そら空 4
朝も、図書室は開いている。
愛輝は図書室に入ると、棚から茶色い箱に入った本を取り出した。
この間の悩みに愛輝が書き込んだところに、返事が来ていた。
《よかった・・・。》
数学の授業中。
愛輝の呼吸は、次第に速くなっていく。
《・・・ヤバ・・・発作が・・・》
愛輝は発作が出るとき、呼吸が速くなるのを覚えていた。
ッッッ!!!
数秒後、愛輝は咳き込み始めた。
授業は、一次中断。
が、いっこうに収まる様子も無い。
息が苦しくなっていく。
《おか・・・しいな・・・。薬は・・・のんだ・・・のにっ・・・》
いつもより、苦しい。
そう思ったとき、愛輝の意識はとんだ。
気がつくと、病院。
愛輝の鼻と口には、酸素を送る為の機械がつけられていた。
「・・・うっ・・・」
《肺が、すごく痛い。》
痛みをこらえながら、目を動かして周りを見た。
愛輝のベッドのすぐ脇にある棚に、きれいな花が飾られている。
それが、倒れて何日かがたっていることを愛輝に知らせた。
10分位して、看護師さんが入ってきた。
「起きたんですね。もう大丈夫ですよ、明日には帰れます。あ、薬飲んでくださいね~」
愛輝に取り付けられた機械を外しながら言う。
苦い薬を流し込まれて、痛みは分からなくなった。
《今日の発作、いつもよりきつかった・・・。また、クラスの皆に迷惑かけちゃった・・・。
「愛輝、あのね。」
母親から真剣な口調で話しかけられたのは、倒れてから5日後。
リビングのいすに、向かい合わせに座らされる。
「手術、受けてみない・・・?」
「え・?」
急な話に戸惑う愛輝。
「そりゃ、発作がなくなるのは嬉しいけど・・・」
「アメリカにね、愛輝を治してくれるお医者さんがいるのよ。」
「アメリカって・・・たかが咳の発作でしょ?たかが、ってきついけど・・・」
「違うの。愛輝にはもうひとつ病気があるのよ・・・。」
真剣な母親の目。
愛輝は信じられなかった。
今まで、そんなこと全く知らなかった。自分でも、ただの咳の発作だと思っていた。
入学式の前日の、雨の日に散歩なんかしたせいで、普通よりちょっとひどくなっただけ、と思っていた。
「・・・うそでしょ?」
愛輝の疑問に、母親はゆっくりと首を横に振る。
「ちょっと前まではね、原因不明の不治の病だったの。」
その病自体は、かかっていても命に別状は無い。
問題は、そこで別の病気にかかってしまうこと。
どれだけいい治療をしても、治らない。薬も、効果がなくなってくる。
治る病気も、命に関わるものにしてしまう。
愛輝の場合は、肺炎だった。
愛輝はしばらく呆然としていた。
《このせいなんだ・・・最初は、お医者さんも直ぐ治りますよ、っていってたのに・・・だんだんひどくなってったの・・》
「アメリカに手術しにいってから、帰ってこれるまで・・・どのくらいかかるの・・・?」
愛輝は、静かに聞いた。
「そうねぇ・・・すくなくとも」
言いにくそうに、母親が言う。
「愛輝の卒業式には、・・・でられないわ。」
「・・・。」
「最近アナタが楽しそうに学校に行くから・・・言いずらかったんだけど・・・。そのお医者さんがいる病院の枠がやっと空いたから・・・。」
一瞬、静かになった。
「・・・これを逃したら、治すチャンスは当分無いわ。」
《・・・折角、友達とも仲良くなれたのに・・・。
でも、もし、わたしが卒業まで居たいからって手術を受けなかったら・・・きっと、皆に迷惑をかける。クラスの先生や皆にも、家族にも・・・。》
「お母さん、私、手術受けるよ。」
そら空 4