迫りくるもの
その天体を最初に見つけたのは、太陽系の外側を回っている自動観測機だった。
「警告!警告!太陽系近傍ノ宇宙空間ニテ、正体不明ノ天体ヲ発見。地球ニ接近中!」
地球上の全天文台が色めき立ち、知らせを受けた各国政府は詳しい情報を求めた。だが、第二報がなかなか来ない。
たまりかねて、地球側から自動観測機に督促の信号が送られた。
「系外観測機37号、発見した天体の情報を送れ」
「……カ、カ、カカ、解析不能。ジョ、情報アリマ、セン」
「どうした。発見したというのは間違いなのか」
「間違イデハ、間違イデハ、アリマセン。天体ハ確カニ存在シマ、シマ、シマ」
どうやら故障による誤報ではないかと、誰もが疑いだした時、第二報が来た。それも、もう少し地球に近い軌道を回っている観測機からだった。
「太陽系内ニ侵入スル異常ナ天体ヲ発見!間モナク海王星軌道ノ内側ニ入リマス」
「どのような天体だ?彗星なのか」
「彗星デハアリマセン。小惑星デモアリマセン。コレハ、コレハ……」
「どうした。詳しい情報を送れ」
「理解不能デス。今マデ知ラレテイル、ドンナ天体トモ違ッテイマス」
さあ、地球は上を下への大騒ぎになった。宇宙人が攻めて来るだの、怪獣が襲来するだのといったデマが乱れ飛んだ。
そうこうするうちに、ついに月面基地の天文台から直接観測できる距離に迫ってきた。間もなく、最大級の望遠鏡にとらえられたその天体の姿を、詳細に観測できるはずだ。同時にその映像は、地球上の主要な天文台や研究機関にも中継されるよう手配された。
ところが、やがて映し出された天体の映像に、地球上の天文学者たちは首をひねった。ぼんやりとした白いシミのようなものしか見えないのだ。
中継元の月面基地天文台でも、それは同じだった。画像解析室の巨大スクリーンには、不明瞭な白いモヤモヤしたものしか映っていない。
「おい。もう少し解像度を上げられないのか」
ちょっと苛立った主任研究員の問いかけに、助手は悔しそうに答えた。
「これで目一杯です」
うーむと唇をかんだ主任は、反対側の女性係員に尋ねた。
「電波望遠鏡の方はどうだ」
「同じです。ぼんやりしています」
その時、助手が声を上げた。
「あっ、天体の角度が変わって、何か見えてきました。こ、これは」
巨大スクリーンに謎の天体、いや、白い文字の列がくっきりと見えてきた。
『遠い昔、はるか彼方の銀河系で……』
(おわり)
迫りくるもの