花言葉

花言葉

出会いがあれば、別れもある。
それが突然くるか、ゆっくりくるかでこうも辛さの度合いが違うとは。
心の準備というのは、何事にも大事なようですね。

私とあなたが成長した記録。


夕暮れの高架下で、23にもなってセーラー服を着ている私は、周りから見たら変人だ。
でもいいんだ。
だって私が23だなんて、すれ違う人が気づくはずもないし、セーラー服さえ身に纏っていれば、
私は18歳ぐらいの高校生に見えるし、私も18歳に戻ったような気がするし。

でも本当は違うの。
私が戻りたいのは、17歳の秋 。
あの日、君に言えなかった言葉を私は言いにきた。
スターチスの花束を持って。

話はあの頃に遡る。

私は河川敷でギターを弾くのが好きだった。
別に誰かのために弾いてるんじゃない。自分勝手で弾いてた。別に上手くもないのに大きな音をわざと出して汚い声でたくさん歌った。
なんでこんなことをしていたのか、今となっては恥ずかしいけど、後悔はない。あなたと出会えたから。
「あなた」は、よく私の歌を聴きに来る「変わり者」だった。
だって学校のある日の平日にギターを聴きに来てるんだもん。おかしいよね。
その中でも特におかしかったのがあなたの格好だった。
休みじゃないのに学生服は着てないし、最初からサボった感丸出しの私服なの。

私もだけど。

そんな私によく似たあなたは、花が好きだった。いろんな花々を見せてはこれはこういう意味があるんだと自慢げに話してくれた。もちろんギターを弾きながらだから、あんまり聞こえなかったけど、紫と白のちょっとした花に気を取られたせいで、ギターの音が少し弱くなっちゃって、そこにつけこまれた。

「気になるか?こいつの花言葉」
私はついついギターの音を弱めながら頷いてしまう。
「こいつの名前は『スターチス』花言葉は『永遠に変わらぬ心』だ。俺と付き合ってほしい」

きっと私が純粋な女の子だったら、ここでギターを止めたんだろうけど、私は音を元に戻して、「ぷっ」っと笑った。

変わりに私は曲調を変える。割と暗めなコードから、明るいコードにと、徐々にコード進行する。
一通り弾き終えた私には考える時間がたくさんあった。その中で、出した結果だ。後悔はない。

「喜んで」

これがあなたとの出会い。

それからは毎日が幸せだった。一緒に花を探したり、一緒に歌ったり、私たちはお互いの好きなことを好きなだけやった。
だって、学校にも行ってないし、あんまり家にも帰ってないから、自由な時間がたくさんあったんだ。不良少年少女だったってわけ。

でもやっぱりそんな不自由な「自由」のなかで、「完璧な幸せ」が長くつづくはずがなかった。神様はいつもそうだ。
理不尽で、わがままで、自分勝手。
まるで私みたいだ。

蝉が死に絶え、虫たちの動きが鈍り出した秋。
あなたが河川敷に来ることはなくなった。

連絡先を交換してなかったのが私のミスだった。
なんていうんだろう。私は携帯を触る事があんまりなかった。だって携帯なんて、友達とか何らかの繋がりがある人が使って初めて機能する幸せな機械だって思ってたから。その時ばかりは友達のいなかった自分を恥じた。
でも仕方がない。あなたもそうだったから。

だから私はずっとギターを弾き続けた。
寒い冬が来ても、桜が咲いても、太陽が照りつけても。
季節を何回通り越しても、私が河川敷でギターを弾かない日はなかった。

そんなある日、私は異変に気付く。
もっと早くてもいいんじゃないかなって思ったけど、性格上、中々気付こうとしなかったから。

私の周りにはたくさんの人がいて、いつも歌を聴いてくれていた。たくさんといっても、6.7人だ。他の人からすれば「たかが6.7人」かもしれない。けど、「0」からの私にとってその数は「たくさん」なのだ。

演奏が一通り終わって、帰ろうとしたとき、一人の少年に話しかけられた。

「ねーねー。おねーちゃんはキイチゴの花言葉を知ってる?」

「花言葉」

その言葉を耳にするのは何年ぶりかなって思った。
気がついたらあれからもう2年も立つのか。元気にしてるのかな。彼。

「キイチゴは確か…後悔。だった気がするけど…違う?」
「あたり!」
と、少年は笑った。その笑顔がどこか彼に似ていて、ちょっと泣いたりもした。

「もしかして君さ、お兄ちゃんとかいる?」
確信を持ってきいた。この子にはお兄さんがいる。親子ぐらい歳の離れたお兄ちゃんが。
「いるよ!」
「どんなお兄ちゃん?」
「お花とギターが大好きなお兄ちゃん!」
バラバラだった私の中の何かが、少しずつ繋がっていくのを感じた。

「でも、僕が一つ下の歳のときに死んじゃった」
ここまでで…。ここまでで、本当の本当に繋がってしまった。

1年前。
確かあの日も秋だった。

私が河川敷についたとき、綺麗な薄紫色の花が「置いて」あった。
私は必死になってその花を調べた。何か手がかりになるんじゃないかなって。

その花の名前は『シオン』
花言葉は『あなたを忘れない』

そのときに不良少女の私は、不良少年の心を受け取った気がした。
私たちにしか、共感できない「何か」を。

話は今に戻る。

23の私がセーラー服を着た理由は、
『お別れ』

ちゃんとしたお別れをするために。
不良少女『だった』私があなたに向ける最後のけじめ。

「私はあれから、ギターを弾く場所を変えました。河川敷もいいけど、そろそろ人の前で弾いてみたいなって思ってさ。だから今は、ちっちゃいライブハウスで歌ったりしてます。あなたにはわかると思うけど、今はちっちゃいだけ。これから私の歌う場所は広くなる。河川敷より広いんだから」

「あなたがいなくなって気付いた。正確には、気付かされてしまった。今まで知らないふりをしていたのに。素直じゃないんだって隠してきたのに。私ってただの『寂しがり屋さん』だって。かまってちゃんだって。
だから今日からたくさんの人にかまってもらう事にする。人生を180度変えてみる」

「いつも幸せな時間の中に私をつれていってくれてありがとう。私はこれから先もずっと、あなたを忘れるつもりはありません。あなたから教えてもらった『スターチス』のもう一つの花言葉。『変わらぬ誓い』として、ここに置いていきますね。
本当に、本当に、ありがとう」

夕暮れの高架下に小さくまとめられた『スターチス』
その横には、無造作に弦の切れたボロボロのギターが一本置いてあって、その周りにはたくさんの花が咲いていた。
いろんな色を織り交ぜて、暖かく、ときに寂しく。
まるで幸せを絵に描いたような配色を、常に保ちながら。

花言葉

《これからが見える》と言うのは、とても励みになります。
将来の不安と言うのは、理想の上に成り立つわけですが、何もかも不安ということはないでしょう。
《それを実現させるためにやるべき事》
これが分かってさえいれば、後は努力なわけで、努力して成長しない人はいません。
どんなに小さな値でも、成長は成長なんです。
《何事にも前を向いて取り組む強靭な心》
これさえもっていれば、どんなに深い穴に落ちても大丈夫な気がします。

花言葉

思い出が詰まった年を重ねるごとに人は強くなる。 そんなお話です。

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更新日
登録日
2015-02-05

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