おとしもの
役立たず
午後11時30分。街灯の少ない細い路地。
早く家に帰って寝たい。
そう思いながらいつもと同じように、地団駄を踏むように歩いていた。
―あなたってこんなに役立たずだったかしら―
いつまでも脳内で響く声。
今日の失敗は何が原因だったのかと自問自答を繰り返しながら自宅に着いた。
開かない。というより鍵が上手く入らない。いつものことだと思いながらも
上手くいく方法を考えるでもなく、溜息をつきながら手首を動かす。
これだから古いアパートは嫌なんだよな。
かといって引っ越すお金や時間、労力があるわけでもない。
気持ちがいっそう暗くなり始めたが、やっと家に入ることができた。
玄関には派手な靴が散らかっているが今は到底並べ直す気など起こらない。
明日の予定を確認しながらベッドに倒れこんだ。
5畳ほどの部屋がいつもより窮屈に感じられた。
窓際に置いてある白い本棚の1番手前にある学生時代に買った、
「うまくいく人の生活」なんてものを久しぶりに手にとってみたが
どこかで聞いた説教のような言葉が並べられていてうんざりした。
うまくいっている人は悩みや不安がないからこう無神経なことばかり言えるのではないかと
根拠のない考えをいつのまにか口に出していた。
本棚に戻すと傾きが小さかったのか床に転がり落ちてしまった。
何となく私を睨みつけているような気がしたがほうっておくことにした。
学生時代思い描いていた生活とはほど遠い環境の中で
世の中はそんなに甘くないということを知りすぎた。
明日もがんばろうという気がおきないのは自分が弱いからなのだろうか。
といいつつ、部屋に入った途端明日の予定を念入りに確認したことを思い出し笑ってしまった。
そして眠りについた。
鍵が中々開かなかったことなど忘れてしまっていた。
おとしもの