暴君の生誕

スマホゲーム「モンスターストライク」の二次創作物です。

【むかしむかしの そのまたむかし】

【とあるおうこくに ひとりの おうじさまと】

【ひとりの おひめさまが いました】

【ふたりは とてもとても なかよしでした…】


「ーーーおい、何書いてやがる」
蝶が舞い花が咲く、緑溢れる城の庭園の中で、王子ネロはそれに覗き込むようにして言った。
「ね、ネロっ!これは、その、なんというか」
落ち着いたネロとは対照的に、その美しい巻き髪を揺らして取り乱すは、幼きマリー・アントワネット。
「だからなんだってんだ、絵本か?」
「ち、ちがうわよっ、出来たら見せるから、今はまだ我慢してて」
「ま、ガキの絵本なんざ興味ねーがな…」
「あ、またそんな事言って!」
「待て、離れろ、教育係のババァが探してる」
そう言うと、ネロはささっ、と近くの茂みに隠れた。
「マリー様!何をしておられるのですか、座学の時間はとっくに過ぎておりますよ」
「ごめんなさい…」
「全く、まさかまたあの『悪魔の子』と一緒にいたんじゃないでしょうね」
「ね、ネロの事、そんな風に言わないでっ!」
「やっぱりそうでしたのね、マリー様はあれとは違って皆から期待されてるんですから、一緒にいたりなんかしたら悪魔がうつりますよ、さっ、早く」
「うっ…うぅ……」
「唸ってないで、さっさと行きますよ、ほら」

「……行ったか」
2人が城内に入るのを確認し、ネロは茂みから出た。
先程の会話の通り、ネロはこの城内では忌み嫌われる存在にある。大半は父のせいであるが、ネロ自身もまた「悪魔のイメージ」を払拭しようとしないので、結局ほの全員の意識に、粗暴で乱雑で暴力的な、ネロという人間が生まれてしまったのである。
まぁネロとしては、期待されないが為に色々と動きやすいしマリーのように勉強などしなくていいので、この立ち位置は割と気に入っているのだが。
それとは逆に、マリーは皆から期待され、次の国王はネロでなくマリーでよいのではないか、という考えの、いわば革新派が力を強め、今やネロが王を継ぐ事を是とする保守派に匹敵するほどの勢力となった。
しかし、革新派も保守派もその本心は、マリーやネロを『幼き国王』として国の代表に立たせ、それを補佐する事によって自らの手でこの国を動かす、という汚い野望からである。無論、それがバレてしまっては元も子もないので、口にする者は誰もいないが。
大方、双方子供だからとネロ達の事を舐めてかかっているのだろうが、ネロもマリーもとっくに気づいている事を、彼らは知らない。2人とも、幼い頃から身内や人の目を盗んで会っていたりしているせいか、それなりに聡いのである。
隠れて会っているのは今も変わらないのだが。
「俺は王にはならねぇ」
人知れず、ネロは呟いた。
マリーの方が民衆の支持も厚いし、あいつの方が自分なんかより王の器だ。あいつの為なら、汚れ役など喜んで引き受けよう…というのが、ネロの考えだ。
だが数年後、物語は大きく変わる事となる。

『マリー・アントワネットを出せ!!』
『王家の恥晒しを処刑しろ!』
『処刑!!処刑!!処刑!!処刑!!』
今日もまた、城門の前で民衆の怒声が響き渡る。どそれら民衆は、どれもマリーの諸行に堪忍袋の尾を切らせてデモに来た者たちだ。
うざってぇ…と、城の一室で椅子に座るネロは思った。昔はあれだけ『至上最も可憐な姫』だのなんだの嘯いていた癖に、酷い手のひら返しもあったもんだ。
だがそれも仕方ないのかもしれない。
「おい、何を企んでやがる」
民衆の方を見て紅茶をすすり、ネロは言った。
「何も企んでなんかないわよ」
答えるは、今や立派な女性となり、薔薇の装飾が施された豪奢なドレスを着るマリー。こちらも椅子に腰掛け、右の手で紅茶のカップを弄んでいる。
「なぁ、そろそろ白状してもいいんじゃないか」
振り返るネロ。
「だから何もないの、心配しなくていいわよ」
「だから、お前がここまでして何もねぇ訳がねぇだろ」
「ここまでって」
「とぼけんじゃねぇ、ここまでこの国の金を使って、って事だ」
「私は私の欲望の為に金を使ってるだけよ」
「っせーな、どうせお前の事だから何か別の事に使ってるんだろうが」
「別のこと?」
「別のことだ、財政の紙っぺらなんざいくらでも捏造できるからな。何か俺に言えねえ事でもしてんのか」
「……ふふ、よかった」
「んだよ」
「やっぱり貴方は、何も分かってない。今の事も、私のことも、そして貴方自身のことも」
「…嬉しそうに言うことかよ」
「分かってない方が、いいのよ」
そう言い、マリーは椅子を立ち、
「じゃあ、またね」
微笑み、そう、微笑んで、マリーは部屋を後にしようとした。
その微笑みは、最近見るあの高慢ちきな、人を見下したような笑みでなく、まるで幼年時代に戻ったかのような、そんな笑みだった。
儚く、そして消えてしまいそうな、笑みだった。
「おい待てよ、まだ話は終わってねぇぞ」
「そう?話は終わってなくても、もう終わりね」
「どういう意味だ」
「…そろそろかしら」
「………ッ!?」
すると突然、何の前触れもなく、急な立ちくらみがネロを襲った。自分の意思とは反し、ガクンと膝が折れ、床に這いつくばりそうになる。
まさか、とネロは思い、倒れそうになる身体を必死に支え、マリーの掌に収まっている植物を見た。それは確か、口にすると数日は眠りにつく毒草で、
「ごめんなさいね」
ある茶葉と合わせると、効果が倍増するものだった。
「て、め…ぇ……!!」
「こうするしか無かったの。そうじゃないとあなたならもうすぐ気づいちゃうでしょうから」
「くっ…マ、リー……」
「これでお別れね、ネロ」
薄れていく意識の中、ネロが最後に見たものは、
「………ごめんね、ネロ、ありがとう。」
自分の守りたかった女性の涙と。
「……………」
無音の、唇の動きだけだった。

その空間は広く、壁には煌びやかな装飾が施され、天井からは豪奢なシャンデリアが吊るされていた。
そんな空間の真ん中に、大きな天蓋付きベッドが一つ。そのサイズとは裏腹に、高価な生地で繕われたカーテンの紋様は、細かく美しい。
「………ぅ……」
そんな、見慣れた自分の寝室で、ネロは覚醒した。
頭が痛い。自分はどれだけ意識を失っていたのだろうか。外はどうなっている。マリーは何処へ行った。
いてもたってもいられず、ネロは部屋を飛び出した。
城内を走っていると、恐らく起きたのが久方ぶりなのだろう、人々からの奇異の視線が刺さる。
新聞を運んでいた使用人を脇目で見ると、どうやら自分がマリーに睡眠草を盛られてから、数週間も経過しているらしい。
数人の使用人はネロの事を呼び止めようとしたが、ネロはそれらを振り切り城の外へと急いだ。
何か嫌な予感がする。
城外へと出て人々の雑踏の中に乗り込むと、比較的耳の良い方であるネロには様々な噂話が断片的に聞こえてきた。
「ーーーが、処ーー」
「やっとこれでーーー」
「新国王にーー」
…急げ。
そう心の中で呟き、ネロは更に足を早めた。

息も切れ切れに、ネロは走って、走って、走って、そして着いた。断頭台の置かれた、公開処刑場に。
その輝くギロチンに敷かれようとしていたのは。
「マリー!!!!」
首を固定するための窪みにしっかりと身動きが出来ないよう拘束されたマリーは、全てを覚悟したような顔をしていたが、ネロがそう叫ぶとハッとし、ネロの方を見やった。
そして一瞬、ほんの一瞬、顔が強張り、目が潤んだ。
マリーも耐えきれないような苦悶の表情をし、何かを叫ぼうとしたが、執行人の言葉がマリーを遮る。
「ーーそれでは、縄を」
処刑人の持つ斧が振り上げられた。
それと同時に、今にも泣きそうだったマリーの表情が一変、引き結ばれていた口角はだんだんと緩んでいき、しだいに柔らかな微笑が顔に広がっていく。

「 」

マリーは何かを囁いた。
勿論その声はネロには届かない。が、その艶やかな唇の動きだけでネロには分かった。分かってしまった。
振り下ろされた斧によって縄が切られ、支えを失った死の象徴は、マリーの首めがけて自由落下する。
そして、紅い血泉と共に、民衆は湧いた。ただ一人、空虚な目をしたネロだけが、その場に膝をついた。
何も見えない。何も言えない。
どこへ向けるべきか判らないものが空回りする。
自分の心臓が急に消えた気もした。

ふらふらと、おぼつかない足取りでネロは戻る。
城に帰るとネロは、慌てふためく使用人達に「一人にしてくれ」とだけ言い、城の庭園へと赴いた。
そこには、とある男女しか知らない抜け道があった。
その抜け道は自然で出来た道であり、暗い樹々のトンネルを抜けると、そこには木の根や木の枝で覆われた、少し開けた、上から気持ちのいい木漏れ日が差す、今までの鬱蒼とした雰囲気がまるで嘘のような空間があった。
そしてそこは、2人だけの秘密の場所だった。
2人しか知らない場所だった。

だからこそ、倒木の上に置かれていた、一つの手紙と一冊の古びた絵本の主など考える必要も無い。

『ネロへ』

その手紙には、短くこう綴られていた。

『ごめんね、愛してる』

まるで決壊したダムのように、とめどなく透明な粒がネロの瞳から零れ落ち、それはしばらく止まることはなかった。消えた心臓が虚無感と後悔で満たされる。

こうして、暴君ネロは生まれた。




むかしむかしの そのまたむかし

とあるおうこくに ひとりの おうじさまと

ひとりの おひめさまが いました

ふたりは とてもとても なかよしでした

おしろで ふたりは いつも いっしょでした



しかし すうねんご おひめさまは かわります

なんと くにの おかねを つかいきるほどの

とんでもない ぜいたくを たのしんでいたのです

もちろん こくみんは おこりました

「いますぐ ぜいたくを やめるんだ」

しかし おひめさまは やめません

そこで こくみんは かくめいを おこしました

その かくめいで おひめさまは つかまりました

そして おひめさまは しょけいされてしまいます

かくめいでばらばらになったくにを まとめたのは

あの おうじさまでした やさしいおうじさまは

くにをまとめ たみをすくい とちをうるおし

ひとびとにすかれる おうさまとなりました

おうさまは そのごも たみにすかれる

よき やさしき おうとなったのです

めでたし めでたし

暴君の生誕

どうも管理人です。「暴君の生誕」どうでしたか?今回はモンスト学園とは全く関係の無い、いわばパラレルワールドのような世界、時系列での話となります。ネロとマリーの馴れ初めのような話ですね。この作品のテーマは「守りたかった人に守られた」といったところでしょうか。そしてネロとマリーが望んだ通り、良き国王となるのではなく、民から畏怖される暴君となる。切ないですね。2人の交錯する思いがしっかりと表現できていれば良いのですが。

ゲーム内においても、マリーさんには助けられてます。

暴君の生誕

モンスト学園とは関係無い、とある王国での、一組の男女の物語。思いは交錯し、すれ違い、期待通りには行かない。バッドエンドしかない、絶望の一節。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-01

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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