空の羽音

昔に見た夢を脚色して書いてみました。
書いてる自分でもよく分からないお話です

私の向かいからトコトコと誰かが靴を鳴らす音が聞こえてきた。
とても、愉快で楽しげな音だ。
「まだかな」
「まってよー」
「早く、早く!」
子供たちのはしゃぐ声もうっすら聞こえる。

地面には薄いベールのように真っ白に積もった雪が敷かれていた。
太陽が隠れはじめ、曇り空になりつつある天気。
少し寒さを感じて着ていたコートのポケットに手を突っ込んだ。

「あれ?」

気が付くと目の前にはミシンで縫ったような足跡が真っ直ぐ、一本、一定に付いていた。

そのラインに意識を向けた瞬間、
目の前の景色は変わり始め、一本だった足跡が二本に枝分かれし始めた。そして分かれた道は亀裂のようにほかの線を引いていく。それは次第に何度も同じところを通り、線を重ねやがて何度も踏まれた箇所からはぐちゃぐちゃと灰色の地面が滲みはじめていた。覆っていたものが溶け、完全に露出されたその地面は真っ黒で。

私は囚われるようにその光景を見ていたが、名前を呼ばれ顔をあげた。
視界は反転する。

「ねぇ、どんなメーカーの製品がいいかしら。これとか若い子向きなんじゃない?」
楽しそうに私の腕を引き採寸をしながら、この腕は少しあなたに長すぎるわね、なんて話すお母さん。
あぁ、そうだ、私は買い物にきていたんだったな。

いつの間にか真っ黒だった地面は消え、私は近所のスポーツショップへ来ていた。
スポーツシューズに、スポーツウェア…。
カラフルな色をした商品があちらこちらに置かれ売られている中で、私は先に品物を選ぶ母に呼ばれてその売り場へと向かった。
そこでお母さんは、とても綺麗な手で私の腕を掴んで言うのだ。

「良いお年頃だし、あなたも自分の身体を綺麗なものと取り替えたら?」

折角の機会だし、と笑いながらその品物を私の前に差し出してくる。
それは、義手だった。
まるで生きているような健康的な肌色に、毛穴、シミ、ほくろなど一切ない完成美。
指先は美術品のように美しく、たおやかな人の腕。
触ってみるとしっとりとし、自分の腕とどこも変わらない感触。
切断面は赤く、少しぬるぬるとしている。
本物ではない。しかし、造りものとは思えない程良く出来ている。
そんなものが三千円ばかしで売られていた。

周りを見渡せば義手の他にも様々な人体のパーツが売られていた。
天井からは骨盤から太ももまでの下半身が吊らされている。
見上げる限りプラスチックの様な透明な拘束バンドと金具の様なものが見える。きっとあれで上半身と繋ぎ合わせるのだろう。

商品棚にはタイツと義足が並べられ、商品説明にはそれぞれ用途に適した義足がシリーズものとして売り出されている。

褐色色した義足には運動会やスポーツに活躍!と踊り文句が記載されている。必ずモテる美脚!というポップ文字が踊るすらっとした義足の在庫は少ないようで次回の入荷は未定、と書かれている。

近くに置かれた売り出しワゴンの中には少し白色が濁った目玉がペットボトルの様な容器に入って大量に売れ残されていて、思わずぎょっと見つめてしまう。他の客がその中の一つの商品を手に取る。瞬間、容器の中を目玉がちゃぽんと泳いだ。視線が合う。アレは本物の目玉だ。
私は咄嗟に顔を背けた。客はそのままその目玉をカゴに入れレジの方へ消えていった。

「ねぇ、どうしたの?それとも今日は買わないの」

お母さんが突っ立ったままの私に呆れたような声で聞く。夕飯作らないといけないんだからさっさと決めなさい、と。
「やっぱり今日はやめておくよ、また今度にする」

空の羽音

読んでいただきありがとうございました。

空の羽音

過去に見た夢のお話です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-04

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