くちずさむ

まっさらな午後
誰もいない教室で
あの子は歌を口ずさむ

命が喉を震わせる
ふわりと優しく舌へ転がり
薄紅のアーチからこぼれ落ちる音

ひとつ、ひとつ
自分を誇示するかのように
静かに したたかに 跳ね回る

吐息に包まれたそれらは
ポップコーンのように放物線を描く

揺れる黒髪にじゃれつき
退屈そうにぶらついた脚にしがみつき
命が心を抱きしめる

壊れかけたレイディオのように的外れ
浅く沈み込んでは浮かび上がる
伏せられた瞳が
熱にとろける入道雲を切り取って
自分の身体へしまい込む
流れ落ちるは夏の名残か

煩わしさから逃れるように
蝉の声を追いやるように
小さな耳を押さえたままで

今日もあの子は命を吐き出す

くちずさむ

くちずさむ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-28

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