君に似合う服

君に似合う服

 雪が降りそうな寒空の下、俺は1人で買い物に来ていた。
「急に寒くなってきたから、あったかいセーターが欲しいね」とジョーが言ったから。
 本当は2人で来たかったが、ジョーは博士に呼ばれてシステムメンテの手伝いに行っちまった。
 1人じゃ暇だったし、俺が選んだセーターをジョーが着ている図というのを見てみたくなったんだ。
 あいつに似合うセーターを、俺が選ぶ!!
 使命感に燃えて、俺は店の中に突進して行った。


「こちらのセーターなどはいかがでしょう?」
「うーん……ちょっとイメージ違うかな」
 好みの色とかジョーの体格を伝えて、お店の人に出してもらったセーターは、どれもジョーに似合いそうだったのだが……どうもピンとくるものがなくて、山の様に並べてもらった商品を前に、俺は唸っていた。
「なんかこう……うーん」
 どうも頭の中のイメージが具体的じゃなくて、うまく言葉で表現ができない。
 もっとジョーのあの雰囲気を引き立たせるような、こうざっくりとした感じの……ううむ、判らねぇ。
 頭を捻ってみると、商品を並べてもらっている棚の向こうのマネキンが着ているセーターが目に入った。
「――あ、あれ! あれがいい!」
「え、でもあちらは大きめサイズのコーナーで、この方でしたらちょっと大きすぎると……」
「いいから! あのマネキンが着てるヤツで!」
 山ほど出してもらった商品と全然違うヤツを選んで悪かったが、俺はあのセーターを着ているジョーが見たい。
 で、ついでに少しゆとりのありそうなパンツも買ってみた。
 ジョーは普段全体的にシルエットが細身のものを身に着けていることが多いから、たまにはこんなゆるめの格好をさせてみたい。
 俺はわくわくしながら会計を済ませ、家路を急いだ。


「え、セーター? 買ってきてくれたの? 今? ジェットが選んでくれたの? うわあ、ありがとう!!」
 最高の笑顔。
 こっちまで破顔する、嬉しそうなジョーの顔。
 こんな顔してくれるんなら、なんでもいくらでも買ってきてやる。
「着てみてもいい?」
「もちろん。俺も着てみたジョーを見てみたい」
「うん。ありがとう」
 袋を開けて、セーターを取り出す。そこでジョーがまた目を見開いた。
「あれ、もうひとつ……パンツも?」
「ああ。ついでにいつもと違う感じのをと思ってな」
「わあ、すごい嬉しい。楽しみ。すぐ着てみるね!」
 タグはとりあえずそのままで、ジョーは着ていたカットソーの上にセーターをかぶった。
 暖かい色合いでざっくりとした手編み風のセーターは柔らかい雰囲気で、よくジョーに似合っている。
 ……けどなにか、イメージしてたのと違う感じが……。
「ねぇ、これちょっと袖が長いみたい……」
 こっちを向いたジョーのセーターの襟元から見えるカットソーの色。
 差し色としてはいい色なんだが、今俺がイメージしているのにはちょっと邪魔な気がする。
「ちょっとそれ、もっと襟ぐりの広いヤツに……あー、今別に寒くないよな? じゃあそのカットソー脱いでくれないか?」
「え? これ脱いで、セーター直接着るの?」
「そうそう。これ肌触りいいし、別にちくちくしないだろ?」
「まあそれは大丈夫そうだけど……」
 ジョーが無造作にセーターを脱いでカットソーの裾を持ったのを見て、慌てて下を向く。
 カットソーの下にはなんにも着ていないみたいだから、そんな生着替えなんか見ちまったら、そりゃやっぱりほら、なあ。
「これでいいの?」
 ジョーの声に顔を上げると、素肌の上に直接セーターを着たのであろうジョーの姿。
 さっきと違って広い襟ぐりから見える鎖骨がやけに色っぽい。
 やっぱりかなりサイズが大きいのか、肩が落ちて手が指先しか見えていない。裾もお尻の下まですっぽりと隠す長さがある。
 つまりは全体的にぶかぶかで、子供が大人の服を着たような可愛らしさになっている。それでいて首元の色っぽさが破壊的で、そのアンバランスさが変にその……そそる。
 またこのセーターの下は何にも着ていない裸なのだと思うと、余計に危うい感じに見えてくる。
 やばい。
 確かに俺がイメージしてたのはこーゆー感じなんだが、この暴力的な色気はなんだ。
「ねえ、これやっぱり大分大きくない? こんなに肩落ちちゃうし」
「いやでも、似合ってるし……」
「そう? でも……」
 納まりが悪いのか、ジョーが肩や襟を引っ張ってみる。
 そのたびにちらちら見える胸元や肩口にドギマギする。
「あ……えっとその……」
 やばい。
 誘っているようにしか見えない。
 これは手を出しても……。
 と。
「あ、そっか、ごめん。パンツも履いてみなくちゃだよね」
 ぱっとジョーが顔を上げたので、慌てて出しかけた手を引っ込める。
 いかん。理性が飛びそうになった。
 落ち着こうと深呼吸していると、ジョーが袋からパンツを出し、セーターの裾を捲って履いているジーンズのベルトに手をかけた。ので俺は、焦ってまた顔を伏せる。
 ジョーは誘っているのか? 俺は試されているのか?
 着替え終わったら呼んでくれって、外に出ていた方が良かったのか?
 なんか我慢大会な気分だ……。
「このパンツもなんかゆるめな感じのシルエットだね。そういう感じの方が好き?」
「え?」
 ジョーの言葉の「好き」に反応して、つい顔を上げる。
 俺が買ってきたパンツのウエストあたりを持って、目の前に掲げているジョーの姿が目に入る。
 嬉しそうな微笑みを浮かべている顔。
 首からつながる肩へのライン。
 くっきりと影を作って浮かび上がる鎖骨。
 肩から先を覆って身体の線を隠すセーター。
 セーターの裾から伸びるしなやかな脚。
 ジーンズを脱いだ、その、素肌。
 ごくりと唾を飲む音が聞こえる。
「……ジェット?」
 ジョーの声がやけに近い。
 ぱさりとジョーが持っていたはずのパンツが落ちる音がする。
 柔らかなセーターの手触り。
 ジョーの腰に回った俺の左手。
「ジェット?」
 右手をセーターの裾から差し入れて、直接肌に触れる。
「――ジェット!」
 左手で掴んだセーターを下に引くと、広い襟ぐりのリブがさらに広がって、肩が露わになる。
「ジェット!!」
 目の前にあるジョーの肩に、俺は唇を押し付けた。


「もう、ばかばかばかばかばかばかばかばか!」
「そんなにばかばか言うなよ」
「だって……もう……ジェットのばかっ!」
 俺の目の前でジョーが乱暴に拳で涙を拭う。
 ベッドの上に座り込んで俯くその首元には俺がつけたいくつもの紅い印。
 身体に残した痕はほとんどセーターが隠しているが、襟ぐりが広いせいでそのあたりは隠せない。
 見えそうで見えない肩のラインや、スカートみたいな長さのセーターの裾からはみ出る、腿からふくらはぎにかけての素のままの肌。
 やたらと艶っぽくて、目が離せない。
「セーター僕には大きいから、お店で変えてもらえないかなとか思ったのに。こんなにしちゃったら、もう交換なんてしてもらえないし」
「交換なんか必要ない。そのままで着てろよ。俺はお前にそれを着せたかったんだし」
 こんなにしちゃったらってのは、その……なあ。まあだから、ちょっと汚しちまったかな、なんて……んなこと説明させんな。判んだろ。
「パンツだって、まだ履いて見せてなかったのに」
「別に今からだって」
「そしたらパンツまで汚れちゃうじゃないか。シャワー浴びてからじゃなきゃ、嫌だ」
 まあそりゃそうか。
「じゃあ、シャワー浴びに行こうぜ」
「……シャワー浴びて綺麗になってからこのセーターまた着るの嫌だ。洗濯したい。でもそしたら乾くまでセーターとパンツ一緒に着れない。せっかくジェットが買ってくれたのに。早く着てみたかったのに」
 完全に拗ねちまってジョーは顔も上げてくれない。
「悪かったよー。機嫌直してくれよ―。だってお前すげぇ色っぽかったからさー」
「……それに、乾いたってしばらくこのセーター着れないし」
「え、なんで」
 思わず聞き返したら、ばちんと叩かれた。
 頬はちょっと痛かったような気もしたけど、それより怒って上げたジョーの顔がものすんげぇ可愛かったから、痛みなんか気にもならなかった。
「こんなに見えるところに痕つけちゃって! 着れるわけないじゃないかっ!!」
「あー、そっか」
「あー、そっかって……」
 ジョーに見とれてボケたままの俺の返事に、ジョーが怒っているのかあきれているのか微妙な表情になった。
「んー、でもそれさ、俺の前だったら大丈夫だろ。俺と2人の時だけにしろよ、着るの」
「やだよ、せっかく……」
「俺がイヤなの」
 不満そうな顔のジョーを抱きしめてみる。
 んーん、いい抱き心地。
「それ着たお前さ、めちゃめちゃ可愛くてとんでもなく色っぽいの。だから他のヤツにそんなお前見せんの俺が嫌だ。俺だけのものでいろよ」
「…………ばか」
「知ってる。好きすぎて、お前のことになると俺すんげぇばかになるからさ」
 俺の腕の中でジョーの身体の力が抜けて、俺にもたれかかってきた。
 片手だけ、そおっと俺の背中に回してくるのが可愛い。
「ほんとばか。ホント君ってばかで、もう……大好きなんだから」


 翌日。
 無事乾いたセーターとパンツをセットで着てみたジョーは、思った通りめちゃくちゃ可愛かった。
 普段はスマートな感じで揃えているのが、こうゆるくだぼっとした感じでいるともう、小動物可愛がるノリでめいっぱい可愛がりたくなるような……とそこまで考えて気が付いた。
 俺がジョーに着せたかった服ってのは……これを突き詰めていくと行き着くのは……。
「なあ、ジョー。また俺服買ってくるからさ、俺の前でだけ着てみせてくれよ」
「……一体どんな服買ってくるつもり?」
 警戒気味の上目使い。
 うああ、そんな顔も次の服着せてさせてみてぇ!!
「動物着ぐるみのツナギ」
「却下」
「なんでっ!? 絶対可愛いって!!」
「嫌だってばっ! 何考えてんのさっ!」
「ジョーの可愛いコスプレ」
「ふーざーけーんーなーっ!!」
「俺は本気だっ!!」
「なお悪いっ!!」
 ぼかすか殴ってきたジョーの拳を受けながら、俺は決意する。
 ぜーったいジョーに着ぐるみ着せてやるっ!


THE END BY.HARUKA ITO & YUKI HOSHINO 20150129

君に似合う服

twitterで「萌え袖(のセーターを着ている)ジョーが欲しい」と書かれていた言葉に反応して、星野雪が描いたらくがきからの発展。
平ゼロ29いちゃいちゃでR-15。
なんか似たようなパターンばっかりになってきている気がしますが、きっと私らのとこの平29はずっとこんなことばっかやってんだろうなあという感じ?
何回ジョーに怒られてもジェットは懲りないし、怒っても結局ジョーは許しちゃう、みたいな。

君に似合う服

サイボーグ009二次。 腐向け。平29。 R-15。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-30

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