ゼダーソルン 光! 光! 光!

ゼダーソルン 光! 光! 光!

 ここからは冒険ファンタジーな要素満載のストーリー展開に変わっていきます。

光! 光! 光!

光! 光! 光!

 プクンとして赤ちゃんっぽい、ラウィンの手にさらなる弾力を加えたような。
 そんなトゥシェルハーテの両手にきゅっと力がこもったのは、いつの間にか緑に染まった景色に驚いたぼくが、つい体をひねっちまったからだ。別にここから逃げようとしたんじゃない。だってそうだろ、あるのは緑色だけなんだから、どこにも逃げようがないじゃないか。
「この世の、真の姿にのみこまれた?」
 静かだ。音もにおいも、体に感じるものがなにひとつない。それなのに。ヘンだな、ざわめきを感じるなんて。
「だまって。なにも考えずに、トゥシェルハーテからはなれようとしないで」
 トゥシェルハーテがなにを言ったかはっきりとは聞きとれなかった。でもその言葉に耳をかたむけているうちに、すべては終わってしまってたんだ。
 いや、本当は。まわりが緑に染まったあたりから、いまこの瞬間までが、じつはとてもみじかい一瞬の出来事だったのかもしれなかった。ゆっくりと一呼吸してもう一度話しかけようとしたときには、すぐ目の前に、トゥシェルハーテの緋色のヘッドドレスがくっきりと見えていて、さっきの緑色の闇は跡形もなく消えてしまってたんだから。
「さっきのは夢? でも、キミとこうして手をつないでるってことは」
 本当は手首を思いっきりひっつかまれて、痛いくらいなんだけど。
「夢なんかじゃないわ。あなたとトゥシェルハーテは無事世界をわたることができたのよ。ハルバラからビゼへ。アープナイムからトゥシェルハーテがくらすこの星へ」
 なんだろう。
 頭に靄がかかったみたいにぼんやりとして、彼女がいった言葉の意味がわからない。けど見わたせば、目に映るのは、うす黄色っぽい色をした空と、まぶしい光に包まれたまっ白な円形の野外ステージ。そのまん中にぽつんと立ちつくすぼくらが、さっきの科学館にいるなんてはずがない。それに肌触りがちがうんだ。外気が暑いくらいにあったかで、どことなく粉っぽい、知らない変わったにおいがする。ときおり体を通りすぎてく、これは風? にしては勢いが強すぎるようなんだけど。
「こんなにうまくいくなんて、がんばってみて本当によかった。でも本題はここからね。そこで待ってて」
 ステージとその両側にある建造物は、光を反射しやすい材質でできてるんだろう。表面のところどころがピカピカ光ってぼくの目をくらませる。それは、前方へむかって駆けだしたトゥシェルハーテについてくまっ黒な影でさえ、かき消してしまうんじゃないかと思うくらいにまぶしくて。
「そっか、『光源』がちがうんだ」
「なにか言ったぁーっ?」
 トゥシェルハーテは。ああ、ステージを囲う観覧席の手前、柱に似た小さな台座が立つあたりで立ち止まってる。
「いつもの、空全体がぼうっと光るアープナイムの空とはちがうって言ったんだ。空にひとつだけあるまっ白な光点。きっとあれのせいで影がこんなにくっきりしてて黒いんだ。異文化博覧会にいったときに映像でこんな空を見たことあるよ。太陽っていう、燃える天体が近くにあるとこうなるって聞いた」
 体のあちこちに手のひらをかざしてみると、そのたびに手のひら型のまっ黒な影ができる。
 ふふっ、なんだかおもしろいな。
「けど、どうしてそうなってんだ? あっ」
 とつぜんくるんと身をひるがえしたトゥシェルハーテが小走りにぼくに駆けよってくる。結局なにしにいってたんだか。
「むこうになにがあったの?」
「モニターがあるの」
「なんのための?」
「この施設に取りつけられたセキュリティシステム、そのカメラに映った映像を見ることができるモニターよ。ここはとても古い祭事場だけど、公的な場面でつかうことが多かったから、設備がしっかりしているの。それから、えっと、あの階段から外の通路へでるわ」
 ふうん、祭事場か。
 言われてみればたしかに。あちこちに細かな細工が施されていてすごく豪華だし、ステージ外に見える屋根もずいぶん大きい。いかにも巨大施設らしいよな。
「公的って政ってことだよね。たとえばどんなこと?」
「最近だと即位式ね。元老院議員とよばれる大人たちによって、国家の最高権威者、法王になるべく選ばれただれかが、その座につくための儀式。五十年に一度あるかないかの一大イベントでもあるのよ」
「はあっ? そんなの聞いたことないぞ」
 まわりのようすに気をとられて歩みがのろいぼくにじれたんだろう、ぼくの手をひっつかんだトゥシェルハーテが、いかにも不機嫌ですってそぶりで小走りに走りだす。まだちょっと見て回りたい気もするけれど、ここは従うにこしたことはない。女の子はみんな自分の都合が一番に決まってんだから。やっ、けど、これはちょっとマズイ。
「ダメだっ、ストップ」
「なぁに?」
「まぶしすぎてまわりがよく見えないんだ。背の高さもちがいすぎるのに、手をつないだままじゃそこの階段を上がれない。ぼくの足がもつれるって」
「言われてみれば、それはそうね。はい、手を放したわ」
 うん、これで安心して階段を上がっていける。
 あれっ?
「まだ目が慣れないのかな」
「どうかして?」
「どうかって、それがさ、えっ」
 野外ステージなんだから、外の景色が見えるのが当たり前。だけど、階段上の踊り場から見えるこの景色は。
「街があんなに遠くに見えてっ、ってか、なんだって街全体を見下ろせてんだ?」
 それだけじゃない。目に見えるなにもかもが、まるで白い光の膜につつまれたみたいにまぶしくて。街の手前に横たわる金色の帯は、かすかにゆれてるみたいだし。
「だってここは祭事場の最上階なんだもの」
 それは、そうなのかもしれないけど。だっておかしいじゃないか。ついさっきまでぼくらは室内、そうだ、科学館の展示場にいたんじゃないか。なのに室外どころか、どっかの祭事場の最上階にいるだなんてありえない、ムチャクチャすぎる事態だろ。なんて、ぼくがパニクってるにもかかわらず、さっさと階段を下りていっちまうってのもどうなんだっての。
「いつまでもそこにいないで。早く下りてきて見てちょうだい」
 見るってなにを。そりゃ階段を下りた先は空中庭園風に造られてるから、見晴らしも特別にいいのかもしれないけどさ。
「ここから見る街はキレイでしょう?」
 はいはい、キレイすぎてビックリだ、けど。やっぱりゆれてる。ゆれる地面ってそれはないよな。
「あの、金色に光ってる帯はなに?」
「こっちの岸をぐるりと囲むため池よ。お水にこまることが多い土地だけど、この街には地下水をくみ上げるための施設があるから、こうして区域をふたつに分けることもできちゃうの。むこう岸にある繁華街や住宅街とはなれているけど、こっちは政を執り行う機関が集まっているだけだから。橋をわたる人もすくないし」
 『ちかすい』、水、ってことは液体なのか。それで上を通るための、大きくて頑丈そうな橋が数本かけられてるんだな。
「街の外はククニス砂丘が広がってるわ。でもところどころに大岩があって、ちょっとゴツゴツしているのよ」
 『さきゅう』に 『おおいわ』って。
 ああ、もう。
 ったく、さっきからなんなんだ。一体どうなっちまってる? これじゃ、まるで、ぼくが気づかないうちに、世界がいたずらしてその形をすっかり変えてしまったかのようじゃないか。こんなに明るくってキレイな景色なのに、うす気味悪いったら。
「あっ、もしかしてぜんぶに説明が必要だったかしら?」
 ものすごく。
「必要みたいだ。ただし、わかることもあるよ。ここ、ティンガラントとは別の街、なんだろう?」
 トゥシェルハーテから切りだしてきた。
「それは、もちろんそうよ」
 ぼくの質問にもうなずいた。だったらちがいない、トゥシェルハーテはこのヘンテコを説明できる。こうなったすべての理由(わけ)を知ってるんだ。よし、とりあえずは安心した。つぎはこの子がぼくに説明しやすいよう、うまく話を持っていく。ラウィンほどじゃないとしても、まだまだ話が脱線しやすい子どもなんだろうからさ。
「けど、どうしてこんな? あのとき緑色の闇の中を二人して漂ってたのまでは覚えてるのに、そこからあとがうやむやで。気がついたときにはここにいたからさ」
 そう言えば。
「そうだ、この世の真の姿、そのイメージ画とそっくりな、たくさんの膜や粒が見えてたんだ。あれは一体」
「――――法王様がご病気で死んでしまって」
 へっ? 
 あっ。いま、ちょっとだけ、トゥシェルハーテの顔がゆがんだ。
「それからずっとこの街にはいろんなことが。国家非常事態宣言がどうとかって、大人たちが騒いでいたくらいには、大変なことになってしまっているのだけど」
 こっかひじょ、
「事っ、宣言って! 待てっ、待ってよ。もしかしてっ、それってすごく大変なことなんじゃないのか。ってか、それ街がどうってレベルじゃないぞ!」
 まさか。
「急に居場所が変わった、このおかしな現象もそれのせい? って、アープナイム全域で起こったなんてんじゃっ?」
「えっ、ううんっ、ちがうわ。そうじゃなくって。あっ、それよりあっち、空を見て」
 空?
「こっちへくる。きっと政府専用のラグブーンだわ」
 トゥシェルハーテが指差すその先。遠くの空にうかぶ物体は飛空艇よりずっと大きい。飛行船クラスのような、けど、この機械音は聞き覚えがない。
「いかなくっちゃ。この通路をまっすぐ、エントランスへ走っていくわ」

ゼダーソルン 光! 光! 光!

 地球型の星です。
 アープナイムの環境とは、特に空気においては大幅にちがうのですが、キューンは微生物並みの多様な呼吸もできるので困ることがないのです。
 アープナイム・イムについては後々うんちくが入りますが、じつは結構なんでもありな設定となってます。
 お互い言語がちがうはずなのに交流できる謎は謎のままで。
 じつはトゥシェルハーテと他数人とだけ、同じ言葉で交流できるとすることも可能だったのですが、話の展開が複雑になることや字数の問題もあってやめました。

ゼダーソルン 光! 光! 光!

緑色の闇から一転。目に映るのは、まぶしい光の膜につつまれたかのような、光り輝く景色だった。こんな空を、街を、キューンは知らない。小学5年生~中学1年生までを対象年齢と想定して創った作品なので漢字が少なめ、セリフ多めです。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-01

Copyrighted
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