冬嫌いな俺と、ある寒い冬に出会った女の子

俺と最低気温日

「今日は今年、最低気温を記録しました」
アナウンサーは軽々しい口調で淡々と話す。ーーその頃俺は夕方起きてぼやけた視界でニュースを見ていた。眠いせいか最低気温という言葉が聞こえる。冬も本番ということか・・・。ーーと電源を入れたばかりのまだ冷たいこたつに潜りこんだ。

「ーーて」
?なにか聞こえる。まだ夢の中なのか?

「ーきて」
「おきて」
母さんの声だ。

「お遣い行ってきてくれない?」
全く、この寒い中俺が外に出るとでもーー?


不規則に降る雪は限りなく降り注ぎ、僕の視界を曇らせる。雪が靄のようで、歩くたびに鬱陶しく感じた。

「全く迷惑な季節だ」
吐く息は冬の寒さで白くーーまさにたなびく雲のようだ。

いつもは冬に家から出るのは学校だけなのだが、今回は親に頼まれて夕飯の買い物にしぶしぶ出ている。もちろん断ったのだが、親というものは仕事をしているだけで何でこうも偉そうなのか?そして、料理者だけが有する特権ーー強制命令(ごはん抜き)を使われてはしょうがない。

外に出るときはまぁ大変で、最強装備(防寒着)で出ても頭から足先までが、反射のように冷たくなる。それに加え少し眠い。といった危ない状態。

足早に歩く事、約20分。やっと親がよく行く最寄りのスーパーについた。最寄りといってもここは田舎なので自転車でも10分はかかってしまう。

自動ドアを通ると、店内を濡らさないためのマットが出迎えてくれた。店内を濡らすなという事だろう。そして入り口の近くにはレジがあり、そこにいる5、60代くらいのおばちゃんがじっとこちらを見て言った。

「あら、ハルちゃんお遣い?」
俺は薄氷春樹、ピッカピカの高校一年生だ。因みにこの明らかにうるさそうな感じの人は高尾さんーー母の知り会いだ。

「おばさん、久しぶり」
寒さで顔が凍ってて愛想笑いも一苦労だ。


今日は夕飯どきにも関わらず店内には賑わいがない。いるとしてもぱっと見2、3人くらい。まぁ無理もないだろう、外は今年最低気温の地獄と化してるのだから。

店内には暖房が入っているけど、長居しすぎるとこの温度に体が慣れて外に出る時の寒さに耐えきれないだろう。ここは早急に用事を済まそう。

会計を終わらせ、自動ドアを通ると大地が一面の銀世界だ。はぁーーとため息を吐くと急いで帰路を辿った。

急いで家に向かってると道中に怪しい雪だるまを見つけた。さっきまで無かったのに・・・。そう思って近づいてみると、まぁ下手なもので子供の手作り感が滲みでていた。そして歪な形で頭と体のバランスも乏しい。

子供の頃はこんな事してたなーー。

すると雪だるまからニュッと手が飛び出してきた。

俺はびっくりして夢中で足を走らせた。買い物袋は投げ捨てられ、多分食材はグチャグチャだろう。無理も無い、いきなりこんな事があれば、誰だって走って逃げだす。そんな言い訳を自分に言い聞かせながら必死に走った。運動をしてないせいかきつい。息も荒い。足は棒のようだ。でも、玄関に灯る明かりまでたどり着く事が出来た。

玄関のドアを開けると謎の罪悪感に胸が締め付けられそうになった。食材を買いに行ったのに手ぶらで帰って来る事が許されるだろうか?答えは否!それに俺のプライドが許さない。ならばやる事は一つーー。

俺と天然冬少女

歩き慣れた道。頭上には光輝く星の数々。道は月の光で照らされ、懐中電灯で照らさなくとも道を確認する事が出来るほど明るい。

でも、寒いのには変わり無い。夜の外気は春樹の体を少しずつ冷やしていった。

急いで目的地周辺に行くとあの不恰好な雪だるまは消えていた。

おかしいな。ここら辺に有った筈なのに・・・見回しても何処にもない。すると木陰からーー。

「あの、コレあなたのですか?」
と女の子が、手に持っているレジ袋を見せてくれた。

春樹はあまりに驚いたため、足を滑らせ尻餅をついてしまった。顔を上げるとその子の顔が月の光で見えて春樹の脳裏に焼きついた。

サラサラとした黒のショートヘアーにくりくりとした黒の瞳。白い肌に着ている白のワンピースは冬の雪を彷彿とさせるようだ。幼い顔質からして俺よりも年下な気がする。だけど一番気になるのはこんな真冬の地面に裸足で立っていること。

「大丈夫?」
少女は見下ろしながら聞いてきた。

「・・・うん、平気」
「てか、君こそ平気なの?雪の上を裸足とか自殺行為だよ?」

少女は意味を理解してないのか、頭にはてなマークを浮かべながら返す。
「もちろん平気だよ」
「なら、よかった・・・っておかしいでしょ。普通なら寒さで死んでもおかしくないよ?」

「・・・実は私、人間じゃないの」
「え、人間じゃない?なら、まさか・・・幽霊?」
春樹は引き気味に問う。

「違うよ。私は冬の精霊。この国に冬を届けに来たの」
「冬の精霊って見えていいものなの?」
「普通の人間には見えないはずなんだけどね」
「そうなんだ」

「ねぇ、あなたの名前はなんてゆうの?」
「春樹・・・薄氷春樹だよ」

「あなたにはいい名前があるのに私には無い・・・」
春樹は困った表情を浮かべる。

「あの、精霊なら名前はいらないんじゃないの?」
「そうですけど、あなたに君って呼ばれるよりは名前で呼ばれた方がいいです」
ムキになってるのか、少し気性が荒い気がする。

「名前が無いのに名前で呼ぶのは無理だよ」
「そんなの簡単じゃん」

少女は冬の寒さを吹き飛ばすほどの笑顔で言った。
「あなたが名前をつければいいんじゃない?」
「!?」
この子、大人しそうな顔してこんな事言うなんて。天然か?

もう会うことないだろうし、ここは曖昧な答えで逃げよう。

「分かった、考えてくるから。次会った時に話すよ」
「本当に?」
「ほ、本当だよ」
この笑顔が凄く辛い。

「なら、約束ね」
「分かった」
曖昧な答えを残し、レジ袋を持ってその場を後にした。

俺と約束

〜次の日〜

冬休み。それは最悪な冬の季節の救いとも言える連休だ。

朝目が覚めて時計を見ると10時だった。しかしまだ少し眠い。今日は一日中何もないし親も仕事でいない。
「って事で、こたつに入ってお休みーー」

ゴンゴン

「・・・」

ゴンゴンッ


窓を叩くような音がする。風か?いや、風にしては音が大きい気がする。

「うるさいなぁ」
窓をみると見覚えのある黒い瞳がこちらを覗く。

「きたのか」
窓を開けてみると、ビューっと強い風が吹いた。

「来ちゃった」
冬の印象に似つかわしく無い笑顔は寒さを紛らわせるほど温かい。

まさかくるとは想像も付かない春樹は疑問を投げかけた。

「なんで俺の家知ってるの?」
「だって春樹が約束破りそうだったらから」
俺ってこんなに信用無いのか。

「春樹の家までつけてたの」
「そ、そうか」
ストーカーって奴か。

「で、早く外に出てきて」

こんな寒い日に朝から外に出るなんて自殺行為だ。しかし、せっかく来たんだから逃げたら可哀想だろう。

春樹は本当は嫌だが、しぶしぶ付いて行くことにした。

昨日に負けず劣らずの寒さは、まだ慣れなくて常に俺は身を震わせる。

「で、名前考えて来た?」
にこやかに聞いてくる。

「も、もちろん」
もちろん考えてない。

どうすっかな?ーーと考えていると、たまたまそこに花が咲いているのが目に付いた。
これだーー。

「冬花・・・ってどうかな?」
まぁ適当だ。

「いい名前だね」
「え、本当?」
「なら、私の事は今度から冬花ってよんでね」
「え、あ・・・うん」
自分で付けた名前とはいえ、女の子の名前を呼ぶなんて。嬉しいけど恥ずかしい。

「なら、ふゆ・・か」
「なぁに?」
笑顔が可愛過ぎて辛い。俺死ぬのかーー?寒さを忘れて顔に火がつくほど恥ずかしい。それに耳まで真っ赤だ。

そういえば冬花に気を取られて本題を聞くの忘れてた。

「何で今日呼んだの?」

冬花は堂々と話した。

「雪遊びってのをしてみたい!」
「雪遊びか・・・」
イメージと違って結構わんぱくだな。もっと大人しい子だと思ってた。

「雪合戦ってのをしてみたいの」
「雪合戦かぁ。ルールわかってる?」
「もちろん。雪が降る中でやる軍隊同士の大規模な戦闘のことでしょ?」
「ごめん。俺の知ってる雪合戦と違う」

自分が知って知識と違ってすこし混乱してるようだ。

「雪合戦は雪の玉を相手に投げつけて遊ぶ遊びだよ」
「なんだ迫力ないね」
冬花は白けた感じで話を聞く。

「第一、銃なんか使ったら俺の体、蜂の巣だよ」

春樹は思い出したように聞く。
「あ、でも、やるなら夕方か夜にしない?」
「なんで?」
「冬花って人には見えないんだよね?」
「そうだけど」
「・・・下手すれば俺、不審者として警察に逮捕されるかもしれないから」
冬花は他人事と思っているのか『だねぇ』って言って笑った。俺としては笑い事では無いが・・・。

「なら、また夜に来るよ」
「・・・うん」

ドアを開けると天国だ。こたつはあるし、ミカンもあるもう動けないや。いつもならここで寝るんだが、今日は何故かそんな気分じゃ無い。冬花と遊ぶのを楽しみにしている自分がいる。眠くないしテレビでも見ながらゴロゴロするか。

あれ?いつの間に寝てたんだ。気がつくとこたつのテーブルの上に伏せて寝ていた。慌てて時計をみるともう夜の9時だ。

「やべっ」
慌てて起きて、急いで玄関に向かった。もう親がカレーを作り終えてて、その匂いの誘惑に負けそうになったが構わず駆けた。

「ハル、ご飯は?」
「ごめん今急いでるから」

親を尻目に春樹は一目散に駆けていった

俺と雪合戦

昨日と同じ夜の道。月明かりに照らされる道のりを一目散に駆ける。春樹の頭の中は冬花の事でいっぱいになっていた。

あれから何分経っただろう。目的地にやっとの思いでついた。春樹は整わない息のまま冬花を探す。

グシャ

何かが僕の後頭部に当たる。冷たい。ふと後ろを振り向くと冬花が手に沢山の雪だるまを持ち、大きく振りかぶったモーションをしていた。

「ふゆーー」
雪玉が春樹の顔全体を覆う。

「おいおい、それはセコいんじゃないか?」
「遅れてきた分際で何を言う」
「ごめんって」

引け目を感じながらも、勝負となれば別の事。春樹はすぐさましゃがみこみ雪玉を作り始めた。

冬花はそれを阻止するように持ち玉を精一杯の力で投げた。

雪の精霊といえ力は女の子、なので力では俺には勝てないだろう。と思いながらも難なく雪玉かわし、雪玉のストックを増やしていく。

寒い筈の外の空気はいつの間にかあまり感じなくなって来た。

「それっ」

冬花に向け雪玉を投げた。もちろん少し手加減をしている。

べしゃっと冬花の体に雪玉が当たる。冬花も負けじと雪玉を投げた。

いつぶりだろう、こんなに遊んだのは・・・。小学校以来、雪なんて邪魔なものだとしか認識していなかった。

「楽しいね」

冬花は楽しそうに言った。

「ガキか」

なんて言う俺も楽しいと感じている。今まで俺は何で冬を拒んでたんだ。なんてしみじみしていると、またもや顔に雪玉をぶつけられた。

こんな楽しい日々が続けばいいな。そう思いながら残った時間を有意義に過ごした。

俺としょっぱいカレー

その日事件は起きた。

11時くらいだろうか。俺は雪合戦を終えて家に戻ろうとしている時の事。

母さん怒ってるだろうな。

言い訳を考えながら、残ってる道のりを出来るだけ早めに走る。顔の所々に雪の粒が当たって耳まで真っ赤になる程、冬の『寒さ』というものを肌で感じた。



家の玄関の前に着くと、もちろんリビングの明かりがついていてRPGのラスボス前みたいな緊張感が体全体に走った。

重く感じるドアを開き、家の中に入る。

そこには母さんの姿。顔を見ると怒っているような表情だった。


「ごめんなさい」

「なんでいきなり出て行ったのよ!」

「・・・だって」


言葉の圧に負け、反射的に声が縮こまる。

それからも母さんの説教は続き、春樹の腹の虫が鳴ったのを皮切りに終了のゴングが近くなった。


「お腹減ってるの?」

「うん、そうみたい」

「カレー残ってるわよ、早く上がりなさい。風邪ひくわよ?」


その言葉を受け泣きそうになったがグッと我慢した。

こたつに入り、カレーを待つ。わりかし早く準備してくれて、テーブルの上には美味しそうな香りを漂わせたカレーが置かれた。

スプーンですくい、ご飯と一緒に口に運ぶ。食べた瞬間、何故かカレーに透明な水玉が落ちた。

視界がぼやけ、鼻をすすった。これは涙だ。


「何泣いてんの」


親からの心配を受け、溜めていた涙は止めどなく流れる。

そして、その日食べたカレーはいつもよりしょっぱかった。

俺と雪だるま 前編

「ごめんね、もう行かなきゃ」

「まってよ。まだぜんぜん遊んでないじゃん」

「もう十分遊んだよ。君といる時間はとても楽しかった」

「まって、いかないで!!」


「まってぇぇぇぇぇ!!」


全身汗だくになりながら夢中で手を伸ばした。時計を見ると朝の9時。春樹はふぅーっと長いため息を吐いて重たい頭を抱えた。


「夢か。驚かせんなよ」



「どうしたのボーっとして」



冬花は僕の目の前でしゃがみこみ頬杖をつく。「あら可愛い」って思いながらも表情は平常を装った。


「考えごと」

「ふーん」


冬花は面白く無さそうな顔をしたと思えば、直ぐに悪そうな顔をした。


「あ、まさか私のことを考えてたんでしょう」

「なっそんなわけないだろ」

「またまたぁ。顔赤らめちゃって」


冬花の茶化しで寒さで赤い耳がさらに赤くなる。


「で、今日はなにすんだ?」

「うーん、どうしようか。雪だるまでも作る?」

「まぁ、雪合戦の次はそうだよね」

「でも、雪だるまを一緒に作っても面白くないから勝負しよ!」

「いいぜ!」


春樹はいつの間にか小さい頃の自分に戻っていた。

時を忘れてひたすら遊んだあの日々。今では覚えてないけど歓楽的な思い出は脳裏に焼きついていた。


今日は夜の9時に着くように家を出る。親に「何しに行くの」と聞かれたが「友達と約束してる」と嘘をついた。少し感じた罪悪感はドアを開けると既に無くなっていた。



いつもの場所に着くと冬花を発見した。いつ見ても服の違和感が半端ない。こんな真冬にワンピースとか知らない人が見たら「死ぬの?」って思うだろう。

そんな冬花は遅れた俺に投げる用の雪玉をせっせと作っていた。


「よう」

「今日は間に合ったね」

「流石にな。約束を破るのはダメだと思っている」

「どの口がいう」


冬花は胡散臭い通販番組を見るような目で春樹の頬っぺたを摘んだ。


「ごめんって」

「なら、雪だるま作ろっか」

「オッケー、たしか勝負するんだっけ ?」

「うまくできた方の勝ちね」


そうして戦いの火蓋は切られた。

最初は小さい雪玉をコロコロ転がして地面の雪を衣をつけるように付着させていく。

冬花の方を見ると雪だるまの作り方を知らないのか、森に入っていく。

「何してんだろ」って思いながらも作業の手を止めなかった。

胴体を作り終え、頭を作り終えそうな頃に気になって森に目をやったけど冬花の姿は見えない。


「本当に何してんだあいつ」



「よし、どっちがすごいか決めようか」

「いいよ!」

森から帰ってきたばかりの冬花は自信満々に返事をした。

「やけに自信がありそうだな」

「私の作品は胸を張れるくらい凄いんだから!」

「え、お前胸無いじゃん」


春樹は冬花の貧相な胸を見て嫌味ににやけた顔で茶化しを入れた。


「ムカっ。今、地雷を踏んだね?私、君を一瞬で凍らせることくらいデキルンダカラネ?」

「嘘です。すみません」

「冗談はさて置き始めようか。まずは俺のからな」

冬嫌いな俺と、ある寒い冬に出会った女の子

冬嫌いな俺と、ある寒い冬に出会った女の子

冬の田舎を舞台に、冬嫌いな男の子と最低気温の日に出会った女の子の感動ストーリーを作りました。感動するかは貴方次第です。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-31

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 俺と最低気温日
  2. 俺と天然冬少女
  3. 俺と約束
  4. 俺と雪合戦
  5. 俺としょっぱいカレー
  6. 俺と雪だるま 前編