世にも奇妙な男の夢 第3夜 バラの花束を受け取ると…
ストーリーテラー登場 この物語は、ある選手とコーチの会話で話題にのぼったうわさ話から始まります。
これは、ヒューがいつか見た夢である。
1日の練習を終えたヒューは、カナダ人コーチと雑談していた。2分に1回は話題が変わるうちに、あるうわさ話が話題にのぼった。それは、美女から白いバラの花束をもらった少年の話だ。
「その美女から花束を受け取った彼は…」
コーチがそこまで話したとき、彼の携帯電話が鳴った。
「お、失礼」
彼は電話に出た。
「もしもし。ああ、私だ。…ん?あ、そうだった!すっかり忘れていたよ。……ああ、今すぐそこに行くから、10分ほど待っててほしい」
コーチは電話を切ると、ヒューに言った。
「悪いな、ヒュー。ステイシーと会う約束をしていてさ。話の続きはまたの機会にな」
そう言って、コーチはその場をあとにした。ヒューは、予想外の事態に言葉をなくした。
帰宅後、ヒューは近況報告も兼ねて、携帯電話で同業者のローザに話した。
「あのさ、ローザ、白いバラの花束を受け取った少年のうわさって、知ってるか?」
「ええ、知っているわ」
「俺さ、今日、コーチからその話を聞いたんだけどよ、コーチが途中で『約束がある』だの言ったもんで、少年がその後どうなったかわからなくてさ…」
ローザは静かに言った。
「その話の続きは…自分で探して」
その直後、電話を切った。
「おい、ローザ!」
聞こえるのは、ツー、ツーという音だけであった。
「何だよ、また答えを探させるのかよ。…まあ、いつものことだけどさ」
そこで、ヒューは、友人であるバイオリニストのジャックに聞いてみた。
「なあジャック、おまえ、花束を受け取った少年の話、知ってるか?」
ジャックからは、予想外の答えが返ってきた。
「何です、それ。私はその話はわかりません」
「ほら、美女から白いバラの花束を受け取った少年の話だよ」
「うーん、聞いたことのない話ですね」
ヒューはがっかりしたが、すぐに気持ちを切り替えて言った。
「ん…。ま、いずれにせよ、ありがとな」
「いえいえ、疑問にお答えできなくて申しわけありません。またお電話くださいね」
「ああ、じゃあな」
ヒューは電話を切ると、冷蔵庫から朝食の残りのサラダを出してそれを食べ切った。
― その夜、彼はベッドに入っても、眠りに落ちるまでに3時間かかった。
翌日のこと。ヒューはスケートリンクに入り、ウォーミングアップのあと、ショートプログラムの練習を開始したが、ジャンプのミスが連続し、ステップやスピンも精彩を欠いていた。そのため、90秒に1回はコーチに注意された。
彼は何とか1日の練習を終え、スケート場を去るとき、コーチに話しかけた。
「コーチ、昨日の話の続き、聞かせてもらえねえかな」
「ああ、あの話か。その少年は、次の日…」
そのとき、ヒューの腹がうなりだした。
「う…。何だ、いたた…」
「どうした、ヒュー。腹を押さえて」
「いや、悪いな。俺の腹が、中のもの出してくれってさ…」
そう言って、ヒューはトイレに走っていった。
用が済んだあと、彼はコーチのいるところに戻った。
「いや、待っててくれたのか。ありがとな」
「いやいや。そうだ、あのうわさ話を聞きたかったんだな。その少年は、次の日…」
― そのとき、ヒューの携帯電話が鳴りだした。
「あ、もしもし、俺…」
世にも奇妙な男の夢 第3夜 バラの花束を受け取ると…