music*

初めまして*

「村本 葵です。よく女の子と間違われますが、僕は男です。よろしくお願いします」

入学式が終わった後のホームルーム。
ざわざわとざわめく教室のなか、僕はひとりぼっちだった。
たんたんと進む自己紹介。
ほぼ皆、私立中学からの上がりでこの高校に入学しているから、顔馴染みがいっぱいだと思う。僕みたいな外部からきたやつなんかに居場所なんてない。
こりゃ参ったなぁ、なんて呟きながら頬杖をつき、残りの自己紹介を見守る。
せめて名前だけは覚えとかないと。

「....天宮 亜樹です、よろしくお願いします....」

男子が終わり、女子になったらしい。
影が薄い暗い女の子から、自己紹介がスタート。
それにしても、あの子友達居なさそうだなぁ。失礼だけど。
亜樹ちゃんか、亜樹ちゃんね、うむうむ。記憶した。

「櫻木 優です!!!よろしくお願いします!!!」

大分、進んでちびっこい女の子になる。
はきはきしてて、何処と無く楽しそうだなぁ。なんて思いながらも、だらだらしていると____。

「....おい」
「....!?なーに??」

ドスが効いた声が頭の上で聞こえる。がばっと起き上がると、長身の黒髪少年と、あのちびっこい女の子と暗い雰囲気のマスクした女の子がいて。

「え、なんか、僕、なんかした???」

やっぱり、自己紹介中にだらけちゃだめだった?
なんて考えていると、ちびっこい女の子もとい櫻木さんがニコニコしながら、窓の外を指差した。

「もう外くらいよ?下校時刻過ぎちゃったよ?」

そう確かに、窓の外は夕焼けに染まっている。
待て、僕、どんだけ寝てたんだろう。ヤバイ。
今日、早く帰らないとヤバイじゃんと思いながら、すかすかの鞄を手に取って。

「教えてくれてありがとう!!このお礼はいつかするから!」

ガタンと立ち上がり、素早く教室のドアを開けて、去っていった。

偶然?運命?*

放課後の人気のない廊下。
そこに立ち、僕はある部屋をじっと見つめていた。

____生徒会室。

ぎゅっと部活申請の紙を握りしめて、ドアをノックしようとする。
しかし、ノックしようとしたところで不安が襲いかかってきて。
どうしても、その手をだらんと下ろしてしまう。

「....情けないなぁ....」

『もう、やってられねぇよ!!!!お前との音楽なんか!!!!』

あの頃はあんなことさえ、言えたのに。
どんなに辛くても、悲しくても、弱くても、仮面を張り付けて、隠して。
笑顔のまま、傷が開いたままでも気にしなかった。自分は弱くない、自分にも嘘をついて。

____だけど、どうして、今はこんなにも不器用なんだろうか。

さっさと、生徒会室に入って部活申請をすればいいのに。
なんでもいいから、張り付けて、笑ってればいいのに。
友達が貸してくれた名前が書かれている紙を、生徒会室に置いていけばいいのに。
そう考えていた時、何かが僕にぶつかった。

なにも構えていなかった僕は、簡単に体制を崩して....。

「....あっ....!?」

握っていてしわがついた紙が、僕を嘲笑うかの如く、指先を掠めて宙に舞った。

「....てて、あっ!?この前の....!」

それを見届けていると、ぶつかってきた人が声をあげた。
しかも、僕が聞いたことのあるひまわりが咲くような明るい声。

「....優、ちゃん?」
「村本くん!」

そう、あの先日の放課後に起こしてもらった、3人組のなかで一番背の低い少女がそこにいた____。

その頃のとある二人組*

「....はぁぁ」

だらりとマイクを持った手を下ろし、足元のペットボトルを別の手で持ち上げる。

____第三音楽室。
この学校には三つの音楽室がある。
そのなかで、一番古いのはこの第三音楽室。
現在、第一、第二音楽室は吹奏楽部が使用中である。
実はこの音楽室も吹奏楽部のものらしい。時々、一年らしき奴が楽器片手にやってくる。

「樹ー、次、歌ってもいい?」
「あ、いいけど」

そう言って、マイクを彼女に手渡し、近くにあった椅子に座り、ギターケースを手繰り寄せた。彼女はそれに気付いたのか、にかっと笑った。

「樹、演奏してくれんの?じゃあ、春に一番近い街やってくれる?」
「おー....でも、あれ、ピアノ....」

そこまで言うと彼女は、マイクを机に置いてピアノの傍に移動した。
そして、ホコリ被ったカバーをはずし、てきぱきと準備を済ませていく。

「私が、やるよ。今、誰もいないでしょ?」

悪戯っぽく笑う彼女に、俺は呆れながら、ギターを構えた。
彼女も最終チェックを終わらせたみたいで、ぽろんと音を鳴らし、俺と目を合わせてから、前奏をかなで始めた。

____久しぶりの感じに胸を踊らせながら、俺は息を吸った。


楽しそうに歌う男女二人組を見つめてから、そっと息をはいた。

____廃部になったはずの軽音部の二人組が何してるんだか....。

「........ばかめ」

そんなことしたって、自分達がどうなるか、わかっているはずなのに。

申請*

「....ふーん、軽音楽部をつくるんだ....」

申請書を見ながら、ため息を吐く優ちゃん。
俺はドキドキしながらも、見守る。

____たまたまぶつかった彼女が生徒会役員で、生徒会室にいれてもらった。
なんて漫画みたいな展開、誰が予想なんてするだろうか。意味がわからない。

「軽音楽部ってさ、あったんだよ。知ってる?」
「え?あったの?じゃあ、なんで....」

そこまで言ったところで、ガラリと生徒会室の扉が開いた。
中に入ってきたのは、これまた知ってる人で。優ちゃんも気付いたのか、へらっと笑いながら、おかえりと呟いた。

「....ただいま。優、こいつは?」

なんでこんな所に来たんだ。みたいな目線を向けられ縮んでいると、優ちゃんはにこにこと笑いながら、僕が書いた部活申請の紙を、黒髪の一番最初に話しかけてくれた、あの子、うん、名前がわからない。

「うちのクラスの子!多分、一回会ってるよ。村本葵くん!」
「よろしくお願いします....!」

慌てて頭を下げれば、黒髪の青年はくすりと笑ってから、顔、あげていいよ。といった。え、意外に優しいの。え。おどおどしつつ頭をあげた。

「で、部活の申請かな?優、紙見せて」

そう言って、申請の紙を優ちゃんから奪った。
心臓がドキドキと高鳴る。嫌な汗をかいてきた。やべぇ、怖い。

「....人数は一応揃ってるし、それなりに活動できると思う。ていうか、優、お前
何紛れて名前かいてんだよ」
「え、無所属だし?軽音楽部やりたかったし」

何いってるんだろうと思い、ちらりと申請の紙を見ると、ひとりだけ付け足されていた。
櫻木優。丸い字でそう書かれていて、僕は優ちゃんを見ると、ぱちんとウインクしていた。いやいや、なんで、ウインクするの。

「とにかく、一応承認の条件は満たされているから、承認しておくね。頑張って、軽音楽部」

判子を押してから、僕に紙を差し出した。僕は嬉しくて深く礼を生徒会室から出ていった。

music*

music*

「僕らで届けよう!音楽を!!」 様々な悩みを抱えた生徒たちが、音楽を通して心を通じていく____。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-03

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  1. 初めまして*
  2. 偶然?運命?*
  3. その頃のとある二人組*
  4. 申請*