くちずさむ
まっさらな午後
誰もいない教室で
あの子は歌を口ずさむ
命が喉を震わせる
ふわりと優しく舌へ転がり
薄紅のアーチからこぼれ落ちる音
ひとつ、ひとつ
自分を誇示するかのように
静かに したたかに 跳ね回る
吐息に包まれたそれらは
ポップコーンのように放物線を描く
揺れる黒髪にじゃれつき
退屈そうにぶらついた脚にしがみつき
命が心を抱きしめる
壊れかけたレイディオのように的外れ
浅く沈み込んでは浮かび上がる
伏せられた瞳が
熱にとろける入道雲を切り取って
自分の身体へしまい込む
流れ落ちるは夏の名残か
煩わしさから逃れるように
蝉の声を追いやるように
小さな耳を押さえたままで
今日もあの子は命を吐き出す
くちずさむ