
「なんや、急にやさしいなって。気色悪いな」
「アンドロメダ星雲がぶつかってきても、じいちゃん、一緒にいような」
「そりゃそうやけど。お前は若いからええけど、わしは年寄りやさかい、それまで命が持つかいな」
「持つ。持つ。憎たれ口叩く奴は、長生きするって、昔から言うてるで」。
「それ、誉めとんのかいな。貶しとんかいな」
「もちろん、誉めてるで。でも、じいちゃんは、瞳にはやさしいから」
「なんや、ちょっと寂しくなってきたな」
「ほな、たこ焼き食べよ。体も心も、温かくなるよって」
「そうやな。ついでに、たこ焼き屋でも開くか」
「たこ焼き屋って、どこに?家の近所?」
「もちろん、アンドロメダ星雲や。銀河系にぶつかる前に、アンドロメダ星雲に飛び乗るんや。なら、ずっと、たこ焼き屋ができるで」
「漫才はやめるんか?」
「漫才は続けるわ。銀河系一から、アンドロメダ星雲一の漫才師になるんや」
「じいちゃん。夢が大きいなあ」
「夢だけやないで。態度もでかいで。たこ焼きもでかいほうが、お客さんも喜ぶやろ」
「それなら、アンドロメダ星雲よりも大きなたこ焼きを注文してもええかいな」
「もちろんや。ついでに、そのたこ焼きよりも大きなパフェを注文してもええで」
「じいちゃん。やっぱり、やさしいなあ。ほな、たこ焼き屋の下見に行こ」
 瞳はじいちゃんの腕を取ると、スキップしながら近所のたこ焼き屋に向かった。ただし、じいちゃんは二本しかない足がもつれて、よろけながら瞳に引っ張られるのであった。

笑いは銀河系を救う「お笑いバトル」(5)

笑いは銀河系を救う「お笑いバトル」(5)

五 おじいさんと孫漫才

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-07

Copyrighted
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