明日、世界が終わるとしたら

明日、世界が終わるとしたらあなたは何をしますか?

目の前にある大きなテレビ。落ち着いた表情で、ニュース原稿を読み上げるキャスターは今日も綺麗だ。
『明日に迫っています。もう、どうすることも出来ません。 ただ、我々人類は終末を待つしかないのです。 やりたいこと、やり残していること。ある人は、少ない時間ですが、有意義に過ごしましょう』
明日、世界は終わる。そんな実感は全く感じられなかった。世間は騒いでいたが、俺の周りの生活は何変わることもなく、いつも通りに進んでいた。いつも通りに起き、いつも通り支度をし、いつも通り会社へ出勤。しかし、今日はさすがに休んだ。無断欠勤だ。今頃、課長は怒っているだろう。まぁ、明日世界が終わるんだ。どおってことない。
さて、何をしようか。
いざ、こんな状況になると何も考えが思いつかない。子供ころ、明日世界が終わるとしたら何がしたいですか。そんな質問を、受けた覚えがある。そして、俺は答えた。
「分からない」
あぁ、バカだった。もう少し、考えておけば良かった。まさか、明日に世界が終わるとは冗談にもその頃は思っていなかった。
小学校の頃は、何も考えず遊んでばっかりで楽しかった。男女がお互いに意識し合う事は無く、みんな仲良く鬼ごっこをしたりと、そんな思い出しかない。
中学校に入学して、いろいろと変わっていた。彼氏彼女が出来たり、体が成長したり、自我が目覚めたり。俺だって、もう少し背が伸びて欲しかったかな。彼女はーーーーいたけど、結果振られたんだっけな。理由は、他に好きな人が出来た。全然、悲しくはなかった。
高校生になると大人になれた気がしていた。中学校で鍛えられた学力と体力。コミニュケーション能力が高いやつが高校では有利な立場に立っていた。高校でも彼女が出来たけど、また結果振られたんだよな。理由は、面白くない。一年間も付き合ったのに、それはなくない? 本気の疑問を抱いたのも高校時代か。全然、悲しくない事はなかった。正直言うと、相当悲しかった。ここで人を愛して、ここで人を失う辛さを知った。
そこからは、特に何もない大学時代を終え、普通企業に就職し、今を過ごしていた。古びたアパートに一人で。彼女もいない。それに、半年前にオヤジとオカンは二人とも交通事故で死んでいる。きょうだいはいない、俺は一人っ子だ。俺が死んだって悲しむ人はもういない状況だった。まぁ、みんな明日死ぬんだから、誰が誰かを悲しむなんて事はないんだと思うけどさ。それでも、俺は一人で生きてきたことを後悔しているわけでも無い。一人は一人なりに楽しいのだ。時間に縛られることなく、誰からも指図されない。自由気ままに生きれる。これ以上に最高な状態はどこ探しても、無いものだろう。俺だけかも知れないが一人も楽しかった。

いろいろとしているうちに時間は進んでいた。なぜか、部屋にかけている時計が早く進んだように思えた。外はすでに、オレンジ色に染まっていた。まぁ、仕方ない。俺が起きたのが、十七時ぐらいだったから仕方ないか。
お腹すいた。何か食べたい。やっと、どこに行くか決めた。俺は靴を履き、近くのコンビニで飯を買って家に帰ろうとしていた途中、ナイフを持った男に脇腹を刺された。男は、正気を失っているような感じに、狂ったように、ナイフを振り回していた。それが、まさか自分の脇腹に刺さるとは思っていなかった自分が恥ずかしい。
ジンジンする、脇腹を抑えながら家へと帰宅した。痛い、寒い、痛い、寒い。これの繰り返しだった。
男は明日、世界が終わる前に人を刺してみたかったのだろうか。それとも、通り魔なのか。そんな事は、もうどうでも良い。終わればみんな一緒。一緒に消えるだけ。そしたら、怖いものなんて無い。みんな一斉に死ぬんだ。心強いじゃないか。コンビニで買った、ざるそばをすすりながらテレビをつけていた。見ているわけではない。どのチャンネルにしても明日の話で持ちきりなら、一刻と近づく終わりにみんなが意識をし始めた。

そして、俺は何事もなく、血が滲むシャツを着たまんまその日は寝た。
夢はみない。いつと通りに起きる。とは言えなかった。体が動かない。やはり、脇腹を刺されたのをほったらかしにしていたのが祟ったのだろう。でも、もういい。痛みもほぼないし、俺の脇腹を刺した犯人なんか、あの世だ探せば良い。カーテンも閉めてない窓からは流星のように隕石がボンボン降っていた。見惚れてしまっていた。俺ももう、景色に見惚れる年になってしまったのか。あぁ、それにテレビもつけっぱなしだったのか。
もう、テレビを消すことすら出来ない。目を開けているだけで精一杯だった。うっすりと開けた瞼からテレビを観た。

目の前にある大きなテレビには、女性が一人立っていた。
『皆さん、終末を迎えることになりました。この番組が今日まで続いたのも、皆さまのおかげです。今までありがとうございました。そして、さようなら』
笑顔で映るキャスターは今日も綺麗だった。

明日、世界が終わるとしたら

明日、世界が終わるとしたら

短編の思うままに書いたものです。 明日、世界が終わるとしたら何をしますか? この、質問に答えはありません。 自分が今まで生きてきた事、それは全て必然的なものではないと思います。 いろいろな偶然から生まれた私たち。 歩んできた道のりを振り返ってもらえたら幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-02

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