女子校生

恋の始まり方というものは、人それぞれ様々で、わからない。
どんなきっかけで「普通」が「好き」になるのか、誰にも予想がつかない。

この掌篇の主人公である吉川杏子も、前日までと何ら変わりのないある日を境に、クラスメートとして「普通」だった―いや、むしろ「普通よりちょっとだけ嫌い」だった―梅田明美に対して、淡い恋心を抱くようになったのであった。
しかも、十七歳、初恋。

意識をしないようにと思えば思うほど、杏子の視線は明美ただ一人に注がれ、「好き」の想いはむくむくと際限なく膨らんでいった。
杏子は、身体の中に薄いサーモンピンクの匂いが充満し、それが溜息として口から漏れ出すのを幾度となく感じた。
そしてそれは霞となって、杏子の視界にある種の麻薬的な効果をもたらした。
これが噂の、「恋は盲目」ってやつ。

こうして一気に「好き」の螺旋階段を駆け上がった杏子は、少女が自意識過剰から自殺を試みるように、ほとんど衝動に身を任せて、愛の告白メール(!)を明美に送り付けたのであった。
一時間後に返ってきたメールには、何やら良からぬ言葉―「それは恋じゃない」とか、「ただの友達」とか―が並んでいたけれど、それは杏子にとってはどうでもいいことであった。

携帯電話のアラームを六時に合わせてベッドに身体をあずけると、ただ一言、杏子は小さく呟いた。

「美少年になりたい」

それからは眠りにつくまで、杏子はひたすら明美の笑顔を思い浮かべていた。
明美は、笑うと小鼻がぴくぴくと動く。杏子は、それをいつも「かわいいな」と思っていた。

女子校生

女子校生

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-30

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