隣の理系男子。

出会いのはなし

中学2年生、って中途半端な時期だ。


先生曰く「 中だるみしやすい時期 」。先生の言葉はうさん臭くてあんまり好きではないんだけど、この言葉にはすごく共感した。

もうぴかぴかの1年生ではすでにないし、かといって最高学年になるような貫禄もない。
いや、今の3年生を見ていたら、歴史ドラマのお殿様たちのような堂々とした貫禄があるようにも思えないのだけど、それでもやはり3年生ってなんか違うのだ。

男子が端っこで集まってこそこそ話してるのってどこの学年塔でも見受けられることだと思うけど、やっぱり3年生の集まりと、うちの男子の集まりは全然違う。3年生はなんだか、おちゃらけた雰囲気なのだけど、そのなかで締まりがちゃんとある気がする。
その証拠に、3年生のいる学年塔はいつもしんと静まり返っている。今だって、そう。
窓の外から見える学年塔の窓に向こう側に、動きは一切ない。たくさんの机に向かうシルエットが映っているだけだ。

きっと、休み時間やお昼休みも過去問やドリルなどに勤しんでいるんだろうな、と思う。受験生だから。
そして、わたしたちにも来年にはそうならなければならないのか、と思うと、ちょっとだけ胃が痛くなる。

それに比べて、うちの締まりがないったらすごくない。
未だに、休み時間には泥まみれか砂まみれになりながらサッカーしてるし、水道の水の掛け合いとかしてるし、中庭で転げまわりながら遊んだりしてるし。


ガキだなあ、なんて思ってるのは、きっとわたしだけじゃないはずだ。きっと。

まあ、女子だってもちろんそんなことを偉そうに言える立場ではないのだけれど。



「 んでー、杏子はどう思うのー? 」

りこがわたしに話題を振ってきた。はっと我に返る。
しまった、何の話をしてたか全くと言っていいほど聞いてなかった。

「 杏子、聞いてた?セシルの新作の話してたんだけど 」

りこの声があからさまにとげとげしくなる。
高い声がはっきりと鋭くなり、彼女の少し狭めのおでこにある形のいい眉がくっきりとひそめられた。
マスカラで縁どられていて大きいけれど釣り目がちで、一重まぶたの目が余計につりあがって見える。
長い栗色の髪の毛先を、くるくるくると回し続けている。これはいらだっている証拠だ。最近、この子と話していてわかったこと。

見え方によっては勝気で強そうにも見えるけど、わたしにはやっぱり、この子は意地悪な子だと思えてしまう。
女王様気質で、いつもファッションやアイドルの話ばかりしているこの子は、実はあまり得意ではなかったりするのだ。
って、そんなことを考えているわけではなくて。

やばい、と鈍感だとよく言われるわたしにもはっきりとわかる。
「 杏子には危機感がなさすぎるんだよ 」って仲間たちから忠告をよく受けてしまう、このわたしにも。

『 セシルの新作ワンピについてだよ 』

隣にいた夕が、ほんの小さな声で教えてくれた。りこには聞こえない程度の、ほんのささやき声で。

夕はしっかり者で、聞き上手だ。
りこの退屈な長いファッションの話や雑貨の話、それからアイドルや新しい店の話も長々と聞ける集中力がある。
そして、ここぞといういいタイミングでしっかりと相槌を打てるのは、一種の才能だと思う。

それに、前下がりでぱっつんのボブがとても似合う。ほんの少しだけたれ目で、大きくはないけれどくっきりとした二重の彼女は、正直外見ばかり気を使っているりこよりもかわいいとさえ思ってしまう。最近夏服になったばかりのセーラー服も、きちんと着こなせている。
りこみたいに、スカートを折ったりリボンを色こそ同じだけれど、ほんの少し大きくておしゃれなものになんて、していない。


「 ああ、セシルの新作はかわいいよね。ミントグリーンでフリルがついてるやつでしょ? 」

頭の中に浮かんだ、セシルのワンピースのデザインの中から、りこが1番好きそうなものを選ぶ。
どうやらわたしの見立てはきちんと当たりだったようで、りこの表情が一気に明るくなっていく。

「そうそうそう!!!!もぉ、ちゃんと聞いててよねー杏子! 」

夕にこっそり目線で、『ありがとう』と伝えると、夕は『 今度から気をつけなよね 』と少しだけ笑ってくれた。

 隣の理系男子。

 隣の理系男子。

隣の理系男子を好きになった女の子のはなし。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-31

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