笑いは銀河系を救う「お笑いバトル」(4)

四 兄弟コント 北斗七星ブラザース

 次に登場したのは、ギターやベースなど楽器を持った七人組だった。ただし、一人だけ、楽器じゃなく、ノコギリを抱えていた。

「はい、みなさん、お待ちかねの、北斗七星ブラザースです」
「アチャー。アチャ、アチャ、アチャ、アチャ」
「お前たちは、既に笑っている」
「こら。お客さんに、お前とは、失礼な」
「ほんま、こいつら失礼や。折角、笑わせようとしているのに、くすりともせえへん。くすぐってやろうかいな。それとも、笑い薬まいたろか」
「お客さんをくすぐってどないするんや。それに、薬はいかん。笑い薬は、銀河系では禁止されとんのや。危険ドラッグや。笑取に捕まってしまうで」
「しょうとり、って、鳥が笑うんかいな」
「字が違うがな。笑う鳥やのうて、笑い薬取締官、略して,笑取や。どんなに、笑いのネタに困っても、薬に頼ったらあかんで」
「でも、客が笑わんさかいなあ」
「それは、お前のネタがつまらんからや。もっと、勉強せえ」
「そうかいな。体を張った笑いやと思うけど」
「体を張る意味が違うわ」
「自己紹介が遅れましや。私が長男の北斗一星です」みんなからはずれ、舞台の隅に移動する。
「俺が、次男の北斗二星です」ギターを鳴らす。
「三男の北斗三星です」ベースを鳴らす。
「四男の北斗四星です」ドラムを叩く。
「五男の北斗五星です」キーボードを弾く。
「六男の北斗六星です」トライアングルを鳴らす。
「末っ子の、北斗七星です」リコーダーを吹く。
「全員で、北斗七星ブラザーズです」
「たくさんの拍手、ありがとうございます」
「兄ちゃん。たくさんや言うても、お客さん、六人しかおらんで」
「六人やったら、お客さんよりも、舞台の上の俺たちの方が多いやないか」
「お客さん。よっぽど、暇なんやなあ」
「こら、失礼なこと言うたらあかん。みんな、行くとこないんや」
「あんたの方が失礼やで」
「ほな、拍手合戦したら、一人差で、僕たちの勝ちやな」
「お客さんと拍手合戦して、どないすんのや。それに、勝ったら何かええことあるんかいな」
「何でも、勝ったら嬉しいやろ」
「何や、それだけかいな」
「まあ、それはおいておいて。最近、アンドロメダ星雲が近づいてきてますなあ」
「もうすぐ、この銀河系とぶつかるそうですわ」
「もうすぐやて言うて、いつや」
「あと、百年先だそうです」
「だいぶ先やな」
「そんなことありまへんで。一年や言うたら、あっという間でっせ。十年だったら、あっ、あっ、や。百年やったら、あっ、あっ、あっ、や」
「単に、あっ、の回数を増やしとるだけやないか」
「ほんでも、ぶつかるんは間違いないで」
「ぶつかったら、どないなるん?」
「地球や銀河系はこなごなや」
「そりゃいかん。どないかせなあかんわ」
「どないしたらええん、兄ちゃん」
「アンドロメダ星雲を吹き飛ばすんや」
「どないして?」
「銀河系の全ての人が、アンドロメダ星雲に向かって、息を吐くんや」
「息を吐くときは、歯を磨いとったほうがええんかいな」
「嫌に、細かいな。そりゃあ、歯を磨いとったほうがええわな。相手に失礼やないわ」
「逆に、息が臭い方が、相手が逃げるんとちゃうか」
「あほ。相手はアンドロメダ星雲や。生き物やないで。息が臭いからといって、方向は変わらんわ」
「ほな、どないすんのん?」
「せやから、わしが説明しとるやろ。アンドロメダ星雲に向かって、息を吐くんや」
「せえのって?」
「そうや」
「ほな、どないなるん」
「銀河系に住んでいる人全員の息や。そりゃ、ごっついで。アンドロメダ星雲が吹っ飛ぶわ」
「そりゃすごいわ」
「そうやう。ええ考えやろ」
「ほんでも、息を合わすんは、なかなか難しいんとちゃうか」
「ほなけん、笑いや。われわれとお客さんが一緒になって笑えば、その笑い声が強風となって、アンドロメダ星雲を吹き飛ばすんや」
「そりゃ、おもろい。ええ考えや」
「みんなでやってみよ」
兄弟たちがあれこれと言い合っていると、おもむろに長男がのこぎりを持って、舞台の真ん中に立つ。
「あんちゃん、どうしたんや。今まで、漫才に参加せんとったくせに、急にのこぎりなんか持ってきて。それに、それ、のこぎりを宇宙共通語に翻訳しても、銀河系の人はわからんのとちゃうか」
「のこぎりはのこぎりやないか。こうやって、人を切るんや」
 長男が次男の胴を切ろうとする。
「あんちゃん、やめてえなあ。次男を切ったら、次男が二人になって、兄弟がもう一人増えて、ギャラの取り分が減るで」
 三男が慌てて、止めに入る。
「そうか。それなら、やめとこ」
 長男は次男の胴からのこぎりをはずす。
「ちょっと、待てえ。何や、ギャラのために、わしを切るんをやめるんか。可愛い、弟のことが心配やないんか」
 次男がいきり立つ。
「何を言よんや。心配しとるで。お前の取り分が増え、わしの取り分が減るんが心配なんや」
 長男が逆ギレする。
「意味が違うわ」
 次男は怒って、みんなから離れ、舞台の隅に行く。長男は、そんなこと気にしないで、舞台の中央に立つ。
「今まで、おまえらの話を聞いとって、わしが一言、感想を言おう」
 やおら、のこぎりから音を出す。
「キーキー、やかましい音やなあ」
「それ、楽器のつもりか」
「音で、言葉にしたんかいな」
「ほんだら、何て言うたんや」
「兄ちゃん、わからんわ」
 弟たちが口ぐちに叫ぶ。
「よう聞け。もう、一回鳴らすけんな」
 長男がノコギリを震わしながら、
「お・ま・え・ら・あ・ほ・か」。
と、マイクに向かってしゃべる。
「ほんま、のこぎりの音がそう聞こえるわ」
 弟たちが頷く。それに合わせて、観客が一斉に笑う。
「ほら、この笑い声で、アンドロメダ星雲も吹っ飛ぶやろ」
 長男は自慢そうに胸を張る。
「もう、一回、やるで」
 長男がのこぎりを引きながら、口からも声を出す。
「あ・ん・ど・ろ・め・だ・せ・い・う・ん・あ・っ・ち・い・け」
 弟たちも一斉に声を合わせる。
「さあ、お客さんも御一緒に」
「あ・ん・ど・ろ・め・だ・せ・い・う・ん・あ・っ・ち・い・け」
 そこに、司会者から「北斗七星ブラザーズさん、持ち時間が過ぎました。速やかに舞台から降りてください」のアナウンスが入る。
「兄ちゃん。もうやめろと言われてるで」
「わしらが、あっち行けいということかいな。ちゃん、ちゃん」
 最後に、「北斗星ブラザーズでした」と、兄弟全員が声を合わした。

 北斗七星ブラザーズの七人が舞台を下りた。
「さあ、今の笑いはどうだったでしょうか」
 司会者がマイクを片手に、心配そうに電光掲示板を見る。数字が出た。
「千笑いです。これで、アンドロメダ星雲の一つぐらいの星は向きを変えられるでしょう。それでは、ネクストのコンビに期待しましょう」
 司会者が舞台から袖へと引っ込んだ。
 その頃、北斗七星ブラザーズの楽屋では。
「ほんまに、アンドロメダ星雲がぶつかってくるんかいな」
 のこぎりを持ったまま、長男が尋ねる。
「なんや、兄ちゃん、知らんかったんかいな。あんだけ、新聞やテレビ、ラジオ、チラシ、フェイスブック、ブログ、ツイッタ―、ホームページ、絵手紙、紙芝居、井戸端会議、交換日記で、報道しとるで」
「なんや、井戸端会議って。まだ、井戸があったんかいな。それに交換日記も懐かしいなあ。のこぎりを磨くのに一生懸命やったさかい、気がつかんかったわ」
「どれだけ、磨いとったんや。テレビぐらい、つけとったらええのに」
「そんな、ながら族みたいに、中途半端なことではあかんやろ。心を込めて、のこぎりを磨かなあかんのや。それに、わしの分だけやないで、おまえら兄弟の分を全部、磨いとったんや」
 長男が楽屋の隅から、六本のノコギリを持って来る。
「ほい。これが二男。これが三男。四男。五男。六男。七男や。ほんまに大変やったわ」
「兄ちゃん、ありがと。ほんで、このノコギリでどないすんの」
「どないすんのんって。みんなで一緒に演奏すんのや。ほら、やるで」
 兄弟七人が一斉に演奏する。
「お・ま・え・は・あ・ほ・か」
 ノコギリの歌がする。
「あっ、はっ、はっ、は」
 兄弟たちが笑う。
「もう一回やるで」
 兄弟七人が一斉に演奏する。
「あ・ん・ど・ろ・め・だ・せ・い・う・ん・あ・っ・ち・い・け」。
「あっ、はっ、はっ、は」
 兄弟たちは、自分で演奏しながら大声で笑う。
「これでアンドロメダ星雲もどこかに吹っ飛ぶで」
「あっ、はっ、はっ、は」
 電光掲示板は、楽屋からの兄弟たちの笑い声を聞いて、一万笑いが表示された。アンドロメダ星雲のうち、十個の星が、あまりの馬鹿馬鹿しさに、銀河系から別の星雲に方向を変えた。
「さあ、みんな帰るで」
 長男が叫んだ。
「ほな、さいなら」
「さいなら」
 兄弟たちは、何事もなかったように、のこぎり片手に自分の家へとバラバラに帰って行った。

笑いは銀河系を救う「お笑いバトル」(4)

笑いは銀河系を救う「お笑いバトル」(4)

四 兄弟コント 北斗七星ブラザース

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-30

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