空の飛び方

地面を強く蹴る。
フワッと身体が浮く。
本来なら重力に従って地に戻されるだろう。
しかし私の身体は地上より数十メートル上にある。
重心を前に傾けると、僅かに降下しながら前進する。
程よいところでまた宙を蹴り、一定の高度を保ちながら進んでいく。
目的地まであと少し、ほんの少しのところで動きが悪くなる。
身体が重く、前に進まない。
タイムリミットだ。

大音量の機械音により現実に引き戻された。
さっきまでと"景色だけは"なんら変わらない世界。
しかしこの世界では私は飛べない。

幼い頃から何度となく繰り返し見る夢。
その中でだけ、私は空を自由に移動できる。
現実世界でも飛べる気がして、田舎道の真ん中で力強く地面を蹴ったことは
1度だけではない。
数秒も経たずにまた地面に引き戻され虚しくなる。

やり方も感覚はわかっている。
なのにできない。
思い出しただけでも、虚しさともどかしさでなんだかムズムズした気持ちになり
そんな行動を取ったことを少し後悔する。

そしていつも通りの日常が今日も始まる。
朝7時に起床し、朝食を摂る。
軽くメイクをしてほとんどローテーションで決まっている洋服に着替える。
つい先日短く切った髪は右側だけ跳ねてしまって落ち着かないでいる。
「いってきます。」
静まり返った部屋に自分の声だけを残して家を出る。

大学へ進学と同時に1人暮らしを始めた。
当初は憧れの1人暮らしに胸をときめかせていたものの
始まってみると何も面白みのない生活だ。
友達をたくさん呼んで騒げば
そこはパーティー会場になるのかもしれないが
大人数で騒ぐのは苦手だし、極力部屋に人を入れたくないので
私が住み続ける限りはありえないだろう。

あまりの寂しさにハムスターを飼い始めたのは先月のこと。
ハルと名付けられた小さな生き物は、最初こそちょこまか動いている姿を見るだけで
癒されたし、飼ったことに満足していた。
しかし夜通し回し車をフル回転させるので今では私は慢性的な不眠症だ。
近いうちにもっと静かな物を購入しなければ不眠症どころでは済まなくなってしまう。ら

空の飛び方

空の飛び方

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-04

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